シャブオットとラマダン 2017.6.2

トランプ大統領来訪、エルサレム統一50周年記念、さらにその2日後の26日、イスラム教のラマダンが始まった。その3日後の30日から31日にかけては、ユダヤ教のシャブオット(7週の祭り)であった。エルサレムはなかなか忙しい町である。

1)シャブオット:5/30,31

シャブオットは、過越の祭りから数えて50日目(7週)を覚える例祭で、過越を終え、出エジプトを果たしたイスラエル人たちが、50日目にシナイ半島に到着し、十戒(律法)を授かったことを記念する。イスラエルでは国民の祝日となる。

多くのシナゴーグでは、30日、日没後の夜中から朝まで、聖書の勉強会が開かれた。

またシャブオットは、1年で最初の収穫(小麦)を祝う時期でもある。このため、上記ように律法を与えられたことを覚えるとともに、収穫にまつわる話であるルツ記を朗読する。

広い農場や、牧場を併設するキブツやモシャブでは、小麦の束を積み上げ、皆で集まってダンスをしたりして、建国時代を思わせるイスラエルらしい風景になる。この日は、特にチーズなど乳製品を食べる日としても知られている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4969502,00.html

www.jerusalemonline.com/news/in-israel/local/israel-celebrates-shavuot-28815

都会人たちは、国民の祝日で休みの中、友人知人を招くなどして家で楽しんだり、国立公園やビーチで楽しんた。イスラエルのメディアによると、今年も2万人がガリラヤ湖畔を訪れたという。イスラエル版、芋の子を洗うようなビーチである。

www.timesofisrael.com/israelis-crowd-beaches-parks-on-shavuot-holiday/

<シャブオットの意味:新しい国の誕生〜ラビ・フォールマンからのヒント>

シャブオットは、律法を授かったことを記念するが、これはまさにイスラエルが、ひとつの国として、この世界にデビューしたことを意味する。

律法(法律)というものは、その国を形作るもの、アイデンティティである。法律をみれば、その国がどんな国であり、何を重んじているのかがわかる。いいかえれば、国になるためには、皆が合意する法律がなければならないのである。

出エジプト直後のイスラエル人は、まだ奴隷の集まりにすぎなかった。しかし、シナイ山で、神ご自身から律法をもらったことにより、イスラエルという国になったということである。その法律を、人間が考え出したのではなく、神(主)から直にいただいた、つまりは主直属の国は、世界でもイスラエルだけであろう。

ここでなぜ、神は、出エジプト(過越)から、律法を与える(シャブオット)まで50日待ったのかを考えてみる。過越からシャブオットまでの50日の間に何があったのかというと、マナ(パン)が天から降ってきたということである。(出エジプト16章)

神、主は、このマナを通して、奴隷としての生き方しか知らない人々に、神直属の国の国民として生きるようになるための備えをしたとラビ・フォールマンは考えている。

かつての主人、エジプトのパロは、彼らの苦情にはいっさい耳をかさず、自分の利益のために働かせるためにのみパンを与えた。ところが、マナは、イスラエル人が空腹になり、リーダーであるモーセに苦情を言い始めたことを聞いて、神が与えたものであった。

前の主人と違い、新しい国の主は、彼らの苦しみに耳を傾け、自分の利益のためではなく、彼らのためにのみマナを与えたということである。これは、上に立つものから長年傷つけられてきた人々に癒しを与え、新しい国の新しい主人の概念を変えるためであった。

次にマナには、幾つかの決まり、つまりは初級の法律があった。①1日に一人1日分(オメル)だけ集める、②余った分を取りおいてはならない、③安息日前には2日分集め、安息日には集めてはならない。

ところが、聖書によると、この教えに反して欲張り、1日に1オメル以上集めた者、また1日分を集められなかった者がいたが、帰ったらどの人の袋にも1日分が入っていたという。また明日のためにと、取りおいた分は虫がわいて臭くなった。安息日前には、マナは2倍降り、安息日にはマナはふらなかった。

つまり、このマナに関する決まりは、破ろうにも破れないものであったということである。明日のための必要はおろか、結局のところ、律法を守れるようにしてくださるのも神ご自身であるということである。これらを経験させたのちに、厳しい十戒を与えられたのであった。

シャブオットは、このように、イスラエル人が、奴隷から神の国の民となり、神の支配の中に入ったことを記念する大事な祝いの日である。

そうしてこの後の時代に、イスラエルに来られたのがイエスである。イエスの弟子たちは、このシャブオットの日にエルサレムで、聖霊を受けるという経験をした。(新約聖書・使徒の働き2章)

イエスによって罪の奴隷というところから自由にされたが、その時点ではまだ奴隷生活しか知らなかった。しかし、この日聖霊を受けることにより、律法が心に書きしるされ、本当に新しい神の国の国民になった、ということである。これがペンテコストである。

次の日曜日、ペンテコストを祝うすべての教会の祝福を祈る!

2)エルサレムのラマダン:5/26より6/23まで

シャブオットの3日前、26日から、イスラム教のラマダンが始まっている。エルサレム人口の36%、約32万人が、イスラム教徒であるから、ラマダンは、エルサレムにとっても大事な行事である。

ラマダンとは、モハンマドが、神からの啓示、コーランを受け取ったことを記念するイスラム教の行事である。30日間、日の出から日没までの間、飲食をまったくせずに過ごす。

ラマダンは、イスラムの5つの義務、①アラーへの信仰の告白 ②1日5回の祈り ③貧しい人への寄付 ④ラマダン ⑤メッカへの巡礼の一つで、断食のほか、喫煙や性交渉も控えるなどして祈りに専念し、アラーにより近づくことを目的としている。

イスラム教は月暦なので、毎年ラマダンの時期は変わるのだが、夏になると非常に苦しいラマダンとなる。ことしのラマダンも夏、しかも熱風(ハムシーン)の季節と重なった。エルサレムでは、夕方は15度前後になるものの、日中は、炎天下で25度以上になる。

夏なので、日が長く、断食時間は16時間に上る。水も飲まないとなると、屈強なイスラム男子たちにとっては非常に苦しい1ヶ月になる。*子供や妊婦、病人などには厳しい規制はない。

仕事は休む人もいるらしいが、通常は生活のために働かなければならない。旧市街では、観光客を相手にしているため、レストランも普通に経営している。断飲食しながらの給仕はなかなか難しい仕事である。

先日、グループとともに午後に旧市街であるレストランに入った。屈強そうなイスラム男性の店員がいたが、目が若干充血し、少々へろへろの感じだった。いつもはにこにこしている人である。

精算時、予想したより高かったので、つめよると、「ラマダンなんだよ。わかってくれよ。頭がまわってないんだよ。」と何度も言われた。・・・がそれは、ぼってもよいということにはならない。しっかり計算してもらったら20ドル以上安くなった。

のちに夕方、オリーブ山から乗ったタクシーのおじさんは、いらついてクラクションを鳴らしていたが、同時に「ラマダンだからね〜」と笑った。「でもラマダンの時は、飯がこれまたうまいんだ。あと1時間ぐらい。」と実感を込めて言っていた。

なお、エルサレムでは、ラマダンが始まってから、夕方以降、特に交通渋滞が激しくなっている。イスラム教徒のタクシー運転手によると、暑いので、みな日没後に神殿の丘へ来ているという。どうりで昼間の旧市街は、いつもより若干、空いているようであった。

<エルサレムへのアラブ人入場規制緩和>

毎年のことだが、イスラエルの治安部隊は、ラマダン期間中、神殿の丘へ祈りに来る西岸地区のイスラム教徒のために、神殿の丘への入場規制を緩和する。

西岸地区在住の男性で、30−40歳の場合は、ラマダン期間中でもエルサレムへ入るための許可が必要だが、40歳以上の男性と、女性、ならびに12歳以下の子供たちは許可なしでよいとされる。

*これについては賛否両論である。年配だから、女性だからといって安全ではないからである。

また、イスラエル領内と、西岸、ガザと離れ離れになっている家族が互いを訪問するための許可が20万人に発行されている。

ガザ地区住民については、ラマダン期間中、55歳以上に限って金曜に100人、その他の日は300人に許可が出る。ただし、ガザから神殿の丘まではシャトルバスで直行し、イスラエル領内へ入り込まないようになっている。

www.timesofisrael.com/israel-to-ease-access-for-palestinians-during-ramadan/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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