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9月30日、プーチン大統領は、モスクワのクレムリンで、ウクライナ東南部4州(ドネツク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャ)において、実施したロシア併合を望むかどうかの住民投票の結果、住民はそれを望んでいるとし、その結果に基づいて、4州をロシアに併合する“条約”文書に署名した。
その時のスピーチは、西側民主主義、特にそのエリートたちが生み出したさまざまな弊害を指摘し、サタンニズム(悪魔主義)という言葉まで使って、非難していた。さらには、ロシアは千年以上続く大国であると言いつつ、今世界は新しい勢力の時代に入ったとも述べており、西側民主主義への直球の挑戦状のようであった。
ロシアがウクライナ4州併合を宣言:西側エリートは“サタニズム”悪魔主義と指摘
プーチン大統領は、4州は永遠にロシアだと宣言した。以下はクレムリンによる、プーチン大統領スピーチの全文。西側のエリートたちが主導する民主主義の悪い結果を指摘し、それをサタニズム(悪魔主義)と呼んでいる。またロシアは千年の国と2回も言いながら、今は新しい世界秩序の時代だというようなことを言っている。
筆者が訳し、その要約をここに挙げるが、以下は、クレムリン自身が、英訳して発表しているプーチン大統領のスピーチなので、読者自身で確認していただいたらと思う。
en.kremlin.ru/events/president/transcripts/speeches/69465
1)国境不可侵の原則を破ったのは旧ソ連を崩壊させた西側である
プーチン大統領は、1991年に、党のエリートたちが勝手にソ連を崩壊させたことは、大多数の意見を反映していなかったのであり、国にとっての大惨事であったと語った。また2014年以降8年間、ドンバスでは、大量虐殺が行われ、その他3州では、ロシアへの憎しみを産みつけたが、人々のロシア人としての思いは変わらなかったと述べ、4州の併合は正当なことであると強調した。国境不可侵の原則を破ったのは、西側だったと述べた。
したがって、ウクライナは、ただちに攻撃をやめて、ロシアとの交渉に入るべきではあるが、ロシアは、今回併合した4州については、“あらゆる方策”(核も辞さない?)で守るのであり、これについては議論の余地はないと述べた。また、この4州は、正式なロシア領土であるから、今後、ロシアが、破壊されたインフラと、社会活動を回復させると述べた。
2)1990年代の苦しみは忘れない。民主主義は人種差別などの弊害をもたらした
プーチン大統領は、ソ連崩壊後の1990年代がいかに苦しかったか、その間に西側は、ロシアを分裂崩壊すると思ったが、そうはならなかった。西側のエリートは、過去に、植民地活動を通じて、諸国で奴隷制度を導入したり、アヘン戦争で世界を支配しようとしたこと、民主主義が、政治的人種差別や、アパルトヘイトなどの弊害をもたらしていることをあげ、ロシアはその下には入らないと明言した。
3)アメリカこそ武力や情報で世界を支配しようとしている
プーチン大統領は、アメリカが日本に原子爆弾を落とすことで第二次世界大戦を終わらせて、その前例を作った。アメリカはその後もベトナムなどで、武力を使って世界を抑えつけようとしてきた。その方針は今も変わっていない。また、かつてナチスのゲッペルスが行ったようなプロパガンダを情報社会が行うようになっている。
西側はルールで支配しようとしているが、ロシアは千年続く大国であり、文明であり、そのような一時的なルールなどには縛られない。
4)紙幣は国を救えない(ロシアは食糧もエネルギーも自給自足)
印刷されたドルやユーロは、人々の食糧にはならない。株式市場も同様である。人間を養うのは、実際の食糧であり、家を温めるのは、株ではなく、実質のエネルギーである。ヨーロッパでは、今、市民たちに、食べる量を減らし、温かい服を着るよう指導している。
しかし、西側エリートたちは今、食糧やエネルギー不足にどう対応するのかわかっていないのだ。
5)西側エリートによる民主主義は、“サタニズム”悪魔主義である
西側のエリートたちは、西側市民をも標的にしている。これは実はすべての人々への挑戦なのである。人々の信仰や価値観を否定し、自由を制限する様子は宗教の否定に酷似している。これは、まさに悪魔主義“サタニック”である。イエス・キリストが、その説教で、「その実によって、彼らを見分ける」と教えた。
西側のその毒の実に気がついている人たちは、私たちの国だけでなく、西側の人々の中にもいる。(以下はこの箇所を訳しているクレムリンの文章)
Let me repeat that the dictatorship of the Western elites targets all societies, including the citizens of Western countries themselves. This is a challenge to all. This complete renunciation of what it means to be human, the overthrow of faith and traditional values, and the suppression of freedom are coming to resemble a “religion in reverse” – pure Satanism. Exposing false messiahs, Jesus Christ said in the Sermon on the Mount: “By their fruits ye shall know them.” These poisonous fruits are already obvious to people, and not only in our country but also in all countries, including many people in the West itself.
en.kremlin.ru/events/president/transcripts/speeches/69465
6)世界は今新しい変革・新しい力の登場の時期に入った
世界は今、新しい革命的な変革の時代に入った。新しく中核となる勢力が台頭している。それは、大多数を代表する力である。それは、自分の利益を宣言するだけでなく、多様な社会がそれぞれ主権を強化するものである。これを支持する人は、欧米の中にもいる。
7)ロシアは千年以上続いた国:4州併合はその存続のための選択
ロシアは、千年以上続いている国。私はロシア人の精神的な強さを信じている。その精神は私の精神であり、その運命は私の運命であり、その苦しみは私の悲しみであり、その繁栄は私の喜びだ。今日、4州はこのロシアを選ぶ決断をした。その運命とその栄光を共にする決断である。真実は私たちと共にあり、私たちの背後にはロシアがある。
この後、一同はロシア!ロシア!ロシア!と叫んだ。プーチン大統領は、この後、クレムリン近くの赤の広場でも特別イベントを行った。
西側諸国の反応:こちらも対決姿勢
いうまでもなく、バイデン大統領はじめっとする西側首脳、EU、NATO事務総長、国連総長も、ロシアのこの動きにするどい批判を返した。日本を含むG7外相は、そろって、ロシアによるウクライナへの侵略戦争を最大の言葉で非難すると声明を出した。
その声明によると、G7は、今回ロシアが併合を宣言した4州と、2014年に併合を宣言したクリミア半島も、ウクライナの領土であると確認したと発表した。
また、ロシアに対し、ウクライナからの完全撤退を要求するとともに、ロシアに政治的経済的な支援をする団体や個人へのさらなる経済制裁表明した。
www3.nhk.or.jp/news/html/20221001/k10013844611000.html
こうした状況の中、ロシアからヨーロッパへの天然ガスパイプラインの損傷が問題になっている。今の所、何が原因かは明確になっていないが、
完全西側の立場表明:来年G7議長の日本
プーチン大統領がこのスピーチをしたその30日、日本の岸田首相は、ゼレンスキー大統領に電話をかけ、日本がウクライナの支持であることを表明し、G7と連携しながら、対露制裁とウクライナへのさらなる支援を検討していると伝えた。日本は来年G7の議長国だからである。
岸田首相は、ゼレンスキー大統領と30分ほど話をしていたが、この件は、イスラエルのTimes of Israelも記事にしているほどであった。
www3.nhk.or.jp/news/html/20220930/k10013844171000.html
日本のこうした姿勢をロシアはどう見ているのだろうか。日本ではあまり報じられていなかったが、先月23日、ウラジオストックのモトキタツノリ(どういうわけか漢字が報じられていない)領事が、ロシア連邦保安局(FSB)に、スパイ容疑で拘束された。
両手を縛られ目隠しの状態であったという。FSBの話として伝えられているところによると、モトキ氏が、金銭との交換で、ロシアとアジア太平洋地域との協力関係などの機密情報を得ていたとされ、ロシアの安全保障上の国益を損なったとされている。
モトキ氏は、その後釈放され、国外退去になったもようである。外務省はロシアに遺憾を伝えたとのこと。
日本は、G7とともに欧米側に立つのではあるが、ロシアと隣り合わせなので、アメリカやヨーロッパとは違う危険性があることも、しっかり覚えなければならないだろう。
jp.reuters.com/article/russia-japan-consul-idJPKBN2QR1K1
石のひとりごと
プーチン大統領のスピーチを読みながら、心臓バクバクの思いがした。イエスキリストの言葉を使って、民主主義を悪魔主義と呼んだり、終末の時代に来ると言われている、いわゆる「新世界秩序」を匂わせている様子からは、終わりの時代を想像させられてしまった。(あくまでも想像・・)
しかし、確かに、民主主義には、悪い一面もある。民主主義によって、被害を受けたり、差別扱いを受けた国や人は少なくない。このロシアの言い分に合意するか、そこまで行かなくても、民主主義勢力に合意しない国は世界には多数ある。
モルドバの一部で親ロシア地域の沿ドニエストル共和国など、ロシア併合に続くことを検討している地域もある。今、これまで最も優れているとされ、世界を支配するべき常識とされてきた民主主義が、揺らいでいるのは確かだろう。世界の分裂から、核戦争含む、第三次世界大戦に進まないようにと願うばかりである。
また日本は来年G7の議長国とのこと。岸田首相、大丈夫か。。と若干不安も覚えるところだが、前外相としての経験を生かし、日本を守るとともに、原爆経験国として、世界平和に貢献していけるようにと祈りたい。