3回目イスラエル人14人解放:パレスチナ囚人39人釈放 2023.11.26

People cheer as a vehicle carrying hostages released by Hamas drives towards Hatzerim army base in Ofakim, southern Israel, on November 26, 2023, after they were released from Hamas captivity in the Gaza Strip. (Menahem Kahana/AFP)

3回目イスラエル人14人とタイ人3人イスラエルへ帰還

一時休戦と人質釈放が3回目となった。今回は遅れもなく、日曜午後5時(日本時間本日0時)にイスラエル人14人とタイ人3人がイスラエル領内への帰還を果たした。

イスラエル人14人のうち13人は、これまで引き渡しが南部国境を経由だったのに対し、ハマスから赤十字に引き渡された後、ガザ北部の国境からイスラエル領内に移送されていた。捕虜はそこからベエルシェバの空軍基地へ、そこからベエルシェバのソローカ病院へと移送された。

このことから、この人質たちに関して言えば、ガザ市内(IDFがまだ到達していない地域)にとらわれていたのではないかとの憶測が出ている。

帰ってきた子供たちの健康状態は良好で、すでに家族との再会も果たした。ただ女性一人が85歳と高齢で、基礎疾患だろうか、それが悪化して危篤状態とのこと。

イスラエル人男性1人、ロニ・クリヴォイさん(25)は、ロシア国籍を持つ人で、イスラエルとハマスの枠組みではなく、プーチン大統領の要請による解放であった。このため、ロニさんは、タイ人3人とともに、南部、ラファ国境からイスラエル領内に帰還した。

解放されたイスラエル人14人(子供9人と2人の母親、女性2人と男性1人)

今回解放されたイスラエル人14人のうち、10人はクファル・アザの住民だった。以下は、避難先にいるクファル・アザの住民たちが、10人の解放を喜ぶ様子。

アビガイル・イダンちゃん(4)

アビガイルちゃん一家(両親は死亡)

アビガイルちゃんの両親は、ハマスがクファルアザに侵攻してきた時に殺された。アビガイルちゃんの兄弟、ミカエルちゃん(9)とアマリアちゃん(6)は、タンスの中に14時間隠れていて助かり、叔父叔母のところにいる。
アビガイルちゃんは、アメリカ国籍も持つイスラエル人。バイデン大統領は、アビガイルちゃんに会いたいと言っている。

ハガル・ブローダッツさん(40)とその3人の子供たち、オフィリ(10)、ユバル(9)、ウリヤちゃん
ハマスが、キブツ・クファル・アザに来たとき、ブルーダッツ一家の父親であるアビハイさんは、家族を隠し、自分は戦いに出ていた。負傷して家に戻ったところ、ハガルさんと3人の子供たちは拉致されていなかった。アビハイさんは、家族は死んだと思っていたが、拉致されていることがわかっていたという。

ヘン・ゴールドステイン・アルモグさん(48)とその子供3人、アガムさん(17)、ガルさん(11)、タルさん(11)
夫で父親のナダブさんと、長女のヨムさんは、避難部屋の中で殺された。この家族の2組の祖父母は、事件発生時、海外露光に出かけて不在だった。戻ってきて、ナダブさんとヨムさんの葬儀を行った。その日はヘンさんの誕生日だったという。

エラ・エルヤキンちゃん(8)とその姉ダフナさん(15)
エラちゃんとダフナさんは、父親ノアムとそのパートナーのディクラさんとその息子トーマーさんとともにシムハット・トーラーの日をすごすため、キブツ・ナハル・オズに来ていた。ハマスは、父親ノアムさんとディクラさん、トーマーさんを殺害し、エラちゃんとダフナさんを拉致していた。

2人の女の子の母親のツィンさんは、2人を人工授精でやっとさずかっていた。ツィンさんは、頼むから私をガザの娘のところへ連れて行ってほしいと訴えていたのであった。

エルマ・アブラハムさん(84)
エルマさんは、ハマスが来た時、シェルターにはいったものの、鍵が重すぎてかけられないと息子に電話していた。同じキブツには、別の家にもう一人の息子がいたが、すでにシェルターに入ってしまい出られなかった。ハマスは、エルマさんを拉致していっていた。

エルマさんは危篤状態でイスラエルへ帰還した。現在、病院にいる。

アヴィヴァ・シーガルさん(64)
アヴィヴァさんとその夫キースさんは共に拉致された。キースさんは、まだガザにいる。2人とキブツで同居している娘のシールさんは、事件のあった週末、キブツの外にいて無事だった。キースさんはアメリカ国籍もあり。

ロニ・クリヴォイさん(25)
ロニさんは、イスラエル生まれだがロシア国籍も持つ。ハマスに襲われた音楽フェスで、音響技術者をしていて、拉致された。ロニさんの釈放は、ロシアのプーチン大統領との交渉の結果だとハマスが言っている。

www.timesofisrael.com/14-israelis-9-of-them-children-freed-by-hamas-on-3rd-day-of-hostages-for-truce-deal/

タイ外務省は、タイ市民3人の釈放を確認したとのこと。

パレスチナ囚人39人釈放

26, 2023. (AP Photo/Nasser Nasser)

今回もイスラエル人1人につき3人のパレスチナ人を釈放するという約束にのっとり、13人(ロニさん含まず)×3の39人のパレスチナ囚人が、東エルサレムへ釈放された。その内訳は、女性6人と男性33人。

www.aljazeera.com/gallery/2023/11/26/tears-and-joy-as-second-batch-of-39-palestinians-freed-from-israeli-prisons

明日最終4回目へ:イスラエルは休戦10日まで受け入れ表明

ハマスとの休戦は4日間の予定で始まった。これまでに3回の人質釈放が実施され、イスラエル人39人が帰国した。まだ183人がガザに残っているとみられている。一方釈放されたパレスチナ囚人は、117人。今夜で最終日を迎える。

今日、ハマスは、11人(合計50人ちょうど)のイスラエル人を解放する予定で、イスラエルは朝8時にそのリストを受け取っている。午後4時(日本時間午後11時)にはまた11人が戻ってくると予想される。

その後どうするかだが、ネタニヤフ首相は、交渉で可能性として合意していた延長について、ハマスの出方次第で、人質10人解放につき休戦を1日延長(最大100人)し、パレスチナ囚人1人につき39人釈放する用意があると発表。ただし、10日間が限度であり、10日後からは、ハマス殲滅にむけた攻撃を再開すると発表した。これにより、コマはハマス側にある形となった。

ハマスは、昨夜、正式に2-4日間の延長に合意する意向を発表した。このため、本日の捕虜交換の後、どのぐらいの長さになるかは不明だが、休戦と捕虜の帰国が続くみこみである。

www.timesofisrael.com/hamas-expresses-desire-to-extend-truce-with-israel-past-initial-four-days/

休戦延長は、明らかにハマスに猶予を与えてしまうことになるが、ネタニヤフ首相は、帰国して家族を再会している人質の様子に国中が感動していると語っている。

できるだけ多くの人質をとりかえしたいところだが、10日後、つまりまだ人質が、100人以上ガザに取り残される中でも、戦闘は再開すると強調した。

テルアビブでハマスとの戦い50日・人質奪回へのラリーに10万人

この戦争が始まる直前まで、テルアビブでは、毎週土曜日安息日明けに、10万人規模の反政府デモが行われてきた。しかし、それも一転。25日土曜安息日明けに行われたデモに集まった10万人が訴えたのは、「ハマス攻撃の地獄から50日」を覚えて、人質全員が解放されることであった。

www.timesofisrael.com/tel-aviv-rally-for-hostages-draws-100000-to-mark-50-days-of-hell-since-october-7/

石のひとりごと

愛する家族、死んだかもしれないと思っていた家族が戻ってきたという気持ちはどれほどのものだろうか。しかし、同時に、今回、帰還できた人質の背景を見ると、これまで以上に、彼らの心に残されている傷の深さを思わされる。

4歳のアビガイルちゃんは、もう両親に会うことはできないのだ。エラちゃんとダフナさんは、目の前で父親たち親族を全部殺されている。また、家族を取り戻した人々も、ガザに人質人がいる限り、祝うことはできないと言っている。

イスラエル人たちは、今、人質を取り戻すことと、ハマスを殲滅させること、どちらも同等に成し遂げないといけないと考えている。しかし、両方を成し遂げるにあたり、犠牲も伴うことは避けられず、大きな深いジレンマでもある。なんとか、両方を達成し、人質を全部とりもどせるように祈りが必要だ。

この様子を見ながら、ユダヤ人たちの家族とそれを土台にした祖国というものに対する認識を、改めて思わされている。自分が人質になったとき、それを必死で待ち続ける家族と、ここまで必死になって取り戻そうとしてくれる祖国はあるだろうかと。。

日本では伝統的に、どこか男尊女卑であり、がまんの社会であるので、家族関係が、どこか義務や重荷として捉える人が少なくない。だから今、若者が結婚せず、子供を持たないようになっている。イスラエルで人口が増え続けているのに対し、日本では深刻な人口減に直面している。

イスラエルには、アジア風のいわゆる、がまんというものがない。思いを隠さず、交渉しながら、ウインウインをみつけていく文化である。だから、家族は重荷ではなく、なによりも大事な喜びの根源として受け止められいる。社会の認識もそうなので、家族を犠牲にしてまで仕事をするという概念がない。

だから、イスラエルでは「おひとりさま」は惨めと認識されている。ユダヤ人は、国がない状態と、おひとりさまでは生きていけないということを身をもって経験してきたのである。

日本も今、ようやく変わろうとしていると思う。家族を持ち、家族を愛する人生は最高にすばらしいと思う。祖国は勝手に存在しているのではなく、私たちが皆で守らなければならないものだとも思う。(おばちゃんのひとりごと)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。