2021年の過越:祝うのはコロナからの解放!? 2021.3.19

嘆きの壁での祭司の祈り 2021.3.29 スクリーンショット

今年は家族とともに

イスラエルでは、27日日没から過越の祭りが始まった。これまでにワクチン2回終了した人は、470万人(総人口の約半数)となった。感染者数は27日229人、重症者数は468人と減り続けている。このため、過越を前に、感染予防の規制は、屋内は20人以下、屋外なら50人まで緩和された。親族一同が集まっての過越が可能になり、人々は、出エジプトならぬ、出コロナを祝うことができた。

過越では、嘆きの壁で、祭司の祈りが捧げられ、毎年、非常な大群衆が集まる。今年は、感染予防のため、29日と30日の2日に分けて行われる。以下は、嘆きの壁からの中継。

*例祭前のマハネイヤフダマーケット(オープンマーケット)も、通常と全く変わらない賑わいを取り戻していた。

過越の翌日からはそのまま続けて種無しパンの祭りとなり、ユダヤ人たちは、イーストで膨らませたパンは食べず、マッツアと呼ばれるいわゆる種無しパンを4月3日まで食べる。28日から2日夕刻までは、いわゆる大型連休のゆるゆるな空気の中で、店や娯楽施設、バスも運行し、2日日没から3日までは、再び安息日扱いの聖なる日とされる。

*過越の祭り

過越は、聖書の出エジプトを覚えるという祭りである。紀元前1400年ごろ(日本は縄文時代)エジプトで奴隷になっていたヘブル人(イスラエル人)の祈りの声を聞いて神が、モーセを立てて、一行を救い出す。この時、エジプトに、イスラエルの神が存在するしるしとして10の禍が下されるが、最後10番目の禍は、長男が死亡するという恐ろしい災いであった。

この時、神は、ヘブル人に、子羊を屠って、その血を入り口の周囲に塗っておくよう指示する。この血が塗ってある家は、禍が通過して長男は死ななかった。ちなみにこれを信じて同じようにしたエジプト人たちの家は、禍を過ぎこす結果になっている。これをみて、エジプトのファラオは、ようやく、ヘブル人たちをエジプトから解放する。

いよいよエジプトを出る際、ヘブル人たちには、十分な時間がなかったため、種(イースト)が入らないままのパンを焼き、これを持って出発して行った。このため、ユダヤ人たちは、禍が過越た後の解放を、この過越で覚えるのである。またその後、種無しパンを1週間食べて、この時のこと、言い換えれば、「私たちを導く神がいる」ということを覚えるのである。(出エジプト13章、レビ記23章)

*以下は、モーセを通して、神が紅海を2つに分けてヘブル人を通過させる様子

それから1000年以上後に出てくるイエス・キリストは、「過越の子羊」と言われる。キリストの十字架上での死は、全ての人間に降りかかる罪の罰の身代わりであったとされる。このため、かつてヘブル人がその扉に子羊の血をつけたように、キリストの罪の身代わりを信じ、その血を心に受け入れた者は、罰が過越ていき、たとえ肉体は滅んでも、霊と魂は生き続ける、言い換えれば、神に永遠に受け入れられるということを意味する。また、かつてのヘブル人のように、その後の人生は、その生涯を終えるまで、この神とともにあり、たとえ失敗はあったとしても、決して見捨てられることはない。

このことはユダヤ人に限定されないとされ、まずは、多くのユダヤ人でない人々が、これを受け入れて、イスラエルの神につながることができるようになった。これがキリスト教である。しかし聖書(新訳)は、神は一旦約束したことは、決して忘れないため、やがて地球に終わりが来る前には、ユダヤ人もまた、この道をたどって、神との関係を回復するようになると書かれているのである。(ユダヤ人たちは同意していない)

観光回復の兆し

過越から種無しパンの祭りと続く1週間は、政府機関も大手企業なども、通常、大型連休になり、通常なら海外旅行をする人が多い。イスラエルでは、ワクチン接種やPCR検査が充実していることや、グリーンパスのシステムで、個人の感染状況がわかりやすいため、これまでに、ギリシャとキプロスが、グリーンパス(ワクチン終了、PCR陰性)を所持するイスラエル人観光客を、隔離期間なしの受け入れを開始する。

4月1日から、イスラエル人観光客を受けれるギリシャは、週に1万人を予定している。ワクチンを受けていない観光客については、PCR陰性と、7日間の隔離が義務付けられる。この他、ポーランドが、グリーンパスを所持するイスラエル人の受け入れを開始すると表明した。

www.timesofisrael.com/poland-to-allow-in-israeli-travelers-without-need-for-quarantine/

なお、今月初頭から、ニューヨーク、パリ、フランクフルト、キエフとの飛行機はすでに行き来しており、イスラエル人がこれらの町へ行き来することは可能になっていた。

海外に行かないイスラエル人たちは、ビーチや国内国立公園に行ったり、荒野のトレッキングを楽しむなどしている。Times of Israelによると、その数13万人だったとのこと。人気があったのは、北部のテル・アフェク、タボール山など。ガリラヤ湖や死海にも大勢が訪れていた。

www.timesofisrael.com/israelis-throng-national-parks-and-nature-reserves-on-1st-day-of-passover/

この様子を見ると、ネタニヤフ首相のコロナ対策は、最初の失敗はあったとはいえ、優れた洞察力、行動力、交渉力でワクチンを早々と調達したネタニヤフ首相に感謝する国民も少なくないかもしれない。

イスラエル人の幸せ度:世界12位に浮上

になるが、毎年恒例になっている国連の各国国民の幸せ度だが、3月19日に発表された。イスラエルは、 149カ国中、昨年の14位から12位に上がった。それでも高位を維持した。これは昨年のデータではあるが、都市別では、テルアビブが、トップ10の中でも8位であった。(エルサレムは33位)

www.timesofisrael.com/israel-slips-a-spot-but-still-a-high-14th-in-world-happiness-survey-us-uk-rise/

なお、今年も1位はフィンランド、続いてデンマーク、スイス。アメリカは19位。日本は昨年から4位上がって56位。コロナとの影響は意外に低かったとも分析されている。なお、日本の順位が毎年低く出るのは、「選択の自由」と「寛容性」の順位が低く、人とのつながりの維持が難しい点が挙げられている。

president.jp/articles/-/44422?page=3

神戸の関西シナゴーグでの過越

東京シナゴーグのラビ・メンディさん(右)、神戸シナゴーグのラビ・シュムリックさん(左)

27日夜7時から、神戸山本通(異人館通りエリア)にあるユダヤ教シナゴーグ(ラビ・シュムリック・ビシェツキー)で過越のセデルが行われた。関西エリアだけでなく、遠くは仙台からもユダヤ人とその家族たちや、日本人の友人たちも全国から集まっていた。参加者はゆうに100人は超えていただろうか。コロナでなければ、毎年その倍の人数が集まるとのこと。

日本にるユダヤ人たち(多くはイスラエル人)の多くは、日本人の配偶者をもち、日本に20年近く住んでいる人も少なくない。日本語も上手な人が多い。

ラビ・シュムリック(35)は、エルサレムで生まれ育ったイスラエル人。祖父母の家族は、旧ソ連でホロコーストに巻き込まれた後、イスラエルに移住した。父もラビで、シュムリックさんもニューヨークで学んで、ハバッド派のラビとなった。

ラビになってからは、海外在住のユダヤ人を助けるという志を持ち、アジアに派遣先が決まっていたが、東京のラビに嫁いでいる姉の関係もあり、2014年、神戸のシナゴーグに着任した。着任以来、コンテナ船便で、イスラエルから大量のコシェルの食料を取り寄せ、関西だけに止まらず、シナゴーグに来ることのできないユダヤ人たちに届けて、共に祈るなどさまざまなケアを実施している。ラビ・シュムリックが就任してから、シナゴーグに来るユダヤ人たちが急速に増えたとのこと。

ユダヤ教のラビというと、偉そうにふんぞりかえっていると思われるかもしれないが、シュムリックさんは、シナゴーグで、自らパンを焼いたり、食事の配膳を手伝ったりして、親分気取りは全くない。異邦人でも気さくに話してくれる。シナゴーグでは、上下なしでバラガン(混乱)に見えるが、それなりにまとまっているというヘブライ文化を感じさせられる。日本にもいるユダヤ人たちに、過越の祝福を祈る。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。