煮えたぎる西岸地区・エルサレムでも市内テロ再び 2015.11.2

<ヘブロンで暴動・パレスチナ人10人撃たれる>

31日、ヘブロンでは、射殺されたパレスチナ人の遺体がイスラエルから戻され、数千人が参列しての葬儀が行われたが、その後、100人ほどのパレスチナ人が暴動となり、火炎瓶や手榴弾を治安部隊に投げつけるなどの暴動となった。

イスラエル軍は、暴徒の足を狙うなど実弾で対処。パレスチナ人が10人は負傷したとみられる。

また1日午後、ヘブロン近郊、ベイト・エイヌン交差点(60号線)で、国境警備隊員らに車が突っ込むテロが発生。3人(全員20歳代)が負傷した。うち1人は重傷。テロリストは車を降りて逃走中。

ここの交差点では、今朝もテロがありテロリストが射殺されている。最近、治安部隊をねらうテロが多発している現場である。

ヘブロンでは、ここしばらくテロが多発していることを受けて、治安部隊がヘブロン周辺の特に問題の地域を閉鎖し、検問所をもうけて出入りをチェックしはじめているもよう。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israel-security-forces-expand-containment-tactic-to-Hebron-430555

*今最大の課題?ヘブロン

ヘブロンでは、上記のようなテロや衝突がほぼ毎日となっている。Yネットによると、最近のテロの波が始まってから射殺されたパレスチナ人58人のうち、3分の1はヘブロン出身で、そのほとんどが、ナイフによるテロで射殺されていた。

ヘブロンは西岸地区最大のパレスチナ人の町だが、すぐ隣接して右派ユダヤ人850人が住んでいる。この850人を守るために、ヘブロンは分割され、イスラエル軍が常に駐留している。

パレスチナ人最大の町に、イスラエル軍が常駐する。これはパレスチナ人にとっては屈辱以外のなにものでもない。

またヘブロンは宗教的にも大きな火種を抱える。ここには、アブラハムとサラ、イサクとリベカ、ヤコブとレアの墓となっているマクペラの洞窟があるのだ。アブラハムはユダヤ教徒にとってもイスラムにとっても父である。

ここではユダヤ人によるパレスチナ人虐殺、またその逆もあり、まさに、父アラブラハムの前で2人の息子が、殺し合いのけんかを続けているということである。

現在、マクペラの洞窟と呼ばれる建物は2分割され、ユダヤ人とパレスチナ人が、別々に礼拝する。またヘブロン自体も分割され、イスラエル支配地域とパレスチナ自治政府支配地域に分かれている。

今、ヘブロンは煮えたぎっている状態になりつつようである。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4718569,00.html

*憎しみの町ナブルス

煮えたぎっているのはヘブロンだけではない。西岸地区北部のジェニンも昔からテロリストを多数排出してきた。

遺体が戻されての葬儀はジェニンでも行われている。遺体は検問所にチョコレートなどを売るふりをして治安部隊に近づき、いきなりナイフで刺そうとして射殺された18才だった。こうしたスイーツ売りに見せかけたテロは他にも発生している。

西岸地区のナブルス近郊では、タプアハ交差点でのテロが多発している。金曜、テロリスト2人組がバイクに乗り、ナイフを掲げて近づいて来たため、女性国境警備隊員が2人を撃った。その一瞬の判断について、「テロリストか味方の兵士かを選ばなければならない。」とその厳しい決断を語っている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/202756#.VjYkVKUWnA8

*パレスチナ人の遺体返還に苦悩する戦死兵士家族

イスラエル政府は、パレスチナ人の遺体は返還しない方針だと言っていたのだが、この日曜、急にパレスチナ人テロリストたちの遺体が、葬儀を小規模にとの条件に返還されることになった。

それを見て怒っているイスラエルの母親たちがいる。昨年のガザとの戦争で戦死したハダル・ゴールディンさんとオロン・シャウルさんの母親だ。

ハマスはこの2人の遺体を、死亡から1年以上にもなる中、まだイスラエルに返還していない。「パレスチナ人の遺体を返還するなら、2人の息子たちの遺体との交換条件にするべきだ」と母親たちは訴えている。

<エルサレムで市内テロ再び>

イスラム礼拝日にあたる金曜日には、エルサレム市内で、2週間ぶりに市内テロが発生し、市民3人が負傷した。

午後1時すぎ、路面電車の弾薬の丘前駅で、イシバ学生(22)とアメリカ人(20)が上半身をパレスチナ人に刺された。2人とも中等度の負傷。テロリスト(23)は、治安部隊に撃たれて重傷。エルサレム永住権を持つパレスチナ人だった。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/202700#.VjYdTaUWnA8

<石のひとりごと>

故ラビン首相は、アラファト議長との合意から20年後のイスラエルとパレスチナとの関係が、まさかこのような状況になっているとは思いもしなかっただろう。

日本にいる人々には、イスラエルが、平和を得るために、国も国民も血を流す思いをしているということがわかるだろうか。息子たち、娘たちを戦場へ送らざるを得ないイスラエル人の気持ちがわかるだろうか。

イスラエル人とて決して子供たちに戦争などさせたくはない。しかし、したくなくてもさせられている。20才そこそこの若者たちが、殺さなければ殺されるという究極の中で、殺人を経験しなければならない。好きでそんなことをやっているはずがない。

ここにいると、「戦争させない。」と叫ぶ日本人の姿が、世界の感覚からすれば、あまりにもずれており、非常識にさえ見えることがある。「戦争させない。」と言えるのは、日本が、世界でもまれに、平和に恵まれてきた島国なればこそであるということを私たちは自覚しなければならない。

同時に、我が国だけが平和であって、我が国だけが息子を戦争に出さなくてもいいならそれでよいという態度が、他国からははなはだしい利己主義に見えることもあるということも知っておくべきであろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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