過越2018:ガザ国境デモでパレスチナ人15人死亡 2018.3.31

イスラエルでは、30日日没から4月6日まで、過越の例祭に入った。聖書に記されている通り、初日と最終日は、聖なる日とされ、安息日扱いになる。今年も休日返上で、多数の治安部隊が治安を守っている。

西岸地区、ガザ地区では、30日日没から7日日没まで、一部の農業従事者をのぞいて、パレスチナ人のイスラエルへの入場は不可となる。またYネットによると、過越の先立ち、イスラエル国内に違法滞在していたパレスチナ人468人を逮捕した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5204864,00.html

こうした中、イスラエルで過越の第1日目、セデルが祝われる金曜になり、予告されていた通り、ガザ国境で、パレスチナ人とイスラエル軍との大規模な衝突が発生。夜までにパレスチナ人15人が死亡(パレスチナ側情報)。衝突はその後もまだ続いている。

<ガザで大規模デモ:イスラエル軍と衝突でパレスチナ人15人死亡>

ハマスは、3月28日(金)から5月14日のイスラエル独立記念日(西暦による)まで、イスラエルとの国境で、「偉大な帰還へのマーチ」と称する大規模な市民デモを計画し、広くガザ市民に参加を呼びかけていた。

ハマスは、イスラエル領は、あくまでもパレスチナ人のものだと主張しており、そこへ”帰還する”ことを決して諦めないと主張している。

ハマスのハニエ指導者によると、このデモの目標は、”パレスチナ全体(イスラエル領)への帰還”であり、今回はその始まりであると人々を先導している。ハマスは、トランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都としたことにも激しく反発している。

ガザとイスラエル国境付近では、これまでからもデモで行われてきたが、大きな衝突にまでは発展しなかった。しかし、先週から、ガザからパレスチナ人の侵入が相次いぎはじめ(以下の詳細)、金曜、”土地の日”には、ガザ市民が群衆となってイスラエル領内へ入り込んでくる可能性も懸念された。

このため、イスラエル軍は木曜、武力衝突は望まないとしながらも、国境付近に100人以上の射撃手を配備し、必要時は実弾も使用すると警告。リーバーマン防衛相は、ハマスの呼びかけに応じて国境に来る者は、永遠にイスラエルへの入国を許可しないと釘もさし、後には、侵入しようとするものには、「命に危険が及ぶ」とも警告した。

ところが、金曜になると、これらの警告を無視した数千人のパレスチナ人たちが、イスラエルとの国境数100メートルの地点に集結。タイヤを燃やしたり、イスラエル軍に投石したりした。

これに対しイスラエル軍は、直ちに国境を封鎖。主に扇動者を標的に銃撃し、暴徒には催涙弾や、ゴム弾なども使って対処した。イスラエル軍が、無人のドローンで上空から暴徒の頭上に催涙弾を使っているという報告もある。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5211564,00.html

パレスチナ側情報によると、この衝突により、金曜午後10時の時点で、パレスチナ人15人が死亡。少なくとも2476人が負傷している。衝突はまだ続いており、死者はまだ増えつつある。

犠牲者のうち1人は、国境での衝突ではなく、朝8人に農作業していたとみられる人が、イスラエル軍の戦車砲で死亡したとのこと。

イスラエル軍スポークスマンによると、死亡したパレスチナ人は、1人を除いて皆、フェンスを越え、イスラエル側へ侵入を試みたもの達だという。混乱の中で、7歳の女の子がイスラエル側へ越境しようとしたが、イスラエル軍が保護し、両親に返したという一件も伝えられている。

Yネットによると、ハマスは、より多くの人々がデモに参加できるよう、国境までの送迎を手配するなどして、10万人の参加を予測していたが、実際にデモに参加したのは2万から2万5000人(メディアによっては3万人)とみられる。

参加者の中には、幼い子供達を伴う家族づれもいる。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5210347,00.html

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/LIVE-COVERAGE-Multiple-dead-and-hundreds-hurt-as-Palestinians-clash-with-IDF-on-Gaza-Border-547534

<過越に先立つ1週間:ガザからの侵入続発・軍事演習も>

過越に先立つ1週間の間、ガザ地区からは、パレスチナ人がイスラエル領内へ侵入する事件が4件も発生した。

25日(土)、ガザから4人のパレスチナ人が、イスラエルへ侵入し、建設中の防護壁工事現場の設備に放火しようとして逮捕。

27日(火)、ガザ地区から武装したパレスチナ人3人が、イスラエル領内南部20キロのゼエリムイスラエル軍基地周辺で逮捕された。3人は、手榴弾とナイフを持っていた。これについては、3人が侵入してから逮捕されるまで数時間かかったことが問題だとして、調査がすすめられている。

28日(水)、武器を持たないパレスチナ人1人が侵入した直後に逮捕。29日(木)、パレスチナ人2人が、ナイフとワイヤー切りを持って侵入し、逮捕された。

ハマスは、25,26日と、ガザ国境で、3万人の戦闘員が、ロケット弾やミサイルも登場するようなスケールの大きな軍事訓練を行った。

www.timesofisrael.com/hamass-defensive-drill-seen-as-a-warning-to-israel-abbas-and-trump/

急に南部情勢が悪化していることについては、今月、パレスチナ自治政府のハムダラ首相がガザで暗殺未遂になったことで、関係が悪化しており、だれが、パレスチナ人のボスかを証明する必要があったとの見方がある。

一方、ハマスがイランの指示でこうした動きに出ている可能性もある。イランは、先月、イスラエルにドローンを送り込み、イスラエルがシリア領内のイラン関連基地を複数空爆した。ロシアの介入で、大きな戦争には発展しなかったが、イスラエルとイランの対立は、徐々に深まりつつある。

<西岸地区でも衝突:パレスチナ人60人負傷>

金曜「土地の日」には、ガザだけでなく、西岸地区でも、ガザのソリダリティだとして各地で暴動が発生。イスラエル軍と衝突した。これにより、ナブルス近郊で27人が負傷。全体では60人が負傷している。

www.timesofisrael.com/over-60-palestinians-injured-in-scattered-protests-across-west-bank/

<イスラエル国内の様子:神殿の丘南側で過越の儀式>

ガザで深刻な事態になっているが、国内では、例年のように、安息日の静けさの中、家族、親族、友人たちが集まって過越のセデル(出エジプトのストーリーからなる式次第と食事)を行っている。

これに先立ち、26日(月)、神殿の丘すぐ南下、アルアクサモスクのすぐ下で、規定通りの白い祭司服に身を包んだコーヘン一族たちが、越の子羊を生贄いする儀式を行った。

これは、宗教シオニストたちによる毎年恒例の行事で、これまでは、エルサレム郊外、昨年は旧市街のユダヤ地区、今年は神殿南側と、徐々に神殿に近づいている。今年の参加者は、第3神殿推進派のユダ・グリック議員など数百人。

この儀式がこれほど神殿の丘近くで行われたのは、今年が初めてで、これを許可したイスラエル政府に対し、ヨルダンが、挑発的だと抗議の声をあげている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Jordanian-Minister-slams-Israel-for-allowing-Jewish-ritual-near-Al-Aqsa-547415

www.timesofisrael.com/palestinians-to-protest-friday-after-jews-sacrifice-lambs-near-temple-mount/

<クリスチャンは復活祭>

クリスチャンは、25日、パームサンデーで、オリーブ山からエルサレム旧市街に向かって、今年も世界中からカトリックとプロテスタントの群衆が、やしの葉を手に、賛美しながらマーチを実施した。今週日曜はイースターである。

i24news.tv/en/tv/replay/news/x6gufih

東方教会(オーソドックス)クリスチャンのイースターウィークは1週間遅れで、パームサンデーが4月1日、復活祭が、4月6日。聖墳墓教会では、1000年以上続けられてきた聖火の儀式が行われる。

<過越を前に:”シオンの自由”コイン発見>

過越は、ヘブル人(イスラエル)の出エジプトを記念する祭だが、その直前、タイムリーにも、”シオンの自由”と彫り込んだ約2000年前のコイン多数が、神殿の丘南側オフィルエリアでみつかった。発掘はヘブライ大学のエイラット・マザール博士のチーム。

このコインは第一次ユダヤ戦争で、ユダヤ人がエルサレムに立てこもって戦ったが、最終的にローマ帝国に包囲されて滅ぼされ、神殿も破壊されたころ(69-70AD)のもの。

コインは銅製で、仮庵の祭にちなんだ4種の植物や、神殿祭司が使用した杯が彫り込まれている。

また興味ふかいことに、この時代前半には、「シオンの自由のために」と彫り込まれていたのに比べ、全滅寸前の今回発見されたコインには、「シオンのあがないのために」と彫り込まれている。

「自由」「あがない」といったことばは、まさに過越にふさわしいとマザール博士。博士によると。こられのコインが見つかった洞穴は、第二神殿時代から手付かずであったため、タイムカプセルのようだと語る。

www.timesofisrael.com/rare-trove-of-bronze-jewish-revolt-coins-unearthed-near-temple-mount/

この周辺では、預言者イザヤ本人のブラエ(印鑑のようなもの)もマザール博士のチームによって発見されている。

このブラエは、8世紀、第一神殿時代からのもので、「イシャヤフ(イザヤ)」という名前とともに、預言者を意味するナビと思われる文字が刻まれていた。

しかし、左上に欠けがあり、預言者を表すヘブライ御の最後の一文字が欠落しており、可能性はあるものの、はっきり預言者イザヤとは断定はできないという。

なお、この同じ場所では、ヒゼキヤ王のブラエも見つかっている。

www.timesofisrael.com/in-find-of-biblical-proportions-proof-of-prophet-isaiah-believed-unearthed/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。