ガザ攻撃400箇所・南部カンユニスに避難警告後:ガザからミサイル約50発・エルサレム近郊もサイレン 2023.12.2

カンユニス上空照明弾sky above Khan Younis in the southern Gaza Strip, on December 1, 2023. ( SAID KHATIB / AFP)

1日、休戦帰還が終わる朝7時(日本時間午後2時)までに、ハマスは返還すると約束した通りの人質のリストを提出しなかった。またこの時間に先だち、数発のロケット弾をスデロットなどガザ国境周辺に発射してきた。

これにより、イスラエルは、ガザへの空爆を再開。正式にハマスが休戦の契約を破ったとして、ハマス殲滅にむけた攻撃を再開すると発表した。

徹底的にハマスを破滅させるまで続ける:ガラント防衛相

ガザ分割 IDF

イスラエルは、南部カンユニスにいるガザ民間人に対し、海岸通りにある人道支援地域に移動するよう呼びかけた。またカンユニスを細かく分けて、攻撃前に焦点をあてた警告を発信するシステムを発表した。

それから20時間ほどの間に、北部と多くは南部カンユニスと、ラファの約400箇所(うち50回はカンユニス)、ハマスの指令関連のインフラ、地下センター、対戦車ミサイル発射地、仕掛けられている罠などへの空爆と、地上からの戦車砲、迫撃砲部隊による攻撃、海軍も海からの砲撃が行われた。まさに総攻撃である。

ガザ南部のイスラエル軍 December 2, 2023 IDF

これまでとは違うほどの総攻撃である。Times of Israelによると、ガラント防衛相は、ガザへの総攻撃が行われる中、AH-64アパッチに乗り、上空からその様子を見ながら、地上戦を担当するイド・カス中佐との対話の中で、以下のような声明を出した。

「ハマスに通じるのは武力のみ(交渉は意味なし)だ。ハマスは解体し、武力を維持できないようにする。それを達成し、ハマスに勝利するまで攻撃を続ける。」

www.timesofisrael.com/us-blames-hamas-for-end-of-ceasefire-as-rocket-barrages-fired-at-central-israel-south/

www.jpost.com/israel-news/article-776149

ガザ保健省(ハマス)によると、この一連の攻撃で、20件以上の家屋が破壊され、パレスチナ人(ハマス・民間人不明)184人が死亡。589人が負傷と報告している。ただ人道支援物資は、今日の予定されていた分は搬入されたとのこと。

ガザからの反撃:サイレンはエルサレムにも

in Ashkelon, Israel, Dec. 1, 2023. (AP Photo/Tsafrir Abayov)

一方、ガザからは、国境周辺、スデロットにもロケット弾が頻繁に発射され、ニリム周辺でイスラエル兵5人が負傷した。3人は中等度の負傷だという。

その後、アシュケロンや、アシュドドなどイスラエル南部でサイレンが鳴ったが、迎撃ミサイルが対処して、被害は出ていない。

イスラム聖戦が後で犯行声明を出したロケット弾は、西岸地区テコアや、エルサレム近郊にまで届いた。都市部に来たものは、アイアンドームが対処して被害はでていない。夜になりロケット弾は止まったが、それまでに50発近くが発射されたものとみらている。

www.timesofisrael.com/us-blames-hamas-for-end-of-ceasefire-as-rocket-barrages-fired-at-central-israel-south/

休戦延長決裂は明らかにハマスがもたらした:アメリカと合意・不合意

今回、休戦延長の交渉が決裂した主な原因について、イスラエル軍は、クファルちゃん(10ヶ月)アリエルちゃん(4歳)とその母親シリさん(32)を引き渡さなかったことをあげた。

ハマスは当初この3人は死んだと言い、遺体を3人分引き渡すと言った。続いては、3人は別の組織へ引き渡されたと言い、生きているのか死んでいるのか、わけがわからず、心理的な攻撃に近い形だった。

結局、休戦終了の時間になっても、最終的なリストは届かなかったのであった。ガザには、まだ少なくとも17人の女性と子供が残っているとみられ、ハマスが当初の契約を守らなかったということである。

これについては、アメリカのブリンケン国務長官は、交渉の決裂の原因は、ハマスにあるとはっきりと言っている。今のところ、大きな国際社会からの反発は報じられていないが、このまま、イスラエルの激しい攻撃で、またガザ民間人に膨大な犠牲者が出ると、アメリカもイスラエル支持には回れなくなるとブリンケン国務長官も警告したところである。

しかし、アメリカは、バイデン大統領だけでなく、ブリンケン国務長官も、戦争の終結後は、パレスチナの国を作るしかないと強調しており、イスラエルとは意見が異なっている。

イスラエルは、戦後、イスラエルは自国の平和を守るために、バッファーゾーン(イスラエルとレバノンとの間の不戦地帯のようなゾーン)を、イスラエル側ではなく、ガザ地区内部深くにつくると表明している。これには、アメリカは合意していない。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/rejecting-us-stance-pm-told-blinken-that-idf-will-create-buffer-zone-deep-into-gaza-report/

わかりにくいガザ内部情勢

人質左ハマス、右イスラム聖戦https://www.timesofisrael.com/liveblog_entry/rejecting-us-stance-pm-told-blinken-that-idf-will-create-buffer-zone-deep-into-gaza-report/

今回、ハマスは明らかに、約束を破棄する動きを見せて、戦闘再開になったのだが、ガザにさらなる破壊をもたらすであろうに、なぜそんなことをしたのだろうか。

イスラエル軍は、最年少のクフィルちゃん(10ヶ月)母子3人をハマスが引き渡さなかったことを決裂の大きな理由に上げている。この3人は、今回の問題ではシンボル的な要素であり、イスラエルに対しては最強のカードになりうる人質であった。

決裂前、ハマスは、3人について、一旦は死んだと言い、イスラエルに“3人”(クファルちゃん達かどうかは明記せず)の遺体を引き渡すと言った。しかし、後に別の組織にいるとの情報が流れ、ハマスは、3人を別組織に「ひきわたした」とわけのわからないことを言った。3人はカンユニスのどこかにいる可能性もあるという。この間のイスラエル側の心理的な困惑は想像を絶する。

最終的に、ハマスは、この3人を含め、まだ残されている女性と子供を含むひきわたし人質のリストを提出しなかったということである。

この一連のことから、実はハマスは、人質を全部管理していないのではないかとの見方もある。人質は、当初から他の組織に連れ去られている人もいて、その人々については、ハマスが自由にイスラエルに引き渡すことができないということである。

だから、ハマスは時間内に、リストを揃えることができなかった。その弱点をカバーし、強さを強調するために、あえて、先にイスラエルへロケット弾を発射して、戦闘に戻るようにしたとの見方である。(あくまで一つの見方)

イスラム教世界は、日本文化に負けず劣らず、いいかっこしいであり、弱みを見せないためには、表面を取り繕うところがあるので、この分析はあり得るかもしれない。本当のところ、ハマスとイスラム聖戦、その他の組織とはどんな繋がりがあるのかは、全部みえていないのである。

いずれにしても、人質を全員取り戻そうとするイスラエルにとっては、非常に困難な状況であることに違いはない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。