第三神殿!?:神殿の丘でも衝突 2014.11.6

上記テロ事件が発生する直前、旧市街・神殿の丘では、今日も暴動が発生していた。         

今日は、先週ラビ・グリックが撃たれてからちょうど1週間だった。そのため、ラビ・グリックの一派が、神殿の丘周辺に集まり、旗をかけげて踊ったり、歌ったりした後、神殿の丘に入って祈りを捧げようとしたところ、パレスチナ人らが石や火炎瓶を投げつけ、治安部隊と乱闘になった。この衝突でパレスチナ人1人が負傷した。

治安部隊は、直ちに神殿の丘を閉鎖したが、負傷者を乗せた救急車が出るすきに、旧市街ライオン門近くの入り口からパレスチナ人らが神殿の丘へ入ろうとして暴動になった。治安部隊は催涙弾を使うなどして鎮圧している。付近には女性や子供たちもおり、逃げ回る様子が報じられた。

旧市街では、その後も多数の右派ユダヤ人たちが、「私たちは恐れていない」と叫び、治安部隊に制止されている。こちらも夜になるにつれて緊張が高まっている。

<高まる第三神殿への意識>

中東現代史の専門家メナヘム・クレイン教授(バル・イラン大学)によると、最近、ユダヤ人の間で神殿の丘に関する意識がシフトしているという。

これまで神殿の丘をユダヤ人の手に戻すのは神のみであるとして、人間の手で行動を起こす人々はごく少数の変人扱いだった。ところが、最近になって、宗教シオニストのラビたちが、第三神殿再建に合意したという。

このラビたちの動向は、イスラエル世論にも大きな影響力を持っているため、今後、第三神殿への意識、運動に拍車がかかるということを意味する。

ちょうど、イスラエルが建国する前の時代、ラビたちは、イスラエルの再建は、神が実現すると指導し、自ら動かないよう指導していた。そこへ、”神を待つのではなく、自分たちが動きを起こす時に、神が助け実現してくださる”という宗教シオニズムが出て来たのと同じパターンである。

世俗派の間でも、イスラエルのアイデンティティについての変化が出て来ている。かつては建国時代のキブツやイスラエル軍などがイスラエルの象徴だった。しかし、最近では、ダビデの時のイスラエル王国など過去にイスラエルのアイデンティティを見いだそうとする流れになっているという。

東エルサレムにある考古学公園・ダビデの町では近年、神殿の丘南側に続くトンネルが発見され、開通した。クレイン博士によると、そのダビデの町周辺、シロアムにユダヤ人が家を購入し、住む人が増えている他、ここを訪問するユダヤ人が急増しているという。

現在、ダビデの町は、イスラエル軍の基礎訓練のカリキュラムに入っている他、ギドン・サル元教育相以来、ダビデの町訪問を学校教育のカリキュラムに入れた。この流れの中で、今、イスラエルのアイデンティティの象徴が神殿の丘だという意識が高まって来ているというのである。

もちろん、世俗派政治家たちが、第三神殿を建てて、犠牲をほふることを目指しているのではないとクレイン教授。しかし、神殿の丘が国家アイデンティティの象徴になりつつあることに懸念していると語った。

<神殿の丘分割案>

クレイン教授によると、神殿の丘をヘブロン化しようとする動きが、実際にあるという。つまり、神殿の丘を物理的に2分割して、それぞれがぶつからないように祈りの時間などもシステム化するということである。

ヘブロンには、アブラハムとサラ、ヤコブとレアの墓、マクペラの洞窟とよばれる建物がある。この洞窟は、イスラエルが建国し、六日戦争で、ユダヤ人が来るまではイスラムのモスクだった。

そのため、六日戦争以来、ここにユダヤ人が祈りに来ることで紛争が絶えず、1994年にはユダヤ人がパレスチナ人29人を虐殺するという事件も発生した。

これを受けて、1970年代後半、当時のシモン・ペレス首相が、マクペラの洞窟を、物理的に2分割し、ユダヤ人とアラブ人が直接ぶつからないようなシステムを構築したのだが、そのシステムを神殿の丘にも適応しようというのである。実際、そのための法案が国会に提出されているという。

もちろん、イスラム側は、これを200%拒否するだろう。しかし、今回、神殿の丘の管理者であるヨルダンが、重い腰をあげて動き始めている。

<ヨルダンのアブダラ国王>

クレイン教授はヨルダンの動きに注目している。ヨルダンは神殿の丘の管理者であるため、この件で、イスラエルに圧力をかけることのできる唯一の国。もしヨルダンが動けば、あるいは神殿の丘分割など、なんらかの解決もありうるかもしれないと考えている。

実際、この土曜、ネタニヤフ首相と、アブダラ国王が、極秘で会談を持っていた。アブダラ国王は、神殿の丘などイスラムとキリスト教徒にとって重要な場所の治安回復をはかると述べている。

<トルコの不気味な動き・大統領宮殿> www.bbc.com/news/world-europe-29912398(写真多数)

トルコのエルドアン大統領が、アンカラにあるホワイト・パレスと呼ばれる壮大な新しい大統領宮殿を公開した。この宮殿には部屋が1000室もあり、敷地は、アメリカのホワイトハウスの30倍もあり、大きさでは世界一(NYタイムス)。

夜にライトアップされるとまるで神殿のようである。この宮殿は、建築に6億5000万ドル(約700億円)もかかっており、トルコ経済に打撃を与えたとBBCは伝えている。

エルドアン大統領は、ここ数年、急激にトルコのイスラム化を進めると同時に、国民の反対デモを武力で押さえて大統領制を取り入れ、昨年、自分がその初代大統領に就任した。エルドアン大統領に権力が集中し、スルタン(かつてのオスマントルコの王)のように振るまい始めていると懸念する声もある。

終末論の中には、トルコが仲介して神殿の丘に第三神殿を建て、イスラエルとイスラム世界の紛争に終止符を打つと言うシナリオもある。


石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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