東京オリンピックの会閉会式ディレクターの小林賢太郎氏が、ホロコーストに関する不適切な行為で、オリンピック直前になって解雇されたことは、日本と世界でも大きく報じられている。東京のイスラエル大使館、ベンアリ在日イスラエル大使は、自らもホロコースト生存者の娘として、小林氏の発言に衝撃を受けたと述べた。
イスラエルでも、すべてのメディアがこれを取り上げていた。しかし、現地のニュースをみると、この問題だけに集中するというよりは、コロナ感染をはじめ、東京オリンピックが、今、直面する現時点での問題が、この件も含め、あまりにも多く、いったい開催されるのかどうかも不明と言った様子で報じている。
Times of Israelは、ものごとの経過を報じているが、怒りや非難というよりは、ニュースとしてその経過を報じていた。
エルサレムポストも同様で、東京オリンピックの数ある不祥事の最新のものとして報じた。しかし、同時に大きなスタジアムに950人しか入らないとか、日本人はまだ3割ほどしかワクチンをしてないとかを報じ、オリンピックが感染拡大につながる可能性があるという点でしめくくっている。
また安倍元首相が出席しないといったことや、朝日新聞は世論の55%がオリンピックの中止を望んでいるといったことが書かれている。
www.jpost.com/international/olympics-opening-ceremony-director-fired-over-holocaust-comments-674562
<石のひとりごと>
ホロコーストを揶揄するなど、吐き気を催すような行為である。菅首相がいうように、まさに言語道断で、国際社会に対しては大きすぎる問題であり、東京オリンピックに与えた黒星は相当大きいといえる。いくら20数年前のこととはいえ、時間がこれを消すことはない。
ヤドバシェムからは、この問題に関する発言はないが、関係者の間には、日本人全般に対する嫌悪感が増し加わった可能性はあるだろう。ただ、同時にユダヤ人は日本人としてひとくくりにせず、個人という見方ができる人々なので、今後もそのように見てくれるかもしれない。
ただ悲しいことだが、エルサレムのヤドバシェム(ホロコースト記念館)では、日本人は、イスラエルにきても記念館にほとんど来ないことから、この問題にあまり興味がないと思われている、若干あきらめられているというのが現状である。
だから、小林氏のスキャンダルは、許し難いものの、日本人ならありえることかもしれないという見方かもしれず、だからといって、それで日本に反ユダヤ主義が蔓延しているのかといえば、それも違うということもわかっていると思う。
誤解のないように言っておくが、日本で、ホロコースト教育が不要であると言っているわけではない。むしろ、日本でもすすめてもらいたいとは思っている。しかし、日本は、イスラエルにとっては、今は特に危険な国ではないかもしれないということである。もしこれが、ヨーロッパや旧ロシアなど、ホロコーストに関係した国のことであれば、もっと大問題になっていたかもしれないということである。
だから、無論、これを看過するわけではないが、特に一般のイスラエル人にとっては、今は、このオリンピックがコロナのスーパースプレッダーになるのではないかといった懸念の方が大きいかもしれない。その中で、今は、どれだけ金メダルを取れるかというところに集中しているようにも思う。
イスラエルの選手団からは、オリンピック村の感染対策が甘いとか、部屋が粗末だとか、そういう不満は見えてこない。おそらく、軍隊生活に慣れているイスラエルの選手たちには、そんなことはどうでもよいことであり、どんな環境の中でも防衛するのは自分たちなのである。そうして、ただただ、金メダルと取る、その一点である。
いつも思わされるが、いったい何が今、実質的に一番大切なのか。何をしなければならないのか。これを中心に動いて、感情論はあとまわしにするというのがイスラエル人の動きである。いつもながら、学ばされる点である。
しかし、そこに甘えていてはならない。日本でもきちんとホロコーストがなんであったのか。またこれを、理解しておくことが、国際社会に出ていくにあたり、どれほど大事なことかを子供たちにも教えていかなければならない。
今回、あらためて、その必要性が自覚できたのではないだろうか。日本には、全国にホロコーストを教える記念館や、団体がある。特に、こころ・ホロコースト教育資料センター(代表:石岡史子氏)は、次世代の子供たちや、大学生にこの問題を提示されている。それぞれの活動の祝福を祈りたい。
筆者もまたヤドバシェム日本語ガイドとして、できることをしていきたいと思う。