米議会・ネタニヤフ首相演説とその結果・意義 2015.3.4

先月からイスラエル、アメリカ両国内で物議となっていたネタニヤフ首相のアメリカ議会でのイランとの合意に反対する演説について。

イスラエル国内からも相当な反対意見があったが、ネタニヤフ首相は、嘆きの壁で祈った後、予定通り渡米。まずはAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)のカンファレンスで演説し、親イスラエル派らの絶大な支持を受けた後、昨日火曜、議会において演説を行った。

今回、ネタニヤフ首相が、議会の招聘に応じて演説するのは、期限が3月末と迫ったイランと、P5(アメリカとヨーロッパ、ロシア、中国)との核兵器に関する合意に反対する意見を述べるためである。演説内容の骨子は以下の通り。

演説全文:http://www.jpost.com/Israel-News/Politics-And-Diplomacy/Full-transcript-of-Netanyahus-Speech-to-Congress-392803

1)イランは言っていることと行いが違う

①中東は今不安定になっており、政府不在の国もある。そういう穴へイランが進出している。ガザ、レバノン、シリア、イエメンなど。
ゴラン高原にもイラン革命軍がいて、イスラエルを挑発している。

②ロウハニ大統領やザリフ外相は穏健派への変化を主張しているが、実際には、上記のような動きがある上、同性愛者を絞首刑にし、キリスト教徒を迫害し、ジャーナリストを拘束しているというのが現状。信用できない。

③イランがISISと戦っているからといってだまされてはいけない。両者は同じ目的のために競争しているだけである。イランは、イスラム共和国、ISISはイスラム国と自称して、双方とも最終的には世界を治めるイスラム帝国を目指しているのである。

敵の敵は敵である。ISISを撃退しても、イランが核兵器を持つようになるなら、結局は敗北を意味する。世界最大の脅威は、イスラム武装組織が核兵器を手にすることである。

2)なぜ今回のイランとの合意が悪いのか

①経済制裁緩和との引き換えが、期限付きでの核開発施設の停止だけで、排除ではないという点。合意で遠心分離機の一部が停止しても、合意期間が終われば、再開できる状態で温存される。

②合意機関は10年と短い。10年はあっという間である。合意が終われば、イランは国際社会からの承認を得た状態で核兵器の開発を促進させ、すぐに核保有国になる。

3)ではどうするのがいいのか

イランが基本的な方針を変え、背後で行っているようなテロ支援活動をやめるまで制裁を続ける。イランが、明らかに方針を変えてから制裁緩和を考えるべきである。*今回の合意は、テロをやめないテロ団体に甘いお菓子を与えるようなもので、有効な対策ではないということ。

<アメリカの反応・イスラエルの反応>

オバマ大統領は、アメリカとイスラエルの友好関係が変わる事はないとしながらも、ネタニヤフ首相の演説は聞きもせず、原稿を読んだだけで、「これまでと同じ。ネタニヤフ首相は、何の有効な代替策も示さなかなった。」と一蹴するコメントを出した。(BBC)

イスラエル国内の反応もなかなか厳しい。Yネットは、ネタニヤフ首相が、1993年にもイランに関して同様の発言をしていたことを上げ、”危機的なイランの核兵器保有問題”がもう20年以上も続いていると皮肉る記事を出している。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4633272,00.html

また、実際にはネタニヤフ首相の議会での発言が、現実状況にほとんど影響を及ぼさない事も批判の種になっている。

アメリカの法律によれば、議会が大統領の方針(イランとの合意)をさしとめるためには、”圧倒的”多数の議員が反対する決議を2回通らなければならない。議会には共和党だけでなく、オバマ大統領所属の民主党議員も多数いる。最初から、”圧倒的”多数はありえない。

さらに、たとえ、議会が大統領への反対決議を出したとしても、大統領は、これに対する拒否権を持っている。オバマ大統領は、すでに、議会に反対される事態になった場合は、拒否権を発動すると言っている。

さらに、たとえアメリカが反対意見を出したとしても、ヨーロッパとロシア、中国がイランとの合意に賛成すれば、そうなってしまうのである。

つまり、今回、ネタニヤフ首相は、何かを変えるというよりは、これまでも主張して来たイランの本当の姿を今一度、世界に発信することが大きな目的ともいえる。預言者と同様、ネタニヤフ首相が正しかったかどうかは、後の世が判断することになる。

<今後の課題>

今回、ネタニヤフ首相がオバマ大統領を無視する形で議会に赴いたことで、両者の関係に表向きはどうあれ、ひびが入った事は確かである。もしネタニヤフ首相が次期政権もとった場合、そういうホワイトハウスとのぎくしゃくした関係の中で外交を行って行かなければならない。

しかし、事態は思わぬ方向に進むかもしれない。イランの方で、アメリカを含むP5の合意案を受け入れない可能性がある。

ネタニヤフ首相が米議会で演説をしていた間、ケリー国務長官は、スイスでイランのザリフ外相と会談していたのだが、ザリフ外相は、むこう10年の間の部分的な遠心分離機の停止を拒否しているという。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4632934,00.html (Yネット)

つまり、ネタニヤフ首相が大騒ぎせずとも、この交渉が頓挫する可能性があるのである。しかし、喜んではいられない。もし本当にイランとの交渉が頓挫した場合、もう打つ手が残っておらず、いよいよ軍事介入しか選択の余地がなくなってしまう。

軍事介入がそう簡単にすすむとも思えず、私たちはいつか、イランが核兵器保有を宣言する日を見るのかもしれない。。。。

<明日からプリム>

イスラエルでは、明日からエステル記のプリムの祭りが始まる。イランは現代のペルシャである。現在のペルシャもイスラエルの壊滅をもくろんでいるということで、皮肉にも人々が主の奇跡を思い描きやすくなっているようである。

明日、あさっては、子供たちの学校は休み。各地で様々なイベントが行われ、子供たちを始め、大人も仮装して町へ繰り出す、楽しい2日間となる。・・があいにく天気は芳しくなさそうである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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