2022年中ウクライナ・ロシアからのアリヤ5万人見通し:4代目ユダヤ人まで移住権利拡大も論議か? 2022.10.10

2017年写真

2022年イスラエルへのウクライナ・ロシア系ユダヤ人5万人予想:受け入れ準備間に合わない?

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、まずはウクライナからの移住希望者が殺到。今は、プーチン大統領が国民に対し、部分的とはいえ、徴兵を開始したことで、ロシア人たちで、徴兵の対象になりうる男性やその家族がいっせいに出国を試みるようになっている。

同様に、ロシア国内にいるユダヤ人たちも、男性たちやその家族の多くがイスラエルへのアリヤを試みている。ユダヤ人は特に、ロシアのユダヤ機関がいつまでその働きを続けられるか、先行きが見えないという不安材料もある。

モスクワで、ロシアに残留しているユダヤ人をケアしているハバッド派のラビ・ボルチ・ゴリンは、ロシア系ユダヤ人は確実に減っており、今年、ヨム・キプールにシナゴーグへ来た人は、いつもより20%少なかったとのこと。

ラビ・ボルチによると、今の所、ユダヤ帰還はなんとか機能を継続できているようだとのこと。

ロシアからの直行便に乗ることは難しくなっていることから、多くは、いったん隣国へ出国し、そこからエルアルなどの飛行機でイスラエルに到着する流れである。現時点で4万人(ウクライナ系1万6000人、ロシア系2万4000人)がすでにイスラエルへの移住を果たしたが、2022年中にその数は5万人に達するとみられている。

しかし、それほどの移住者を受け入れる準備が、イスラエル国内に整っているかどうか、疑問視する記事もある。エルサレムポストによると、タマノ移住相が、今年新移民受け入れのための予算10億シェケルを要請した結果、承認された予算は、わずか9000万シェケルだった。

ロシアから来るユダヤ人は、戦場からの避難民ではないので、難民扱いにするかで合意できていないのである。難民扱いでなければ、手厚い支援はしないということで、この金額なのだろう。

また、興味深い課題として、ロシアから移住した人は、オリガルヒ(ロシア富豪)への制裁の影響で、イスラエル国内で、銀行口座を持つことができないという。こうなると、支援金の受け取りや、外国からの送金受け取りもできず、イスラエルでの生活は、難しいだろう。

ヘブライ語取得の問題もある。移住者が、生活のためのヘブライ語を学ぶ教室をウルパンというが、その教室が全然足りないという。

また、これまでにイスラエルにきたものの、ユダヤ人ではないとして、移住プロセスにも乗れず、難民扱いもうけられずといった人々が少なからずいる。こうした人々の救済のためか、リーバーマン財務相が以下の提案を出した。

www.jpost.com/diaspora/article-719086

イスラエル移住権条件を4代目まで緩和を議論か:フィンランドとアゼルバイジャンに移住前ユダヤ人滞在施設も

自身もロシア系のリーバーマン財務相は、ロシアからの移住を助けるため、イスラエルへの移住権を認める人の範囲を、“一時的”扱いでもよいので、4代目まで拡大することを提案。11日に国会で論議されるみこみになっている。

現時点での帰還法では、祖父母4人のうち少なくとも1人がユダヤ人であるか、正式にユダヤ教に改宗した人(かなり困難)であれば、イスラエルへの移住権があるとされる。(実際に移住できるかどうかはその後の審査による)

リーバーマン財務相は、それを、曽祖父母のうち少なくとも1人がユダヤ人である人に移住権を認めるとして、4代目まで拡大するということである。こうなると移住希望者が倍増することにもなるため、ラピード首相は、国会で話し合わなければならないと言っている。

物議をかもす提案だが、リーバーマン財務相は、帰還法を先に変更しようとしたのは右派たちだと反論している。ネタニヤフ元首相など右派勢は、ユダヤ人意外のロシア人が、イスラエルへ移住することを防ぐため、移住の権利を両親のうち1人はユダヤ人と、その条件範囲をせばめようとしているのである。

www.timesofisrael.com/liberman-proposes-easy-entry-for-great-grandchildren-of-jews-in-wake-of-ukraine-war/

激増するロシアからの移住問題に関して、イスラエル政府は、フィンランドとアゼルバイジャンに、移住前のロシア系ユダヤ人が、手続きを終えるまでの数ヶ月の間、一時的に滞在できる専用施設を、ユダヤ機関が設立することを許可するとした。

www.jpost.com/israel-news/article-718819

ロシア滞在を決めるユダヤ人:反ユダヤ主義懸念

多くのロシア系ユダヤ人が、ロシアから出国し、イスラエルや第三国を目指している一方、自分はロシアのユダヤ人だとのアイデンティティを維持しようとするユダヤ人もいる。ユダヤ機関によると、今年の夏に、ユダヤ人子供キャンプなどのプログラムに登録した人は、過去10年間で最大だったという。

この人々は、ロシアに残る覚悟をした以上、子供たちに、自分はユダヤ人であるということを忘れないようにさせようとする心理反応が表れていると言われている。ロシア系ユダヤ人の分断が指摘されている。

しかし、そうなると、同様に、今もロシアから脱出せずに残っているロシア人の中には、真摯に祖国ロシアを愛する人や親プーチン派もいるだろう。そうなると、ゼレンスキー大統領がユダヤ人であるということからも、反ユダヤ主義暴力が増える可能性も懸念されるところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。