イスラエルでは、今ネタニヤフ首相のリクード(右派)と、ガンツ氏青白党(中道左派)が、ともに連立政権を担う形でようやくの連立政権を運営するという、きわどい形になっている。
このきわどい政権を可能にしたのが、まずネタニヤフ首相が首相になり、来年11月からガンツ氏(それまでは防衛相)に交代する約束であった。
しかし、ネタニヤフ首相には、はじめから交代する気はないだろうと言われていた通り、ネタニヤフ首相は、自分が首相である間にもう一度、再選挙に持ち込み、リクードとユダヤ教政党など右派政党だけで、政権を運営できる形に戻そうとしているようである。
その方策として使っているのが、予算案を通さないという手である。イスラエルでは、予算案が通らない場合、国会は解散することを余儀なくされる。
具体的には、今年度の予算案について、ネタニヤフ首相は、2020年のみのものにしようと主張。これに対し、ガンツ氏は、すでに2020年に突入していたことから、2021年を含めた2年ごしの予算案にしようと主張。両者は合意できないまま、予算案延期期限の8月24日を迎えた。
この時も、ネタニヤフ首相とガンツ氏が合意に至らなかったが、コロナ情勢が非常に難しい時期でもあったため、ネタニヤフ首相は、今国会を解散すべきではないとして、予算案期限を100日間、延期することを受け入れ、両者は再度、延期で合意したのであった。
mtolive.net/4回目総選挙回避なるか:ネタニヤフ首相が予算/
その期限が今週23日に迫っているわけである。2020年は実質終わってしまったため、これから議論するのは、2021年度になる。予想通り、ネタニヤフ首相と、ガンツ氏は合意に至らなかったが、今度はぎりぎりになって、2週間延期し、12月31日を期限にすることで合意した。実際に予算案の期限は2021年1月5日になるとのこと。
しかし、ネタニヤフ首相は、これに合意をするにあたり、青白党所属のニセンコーン氏の職権を無効にするという条件を出し、ガンツ氏はこれに合意したという。言い換えればガンツ氏が、また、ネタニヤフ首相に兜を脱いだ形である。
ガンツ氏は政界入りして以来、ネタニヤフ首相打倒を信じてガンツ氏を支持した人々を、何度も落胆させてきたのだが、今回も同様で、一時、ガンツ氏自宅前で、デモも発生したとのことである。
ガンツ氏が弱腰になったのは、支持率が下がっており(わずか3.5議席予想)、今本当に4回目総選挙になれば、ネタニヤフ首相の思惑通り、リクードと右派政党が、過半数になる可能性が出てきているからである。ネタニヤフ首相の政治力は本当に恐ろしいほどといえる。
今後、もし12月31日に、予算案で合意できなかった場合、来年3月23日に4回目総選挙になる。総選挙には膨大な出費が必要になるため、コロナ禍で貧困層が激増する中、なんとも気が重くなるようなことである。
<ガンツ氏がパレスチナ人も”存在する権利あり”と発言!?>
そのガンツ氏だが、パレスチナ国家もありうるとにおわせる発言し、国内メデイアが一斉に反応するという事態にもなった。
ガンツ氏(防衛相)が、珍しくサウジアラビアのアラブ系メディアのインタビューを受けた際、「エルサレムは統一されたイスラエルの首都だが、パレスチナ人もエルサレムを首都にするための場所はある。」と述べたのである。
インタビューアーが、「ではパレスチナ人も国家をもつべきだということか」と聞くと、ガンツ氏は、国家というかどうかは別として、パレスチナ人も独立して存在する権利はあると思うと述べた。
エルサレムについては、トランプ政権が、エルサレムに隣接するアブディス地域を、パレスチナ国家の首都にする可能性を示唆したりしていたが、ガンツ氏がそれを示唆したかどうかは不明である。
いずれにしても、ガンツ氏は、これをもって、アッバス議長に和平交渉に戻るよう、呼びかけたのであった。アッバス議長は、ネタニヤフ首相との交渉はいっさい拒否しているので、ガンツ氏が首相になった場合の可能性を示唆した可能性はある。
ガンツ氏は、湾岸諸国との国交開始が進む中、パレスチナ人にとっても大きなチャンスが訪ずれていると述べている。
いわば、中道左派としての考えを明らかにした形であるが、これがイスラエル市民にどう影響していくかはわからない。右派に傾く傾向にあるイスラエル市民の票が、再び、ネタニヤフ首相に流れる可能性も否定できないかもしれない。
www.timesofisrael.com/gantz-tells-saudi-paper-theres-room-for-a-palestinian-capital-in-jerusalem/
<ギドン・サル氏の逆襲!?>
ネタニヤフ首相に対抗する勢力はガンツ氏だけではない。リクードでネタニヤフ首相の次のナンバー2で、一度、党首選挙で、ネタニヤフ首相に挑戦して敗れたギドン・サル氏がリクードを離党。自分が党首を務める党、「ニューホープ」を立ち上げた。
テレビニュースの世論調査によると、次回選挙になった場合、ニューホープが19議席を取るとの「結果になった。これにより、リクードの予想議席は28議席と36議席から大幅に下がる予想になっている。
なお、ガンツ氏の青白党は、先に述べたとおり、わずか3.5議席で、政界から消えてしまう可能性すら出始めている。
次回、総選挙になった場合、どうなっていくのかは、本当に不透明といえる。しかし、チャンネル13の調査によると、だれが首相にふさわしいかについて、32%はネタニヤフ首相、ギドン・サル氏15%、ベネット氏12%、ラピードし12%、ガンツ氏は8%となっている。
ネタニヤフ首相は、すでに、ガンツ氏を見下しているのかもしれない・・・ネタニヤフ首相、本当にしたたかな超ベテランの政治家のようである。
www.timesofisrael.com/poll-shows-gideon-saar-shoring-up-support-blue-and-white-bleeding-seats/