ネタニヤフ首相ワクチン接種第1号:国民に接種促す 2020.12.21

ワクチン接種を受けるネタニヤフ首相 出展: GPO

新たな変異種報道でコロナ情勢の緊張が高まる中、どちらが早いかレースのように、ワクチンの接種が始まっている。イスラエルでも、さっそくワクチン接種が始まった。

ネタニヤフ首相(71)が接種第1号

19日夜、ネタニヤフ首相は、イスラエルでワクチンを受ける第1号として、テルアビブのシェバ・ホスピタルでファイザーのワクチン接種を受けた。接種を担当したのは、ネタニヤフ首相個人の主治医であるベルコヴィッツ医師。

通常は、ワクチンをアンプルから注射器に注入するところから、接種者が担当するのが決まりであるが、今回は看護師が準備したものをベルコヴィッツ医師が受け取って、接種するという異例の形になった。

接種者二人目は、エデルステイン保健相。続いて、別会場では、リブリン大統領(81)、前コロナ担当ロニー・ガムズ氏、イスラエル・カッツ経財相、など政府閣僚たち、アビブコハビ・イスラエル軍参謀総長、続いて、チーフ・ラビのメイール・ラウ氏と次々に接種を受け、国民にワクチン接種を促した。

www.jpost.com/breaking-news/coronavirus-in-israel-vaccination-campaign-begins-652681

ワクチン接種は、コロナへの勝利だという受け止め方から、会場では、接種に先立ち、医療従事者たちがダンスする様子も伝えられた。(以下クリップ)

リブリン大統領は、「ワクチンを受けることは、自分のことだけでなく、周囲の人々の健康のためでもある。」と国民に接種を促した。

1月までに200万人接種目標

ワクチンはまず医療従事者に接種され、一般へは、21日からまず、60歳以上の高齢者から接種が始まる。続いて、ハイリスクとされる教師、ソーシャルワーカー、刑務所職員(囚人も含む)。続いて治安維持にあたるイスラエル軍兵士、警察官となっている。

一方、すでに感染して回復した人、授乳中の人、妊娠の可能性のある人、アレルギー反応既往者、16歳以下の子供への接種は見送られる。

全国に接種会場60カ所が準備されているが、予約は予想以上で、すでに17万人が予約を入れているとのこと。

クラリット(国民保険の類)では、9万人の予約がある中、まずは初日日曜、そのスタッフ1300人が接種を受けた。別の健康保険組合では、1日4000人で接種を開始し、1週間以内に、1日1万人の接種を可能にするという。

なお、ファイザーからのワクチンは、今月末までに400万回分、来年3月までに400万回分、計800万回分の輸入が予定されている。ワクチンは二回接種するので、400万人分(総人口の半分近く)を確保できていることになる。

さらに、モデルナからはも300万人分にあたる600万回分のワクチンの予約がとれている。(到着は4月以降との見通しも)

一時、ワクチンが不足するのではとの情報も出たが、レビー保健相長官は、記者会見でこれを否定。国民全員分が準備できると語り、接種を促した。レビー保健省長官は、4月までに全国民の60%が接種を終えていることを目標にしていると語った。

www.timesofisrael.com/health-ministry-chief-says-aiming-to-vaccinate-60-of-population-by-april/

こうした計画の中、イスラエル政府は、万が一に備え、最初の1週間に接種される人の様子を見て、その後、本格的に接種を増やして、1日に6万人を接種し、1月までに200万人が接種を完了する計画である。

www.timesofisrael.com/israel-kicks-off-vaccine-drive-to-stamp-out-covid-19-pandemic/

その1週間のおためし接種の先頭に立つのが、ネタニヤフ首相を筆頭とする政府閣僚であったところが、イスラエルらしい。

たとえば、通常の軍隊では、基地にいる司令官が、背後から部下たちに、行け!と指示するが、イスラエル軍だけは、リーダーがまず先頭に立って敵に立ち向かい、部下たちに「ついてこい!」という軍であると言われている通りである。

ネタニヤフ首相は、「もし皆が、感染予防のルールを守り、ワクチンを受けるなら、イスラエルは世界で最初にパンデミックから抜け出る国になる。ともに頑張ろう」と国民に呼びかけた。

実際は・・?

皆でともに頑張ろう・・・ということだが、しかし、現状はそう甘くなさそうである。

これもまたイスラエルの国民性といえるかもしれないが、ワクチンへの反応は、予約殺到するぐらいなので、良いようにはみえるが、感染予防を守っているイスラエル人がどれほどいるかはきわめて不明である。現地の友人によると、街に行くとマスクを顎や頭にしている人がかなりいると言っていた。

今回ネタニヤフ首相が空路を閉鎖するといった空港だが、先週の時点で、パスポートコントロールでは、群衆が順番まちしている様子が報じられていた。それだけ、コロナ禍でも、海外へ出入りするイスラエル人がいたということである。

また、超正統派たちの中には、マスクなしで、数百人規模の大きな結婚式をしたり、コロナにかかれば、自分たちで調達した人工呼吸器を使って家で治療するなど、社会とは違う、独自の流れで、歩んでいるグループもいる。

アラブ人地域も同様で、ワクチンステーションの数が、ユダヤ人地域より少ないなどの指摘もある。アラブ人地域では今週、クリスマスがあるので、親族一同が会するなどの懸念もある。西岸地区での感染拡大も深刻度を更新している。

イスラエルが、多様な国であり、多様な価値観を有する人々の集まっている国であることが、コロナ対策を難しくしている。ワクチンが効果ありとなり、本当に世界で一番先にコロナから脱出できる国になれるよう、祈るのみである。

石のひとりごと:被害も祝福も一番乗りのイスラエル

この記事を書きながら、イスラエルと日本の国民性の違いを改めて実感させられた。

日本は個人の権利を尊重することにかなり神経を使っていることと、法律上も、イスラエルのように、首相一人が、急に大きな決断を即決することは難しい。だから、何をするにしても、後手になりやすい。逆にイスラエルは、首相が、治安という名目の元、即決することも多く、国民に大きな迷惑になることも多い。

特にコロナとの戦いを含め、防衛や戦いへの備えについて、ネタニヤフ首相は、「やりすぎるほどやっておくほうがよい、やりそびれて後悔するよりはよい。」と言っていた。

やりすぎが失敗に終わり、たとえ自分が非難されるかもしれないとわかっていても、それを決行する様子に、それが正しいかどうかは別として、少なくとも国を愛する指導者の本気が見えるような気がする。そういう首相の下なので、失敗もありで、国民はそうとう振り回されるのではあるが、ある程度は、これを理解しているようにもみえる。

今年3月、新型コロナが蔓延しはじめたころ、筆者は、当時感染が拡大していた、韓国人や中国人も一緒の飛行機で帰国した。しかし、関空では、まったくの素通りであった。変異型が出始め、欧米が空路を制限しようとしているが、日本は、今回はどういう政策になるのだろうか。

日本では、実際の被害が発生してからでないと、政策をとりにくいようである。まだ見えないことを予測して予防的な策をとることが難しいのである。だから後手になりやすい。一方で、これが逆に、功を奏すると思われるのがワクチンだ。日本が、実際にワクチンを導入するのは、外国でその結果や副反応の調査が出てからになる・・・。

どちらがいいのかはわからないが、この点、常に先頭を行きたがるイスラエルと日本の大きな違いだと実感させられる。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。