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これまでに何度も危機を脱してきたベネット首相率いる統一政権だが、ここへきてまた、かなり深刻な存続危機に直面している。
過半数割れのベネット政権:西岸地区関連法案決議通過できず
ベネット政権は、右派だけでなく、左派やアラブ政党も含む統一連立政権である。
このため、特にベネット首相自身のヤミナ党含む右派政党議員の中には、左派や、ましてアラブ政党と賛同できない者が、政権から離反していくこととなった。このため、現在、国会での政権支持議席は120議席中、60議席と過半数を割り込んでいる。
この状態で、6日、よりにもよって、右派左派で考えが決定的に異なる、西岸地区入植地ユダヤ人の権利に関する法案(後述)が、国会で審議されることとなり、これまで政権にとどまっていた議員の中からも反対票を投じる者が出て、賛成52、反対58と、ついに1回目審議で否決されることとなった。
www.timesofisrael.com/two-coalition-mks-deliver-blow-to-colleagues-defeating-west-bank-legal-bill/
イスラエルでは、法案の決議は3回行われ、そのうち2回以上可決されない場合、その法案は破棄されることになる。従って、今回、第一回目の決議ですでに否決されたということは、まだ可能性が失われていないとはいえ、かなり厳しい状態になっていることを意味する。
さらにこれに続いて、7日には、ヤミナ党議員を宗教相に就任させる審議でも否決。8日には、これもまた、最低賃金に関する審議で、政権は否決を望んだにもかかわらず、ラアム党から賛成票が投じられるなどして、可決されたことから、いよいよ政権維持が危機に陥っているとの見方が優勢になってきている。
西岸地区延長法案否決であわてる入植地ユダヤ人たち
今回、最初に否決された西岸地区法案は、1967年の六日戦争で西岸地区も支配するようになったイスラエルが、その中のユダヤ人入植地にもイスラエル国内と同じ権利を認めるとするものである。
内容は、刑法、住民と同等の社会福祉制度や医療保険を適応するというもので、入植地住民にとっては、非常に重要な法案である。まだ国際社会からイスラエルの領土として認められていないことから、イスラエル政府は、この法案を定期的に審議。更新していくことで、入植地住民の生活を守ってきたのであった。
入植地を事実上、イスラエル領と主張するかのようなこの法案は、当然ながら右派的なものであり、これまで否決されたことはなかった。このため、今回も、最大野党リクードも、右派イデオロギーの視点から賛成票を投じると予想されていた。しかし、リクードは、最終的には、ベネット政権打倒を優先したとみえ、反対票を投じたということである。
さらに、連立政権内部ではあるが、左派メレツ党から1人、アラブ政党ラアム党から1人、計2人の議員がこれに反対票を投じた。また、ラアム党1人、ヤミナ党(ベネット首相政党からの寝返り)から1人の2人が棄権して賛成票を投じなかったことで過半数にならなかったのであった。
今回、この法案が否決されたとあって、あわてているのが、西岸地区入植地のユダヤ人たちである。たとえば、刑法も適応されないとなると、基本的な存続の権利さえもあやうくなってくる。入植地住民に法律の専門家も加わって論じていたが、この問題は、パレスチナ自治政府との関連もあり、そうかんたんに説明ができないほどに、非常に複雑なようである。
国家よりも政権交代をねらって反対票を投じたり、政権内部の議員でも反対票を投じているように、今、議員たちは党の方針ではなく、それぞれの考えで賛成反対を投じる状態にあり、イスラエルの政治は、未だかつてないほどにカオスに陥っていると言われている。
今後どうなるのか:来週にも2回目決議のみこみ
イスラエルでは、法案が法律として成立するためには、国会決議で3回中、2回以上賛成過半数になる必要がある。審議の日程を決めるギドン・サル法務相は、来週月曜にも2回目審議を行うとしている。これで否決されれば、本当にこの法案は破棄ということになる。
この法案が破棄された場合、西岸地区のユダヤ人はどうなるのか?実際には、法案が破棄されることは、イスラエルにとって良いことなのかどうか?
審議日程を決める法務大臣のギドン・サル氏は、右派なので、この法案が次回は可決されることを願うと語り、2回目投票を、来週にも行うとしている。ただサル氏は、結果に楽観的ではないようである。
www.timesofisrael.com/saar-to-try-west-bank-bill-vote-again-admits-coalition-may-be-on-last-legs/
また、法案の破棄が決まれば、政権はもはや法案を通すことができないとの見通しから、国会は解散・総選挙ということになる。代表野党リクード(ネタニヤフ前首相党首)は、1回目投票で否決された時点で、すでにベネット首相に辞任を要求したとのこと。
しかし、ベネット首相らは、まだまったく敗北を認めておらず、対策を講じると言っている。
対策としては、ベネット首相のヤミナ党員で、連立の一員でありながら、政権の方針に反対票を出し続けて今回の混乱を生み出した鍵的存在、イディット・シルマン議員らに国会から辞任してもらい、連立に好意的な議員に交代してもらうことなど、さまざまな水面下の交渉をしているもようである。
ラピード外相は、シルマン氏について、連立のやることに反対するなら、連立から離脱すべきで、両方の立ち位置にいるべきではないと述べた。
イスラエルの政治は今、政党という単位から議員個人の判断が前に出て、泥沼状態にあるといえる。
今総選挙になった場合どうなる?
リクードのネタニヤフ前首相は、今も根強い人気で、総選挙をめざして、首相復帰をねらっている。特にアメリカでトランプ前大統領の頭角が見え始めた今、ネタニヤフ前首相の復帰を望む声も決して小さくはない。
しかし、そのために、西岸地区関連の法案を犠牲にしようとしたことには疑問も出ている。政治のために国民を平気で見捨てたとも言えるからである。
Time of Israelが伝えた世論調査によると、次回総選挙になった場合、ネタニヤフ氏率いるリクードは今と同じ最大議席数を持つことにはなるが、連立で獲得できる議席は60議席と、ぎりぎり過半数に届かなかった。
そうなると、注目はギドン・サル法務相である。もしサル氏のニューホープ党(右派)が、ネタニヤフ氏に味方すれば、リクードは、過半数を獲得するかもしれない。
もしかしたら、その合意があって、今回、今この時に、このややこしい法案を審議に出してきたのではないかとの疑惑が流れた。
しかし、ニューホープは前回も次回も、おそらく、議員を出すための獲得票の最低ラインを超えられず、議席を確保できないというのが現状であろう。いずれにしてみ、サル氏は、ネタニヤフ氏を首相から辞任させることに、全力を挙げていた人物であり、この疑惑については否定している。
ベネット政権、今回もなんとかもちこたえるのかどうか。。ともかくも、今は、イラン情勢はじめ、世界情勢が緊張しているので、最善のリーダーが立てられていることを祈る。