イスラエルで強硬右派たちがガザへの再定住を主張するイベント:「国家の意志でない」とネタニヤフ首相 2024.1.29

強硬右派政治家たちがガザ再入植を訴えるイベント

この繊細な時に、強硬右派の政治家たちを含むユダヤ教右派たちが、28日、エルサレムの国際会議場で、ガザへのユダヤ人の再定住を主張するイベントを開催した。

イベントでは、極右政党オヅマ・ヤフディ党のベン・グヴィル氏、宗教シオニスト政党のスモトリッチ氏ら12人の閣僚、15人の連立政権議員が参加。会場は満員の数千人であった。

主催者は、西岸地区のナハラ入植地と、西岸地区サマリア地区議会のヨシ・ダヤン代表で、いわば半公式行事の様相である。

イベントで右派たちが、訴えていたのは、ユダヤ人がガザへ再入植すること。それにともない、パレスチナ人はガザから撤退するべきだということである。

かつて、ガザには、ユダヤ人が入植して、優れたハイテクの農場を運営し、ガザのパレスチナ人たちも働きに来て、それなりに共存の様相もあった。

ところが、ユダヤ人たちへのテロ活動が活発になってきたことから、2005年、当時のシャロン首相は、ユダヤ人たちをガザから完全撤退させた。その2年後にハマスが、ガザを支配して、ガザの生活を最悪にしたということである。

*2005年までのガザのユダヤ人入植地

イスラエルは、1967年の六日戦争で、ガザからシナイ半島に至るまでを主権下に入れることになった。しかし、その翌年にエジプトと和平条約を締結する際、イスラエルは、ガザを含む市内半島全域を、エジプトに返還している。

ところが、この時、エジプトは、パレスチナ難民が多く住んでいるガザ地区については、問題を引き受けたくなかったのか、エジプト領として受け入れることをしなかった。この時から、ガザ地区は主権者がはっきりしない地域になったということである。

すると、それまでシナイ半島に住んで農業も始めていたユダヤ人入植者たちが、ガザへ移転し、そこで農業をはじめた。それ以来、2005年に撤退するまで、ガザには、21のユダヤ人入植地があり、ユダヤ人8000人が住んでいた。パレスチナ人ともそれなりに共存していた時代もあったのである。

このため、右派たちは、国際社会が、ガザを含むパレスチナ国家を設立すべきと言っているさ中でも、ユダヤ人がガザを支配する方が平和になると訴えているのである。

イベントでは、かつてガザで繁栄していた代表的なユダヤ人入植地の名前から、「グッシュ・カチーフに帰る時が来た。」と叫び、具体的にガザに6つの入植地を造る案が出されていた。

また、右派たちは、ガザは神がイスラエルに与えた地であるとも主張しているため、「神の意志により、私たちは勝利する」と叫び、イベントは、踊りまくりのカーニバルのようになった。

この様子がテレビで流れると、イスラエル国内のソーシャルメディアからも、戦争でまだ人質が戻らず、国境からは大勢が避難を余儀なくされ、戦地では、兵士たちが日々戦死しているのに、いったいこれは何事かと批判が相次いだ。

ネタニヤフ首相は、このイベントには参加していなかったが、後で説明を求められると、閣僚たちには意志を表現する権利があるとしながらも、政府としては、ガザにユダヤ人が再入植することには反対の立場であると説明した。

www.timesofisrael.com/12-ministers-call-to-resettle-gaza-encourage-gazans-to-leave-at-jubilant-conference/

石のひとりごと

ガザでの戦闘について、日本の大手メディアは、イスラエルが戦闘をやめれば、戦争は終わるという立場での報道を続けている。これは逆で、ハマスが、人質を解放するとともに、表に出て来れば、戦争は終わるというのが現状だとイスラエルは訴えている。

こうした中、イスラエルとハマスの戦闘について、いろいろ質問され、イスラエル側からの説明を試みるが、今のネタニヤフ政権が、強硬右派であるために、結局のところ、イスラエルは、ガザからパレスチナ人を追い出そうとしているのではないかと反論されてしまうのである。

今回の右派たちのこのイベントについても、会場は国会のすぐそばであり、政府はこれを許可したか、最低でも政府は目をつぶったということだろう。

参加した閣僚は12人で、会場が満員になるほどに集まっているところからすると、国内には、この右派たちと同じように、ユダヤ人がガザを支配するべきだと考える人は少ないのかもしれない。

今回のような右派たちの行動は、イスラエルのイメージを悪くすると懸念せざるをえない。イスラエルもまた完全に正義ではないと認めなければならないだろう。しかし、この右派たちが、完全に間違いだとも言い切れないかもしれない。

義なるお方は、神だけである。その神の視点で、正しくないものは、すべて裁かれる時が来る。それがどういう形になるかは、だれにもすべてはわからない。だからこそ、恐れをもって神の前にへりくだることを聖書は教えている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。