カイロでの交渉はラマダン開始後に持ち越しへ:交渉継続に奔走するアメリカ 2024.3.8

March 7, 2024, in Washington. (AP Photo/Andrew Harnik)

カイロでの交渉は結果ないままハマスも撤退

カイロで行われていたハマスとイスラエルとの交渉。イスラエルはパリでアメリカ、エジプト、カタールと同意した妥協案、すなわち、6週間(ラマダン期間)の一時停戦と、その間に人質40人を返還する。代わりにパレスチナ人テロリスト400人を釈放するという案を土台に交渉を進めようとしている。とりあえず、まずは、ハマスに生きている人質の名簿を出すよう要求したのであった。

www.timesofisrael.com/israeli-officials-hamas-is-signaling-rejection-of-latest-hostage-deal-proposals/

ところが、ハマスは、この交渉に応じる動きはなく、人質の名簿も不明として提出していない。それどころか、以下のように条件を強化した形である。相変わらず、強気姿勢を崩していないということである。

①人質を解放する前にまずは停戦を成立させる、②イスラエルはガザから完全撤退する、③すべてのガザ市民をガザ全土へ帰宅させる、④イスラエル人人質の生死、名前は不明。(現時点で134人。このうち少なくとも30人は死亡しているとみられている)

いわば、イスラエルに敗北を求めるようなもので、これをイスラエルが受け入れることはない。イスラエルは、交渉団をカイロに派遣していないままであった。ネタニヤフ首相は次のような声明を出した。

「イスラエル軍はガザ全土で、ハマス戦闘員すべてとの戦いを継続する。ハマスの最後の砦であるラファへの攻撃も行う。ラファへの攻撃を止めるようにという者は、イスラエルに敗北を認めるようのと言っているのと同じである。したがって、そうなることはない。」

この後、ハマスの代表団は、10日から始まるラマダンに備えてか、カイロを後にし、今回も交渉は結果なく終わった。最悪なことに、ハマスのガザ内部首謀者シンワルは、東エルサレムの神殿の丘を含め、各地で暴動を起こすようにとパレスチナ人を扇動する声明を出している。

今の状態は、いわば、一車線道路で対抗する車が向かい合ったまま、どちらも譲らないという状況である。10日に始まるラマダン中に、イスラエルがどういう攻撃をするのか、どんな反撃が始まるのか、世界はただ懸念するばかりとなっている。

アメリカの呼びかけ:とにかく人質を解放せよ

Times of Israel によると、イスラエルの交渉団がカイロに来ず、ハマスもカイロから去ったのだが、アメリカはまだあきらめていないようである。アメリカは、段階を追っての計画を主張している。

まず第一段階として、人質を解放させる。その中で、イスラエル軍の“再配置”と、ガザ市民のガザ北部への機関も可能になると言っている。後で述べるが、アメリカは、これに向けて、海上からの支援物資搬入を計画中である。アメリカのバイデン政権の高官たちは、ハマスに、ともかく、今は女性や高齢者などの人質はとにかく解放すべきだと避難の声を上げた。

アメリカは、今回の交渉が終わったわけでなく、ラマダンが始まってからも継続するとの考えを語っている。

しかし、たとえ、ハマスがこれに従ったとしても、イスラエルは、ガザ市民たちの北部への帰宅をまだ受け入れないだろう。すでに市民たちに混じって、ハマスがガザ北部へ戻りつつあり、すでのそれらとの戦闘が始まっているからである。

ラマダンを前に、アメリカは少しでも戦闘での犠牲者を防ごうとしているようだが、状況は厳しいといえる。

www.timesofisrael.com/us-says-hamas-holding-up-6-week-ceasefire-by-refusing-to-release-vulnerable-hostages/

金でエジプトへ逃避するガザ市民も:シンワルの甥と姪脱出成功か

November 3, 2023. © Said Khatib, AFP

ラファには、140万人とも言われる難民がテント生活をしている。イスラエルは今、この中に隠れているシンワルとハマス最後の部隊を攻撃しようとしている。このため、なんとかしてエジプトへの逃避を急ぐ難民が相次いでいるようである。

エジプトは、ガザから避難民が入ってこないよう壁をつくっているのだが、そこは中東である。費用を払えば、脱出できる道はある。イスラエルのテレビ局チャンネル12が伝えたところによると、手数料として一人6000〜7000ドル(約100万円)かかるため、これを払える人は限られている。

チャンネル12によると、シンワルの妹の息子と娘が最近、ガザから脱出に成功したとみられている。このほか、最近になってエジプトへの脱出に成功した人々の中に、ハマス高官の家族たちの名前がみられるという。

www.jpost.com/israel-hamas-war/article-790585

イシュマエル・ハニエはシンワルより融和策推進か?:ハニエの妹はイスラエルの病院で未熟児無事出産

(photo credit: REUTERS)

シンワルが非常に強気の姿勢を崩していないことに対し、カイロでの交渉にあたっていたハマスの政治指導者イシュマエル・ハニエ(62)は、多少は融和する考えがあり、シンワルと対立しているとの報道もある。

そのハニエは、現在、カタールの首都ドーハに住んでおり、数十億ドルと推定される財産を持っており、パレスチナ人で最も裕福な人物とみられている。ハニエの家族は妻と子供13人。兄弟2人、姉妹10人である。

ハニエの妹たちの何人かは、イスラエル国内のベドウインに嫁いで、イスラエル市民として、テルシェバに住んでいるという。2021年にもこのイスラエル在住のハニエの親族が、イスラエルの病院に入院して治療を受けたニュースになっていたが、先週、その妹の一人が、緊急措置で未熟児を無事出産したとのこと。

www.jpost.com/israel-hamas-war/article-785314

石のひとりごと

中東には、このように、裏の裏がある。民主国家では、到底理解できないかもしれないのだが、生き残りのために、同じ一家の中に、ハマスにつくもの、ファタハ(パレスチナ自治政府)につくもの、イスラム聖戦につくもの、そしてイスラエルにつながるものがいても、全然おかしくないのである。家族は、どれか勝ち残る勢力についていくのである。これがサバイバルである。

どこかまだ切腹文化が残る?誠実実直な日本文化では理解不能だろう。アメリカにもおそらく理解不能かもしれない。イスラエルは、そういうアラブ社会と向き合ってきたということである。

ガザでは、今市民たちが餓死しはじめている。人々は自分と家族の生き残りをかけて必死になっている。一人で数十億ドルも持っているのに、何もしない、ハマス指導者ハニエをガザの市民たちは、いったいどう理解するのだろうか。

おそらくは、中東ではそういうことが普通なので、私たちが思うほどに、ハマスを恨むことはないのかもしれない。おそらくはそれどころではなく、ただただどう生きのこるかで、日々必死なのだろう。

また世界はなぜハニエに何も言わないままでいるのだろうか。これもまた、なかなか理解しきれないことである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。