ガザ戦闘6ヶ月でガザからIDF大部分撤退:イスラエルの策略はどこに? 2024.4.9

イスラエル軍が撤退したハンユニスに戻るパレスチナ人たちMonday, April 8, 2024 (AP Photo/Fatima Shbair)

先週、NGO団体のボランティア7人が、イスラエルの誤爆で死亡し、バイデン大統領が、もはやイスラエルが、ガザへの攻撃を継続することは、よほど民間人への犠牲を防ぐ方策がない限り、支援できないとネタニヤフ首相に伝えたと言われている。

その後の6日、イスラエルは、ガザへの食糧搬入を増加させただけでなく、7日、現時点でのガザでの戦闘の中心であった、ハンユニス難民キャンプから大部分の部隊を撤退させた。今、ガザの民間人が、瓦礫状態のハンユニスに戻り始めている。

これでガザでの戦闘は終わりを迎えるかのような光景だが、ネタニヤフ首相はまだラファへの攻撃は行うと言っており、先行きはまだ不透明なままである。

ハマスとの戦争6ヶ月で迎えた転換期:イスラエルが世界からの孤立鮮明

Yousef Masoud/Associated Press

ハマスとの戦争が半年を超えた。イスラエルでは、ガザから侵入してきた3000人のテロリストにより、南部国境在住の1200人が惨殺され、253人が人質にとられた。

その後、105人が、人質交換で帰国し、今なおガザにいる人質は133人。このうち生きている可能性があるのは、約100人とみられている。

この半年の間の戦争で戦死した兵士、警察官は604人。このうち、ガザでの地上戦が始まってからの戦死者は、260人。戦死者のうち、41人は友軍による誤射などで死亡した。

負傷者は3193人で、このうちガザ地上戦での負傷者は、1552人となっている。

一方、ガザの破壊は壮絶で、ガザ人口の85%にあたる170万人が避難民となった。パレスチナ側からの報告によると、数千人の子供を含む3万3000人以上が死亡。75000人が負傷。

約1万5000人が孤児になっており、今後イスラエルへの恨みを抱えつつ成長し、将来新たなテロリストを生み出す可能性が指摘されている。

なお、ガザでの死者数については、イスラエル軍が、ガザで殺したとするハマス1万3000人と、その前に侵入した時点で殺したハマスは、1000人と報告しており、それらも3万3000人の中に含まれている。

www.timesofisrael.com/us-says-weekend-boost-in-gaza-aid-a-good-start-but-israel-not-off-the-hook-yet/

回線から半年にもなり、人道支援物資の搬入が、イスラエル軍によって厳しく制限されていることで、ガザの中にいる民間人のほとんどが、飢餓に陥る事態になっているとの情報が世界中の懸念となり、日々イスラエルへの非難が高まっていた。

こうした中、先週、イスラエル軍による誤爆でNGOのボランティア7人が死亡するという事件が発生。国際社会からは、イスラエルへの非難が殺到し、即時停戦すべきとの圧力がさらに高まった。

こうなると、唯一の同盟国であるアメリカもイスラエルに対して厳しい態度をとらざるをえなくなったようで、アメリカの高官や、ユダヤ人からも停戦はやむをえないとの発言が出るようになっている。

その象徴となったのが、3月25日の国連安保理でのことであった。イスラエルは停戦すべきとの採択の際、アメリカは初めて拒否権を発動せず、可決を可能にした。

さらに1日、バイデン大統領は、ネタニヤフ首相との電話会談で、イスラエルが思い切った人道支援政策を実施しないなら、アメリカも方針を変える、言い換えれば、イスラエル側に立つことができなくなるという、最後通告的なことをネタニヤフ首相に突きつけた。

具体的にいえば、アメリカからイスラエルへの武器支援が停止される可能性が出てくるということもありうる。

この後、イスラエルには2つの動きが見えた。北部国境からガザへの支援物資搬入増加とガザ南部ハンユニスからの撤退である。

北部エレズ国境からの食糧搬入とハンユニスからのイスラエル軍大部分撤退

1)これまでで最大・トラック322台分/日で食糧がガザへ

March 10, 2024. (MOHAMMED ABED / AFP)

バイデン大統領との電話会談の後、ネタニヤフ首相は、閣議を開催し、対策を協議した。

その後、7日、イスラエルは、アシュドド港から搬送した支援物資を、ハマスの襲撃で破壊されて以来、閉鎖していた北部のエレズ検問所から搬入する新しいルートを開始した。

7日、人道支援物資を乗せたトラック322台がガザ内部に搬送された。

物資搬入の検問所3箇所 上がエレズ

これまでで最大の台数とのこと。アメリカのカービー報道官は、これを歓迎するとしたが、戦争前は、1日に500台だったとして、まだ十分でないと言っている。

COGAT(イスラエル軍のガザとの社会的調整を担当)は、8日、トラック419台が入ったと報告した。

www.timesofisrael.com/us-says-weekend-boost-in-gaza-aid-a-good-start-but-israel-not-off-the-hook-yet/

そこから先、ガザ地区内部で、人々への配布がどうなっているかだが、アルジャジーラの報道によると、ユニセフのスタッフがガザの中にいるようである。

イスラエルメディアのコメントでは、先週死亡したWCKのボランティア7人は、皮肉にも死ぬことで、ガザの難民へ、より多くの食料を届けたと書いているものがあった。

www.timesofisrael.com/israels-begrudging-approach-to-humanitarian-aid-could-cost-it-the-war-in-gaza/

2)ハンユニス難民キャンプからIDF撤退:南部に1旅団(1000人以下)のみ残留

また6日から7日にかけて、イスラエル軍は、ガザ南部ハンユニスから軍隊を撤退させた。最大3万人にのぼったイスラエル軍は、現在、ナハルと呼ばれる1旅団(1000人以下)だけになっている。

ナハルが残って守っているのは、ガザ中央部を東西で横断するネツァリム回廊と呼ばれる通路である。

*ネツァリム回廊

IDFがガザを2分するために設立したエリアで、このエリア内にある建物は全部破壊して、見通しよくしたことで、世界からは批判された。

これは、ガザ北部に、今以上の人々が戻ることを防ぎ、人道支援が、まずはガザ北部にいる人々に十分に行き渡るようにするためとのこと。

北部は、だいぶハマスを排除した印象があり、まずは北部だけでも、将来に向けた管理の試行を目指しているのかもしれない。

www.timesofisrael.com/idf-withdraws-ground-troops-from-south-gaza-leaving-just-one-brigade-in-enclave/

以下は、イスラエル軍が撤退した後、カンユニスに戻るガザの人々の様子。なお、カンユニスは、上記ネツァリム回廊よりは南部にある。

イスラエル軍は、カンユニスでは、ハマス数千人を殺害し、地下トンネルも30キロ分は破壊して、とりあえずの目標を達成したと言っている。

IDFによると、ガザ地区のハマスの24大隊のうち、18大隊を解体したとのこと。残っているのは、ラファに4部隊と、ガザ中央部2部隊。それ以外では、もはや組織的に動ける部隊はないとの見方である。

しかし、ハマスとの戦争6ヶ月目を迎えた、まさにその日の6日、またイスラエル軍が撤退する前日に、イスラエル軍兵士4人が、ハンユニスで戦死し、中部でも兵士2人が重傷を負っていた。

さらには、撤退した数時間後に、ガザからイスラエルに向けてロケット弾5発が発射されていた。迎撃ミサイルで、対処はしたのだが。

ガラント防衛相は、ハマスの軍事部門は、大きく戦闘能力を失ったと言っているが、本当はどの程度なのか、懸念は残る。また、あと1日早かったら、撤退で死ななかったかもしれない、この4人の兵士の家族はどう思うのかとも思わされる。

*イスラエル軍兵士4人の戦死について

IDF

撤退直前に戦死した4人の兵士は、ハンユニスで、人道支援物資を搬入するルートを警備していた時に、トンネルから突然現れたハマスの銃撃で死亡していた。

死亡した4人は、イド・バルーク軍曹(21)、アミタイ・イーブン・ショシャン軍曹(20)、イライ・ザイール軍曹(20)、リーフ・ハルシュ軍曹(20)

www.timesofisrael.com/four-soldiers-killed-fighting-in-southern-gaza-as-war-on-hamas-hits-six-month-mark/

ネタニヤフ首相:ラファへの攻撃日程は決まった?

ネタニヤフ首相は、今も、避難民150万人がいるとみられるラファへの攻撃は今も必須と考えている。そこには、ハマス4大隊がおり、シンワルら最高指導者たちが、人質とともにいると考えられるからである。

5日、人質で生きていると思われていたエラッド・カツィルさんの遺体が、ガザで発見され、イスラエル軍が回収している。

100人もの人質の命は、時間が経つごとに危うくなっており、イスラエルが、世界の圧力に負けて、停戦を受け入れ、そのまま放置することはない。

ネタニヤフ首相は、ラファへの攻撃は必ず実行する。その日も定まっていると発信した。

しかし、ラファへの攻撃については、ネタニヤフ首相はもう何度も宣言しているのだが、今もなお、攻撃に踏み出せない状態が続いている。ネタニヤフ首相は、8日のコメントで、ガザにいるハマスの無力化はラファに入らなければ完了しないとして、ラファ攻撃の日程はすでに決定していると発表した。

しかし、今同時進行で進められているのが、カイロで行われている人質返還のイスラエルとハマスとの交渉である。今また、イスラエルが出した条件をハマスが合意できるかどうかという、ボールは再びハマスの手にある状況である。

ハレヴィ参謀総長 April 7, 2024. (Israel Defense Forces)

とりあえずは、その結果がでるまで、ラファ攻撃は再び、アメリカから待ったがかかっている状態にあるとみられている。その結果によっては、ラファへの攻撃が始まる可能性もある。しかし、こういう見方は、すでに何度もあったのであり、ネタニヤフ首相が、どんなに強気の発言をしても、また延期になる可能性もある。

IDFのハレヴィ参謀総長は、ガザでの戦争が終わりからはまだほど遠いと言っている。また、イスラエル軍は、ヒズボラや西岸地区、フーシ派の攻撃、その背景にいるイランと、多方面での戦いの準備が必要になっていると語っており、カンユニスからの撤退が、本当のところ、何を意味するのか、外からの判断は難しい。

www.timesofisrael.com/idf-chief-says-withdrawal-of-troops-from-gaza-doesnt-mean-war-is-close-to-end/?utm_campaign=most_popular&utm_source=website&utm_medium=article_end&utm_content=7

なお先ほど入ったニュースでは、ガザ中央部で、ハマスの司令官ハテム・アル・ガムリが死亡。カンユニスでの空爆や、今もガザに残っているナハル部隊の戦闘の様子も伝えられている。戦闘はまだまだ続いているようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。