神殿の丘で衝突:イスラエル治安部隊17人・パレスチナ人200人負傷 2021.5.8

Israeli seurity forces advance amid clashes with Palestinian protesters at the al-Aqsa mosque compound in Jerusalem, on May 7, 2021. (Photo by Ahmad GHARABLI / AFP)

イスラエルとパレスチナ人の暴力的な衝突が、西岸地区、東エルサレム各地で急速に悪化。7日には、双方の聖地とされる神殿の丘(イスラムのハラム・アッシャリフ)で衝突が勃発し、更なる紛争の拡大が懸念されている。

最近のパレスチナ人との衝突

4月13日にラマダンが始まってから既に小さい衝突は連日発生していた。その中で旧市街においてユダヤ教徒の青年などがパレスチナ人の暴行を受けたりしたため、4月22日、極右ユダヤ人たちが、「アラブは死ね」などと言いながら、旧市街を行進。

事態は悪化した。この時点で既にハマスも、イスラエルへロケット弾を飛ばしてきたのであった。

先週木曜には、アラブ人女性が、ナイフテロを試みたほか、タプアハ・ジャンクションのバス停で、イスラエル人学生3人に対する銃撃テロが発生。1人が死亡した。これを受けて、極右ユダヤ人たちが、パレスチナ人の村を襲撃。

パレスチナ人も怒って、西岸地区の複数の場所で、治安部隊と衝突が発生。パレスチナ人からも死者が出た。すると、ガザのハマスが、「イスラエルは痛い目にあう」と脅迫する声明を出した。

さらに、時悪く、長い法的論争を経て、東エルサレムのベイト・ジャラのパレスチナ人70家族を追放する期限が近づいていたことから、これに反発するパレスチナ人と極右ユダヤ人が、東エルサレムでも衝突することとなった。(次項参照)

こうした中で、迎えたのが、昨日7日金曜、イスラム教の神殿の丘(ハラム・アッシャリフ)での礼拝日(ラマダン最後の金曜日)であった。

7日(金)神殿の丘とダマスカス門など:治安部隊17人とパレスチナ人200人以上が負傷

イスラエルの治安部隊は、旧市街全体の治安強化を図ったが、7日午後、神殿の丘(ハラム・アッシャリフ/アル・アクサ・モスク)は文字通り、人でぎっしり埋め尽くされ、ハマスの緑の旗を振りかざす人々が多数みられた。

群衆は一斉に、「我らは皆ハマスだ。モハンマド・デイフ(ハマス武装組織指導者)の指令を待っている。テルアビブにロケット弾を放て。」と叫んだ。イスラエルのメディアによると、この時、神殿の丘には7万人以上がいたと見られている。

www.timesofisrael.com/we-are-all-hamas-palestinians-wave-terror-groups-flag-on-temple-mount/

神殿の丘(ハラム・アッシャリフ)で暴力的な紛争になったのは、この日の夕方になってからである。

神殿の丘での夕方の祈りが終わると、パレスチナ人たちが、神殿の丘や、ダマスカス門周辺、旧市街のあちこちで、イスラエルの治安部隊に石やペットボトル、椅子や靴などあらゆるもものを投げつけてきた。これにより、治安部隊17人が負傷。

このうち、半数は病院に搬送され、1人は頭に石が当たっていたため、中等度の負傷となっている。

これにに対し、治安部隊は、催涙弾や、ゴム弾など実弾は使わずに対処し、暴動は夜中までには落ち着いたとのこと。

しかし、パレスチナの赤新月社(イスラムの赤十字社)によると、パレスチナ人で負傷した人は205人。このうち88人が東エルサレムの病院で治療を受けている。

輸血する血液が足りないらしく、輸血を呼びかけている。西岸地区からは、赤新月社が応援を送ろうとしたが、治安部隊はこれを阻止した。(おそらくは救急車に紛れて武装兵らが入ってくる可能性は大いにある)

警察は、「信教の自由を悪用して、暴動を起こすことは受け入れられない。治安部隊への暴力には厳しく対処する。」と明言した。

大規模衝突の恐れ:8日夜・アラブ系イスラエル人とガザでデモの動き

神殿の丘での出来事は深刻だ。特に今はイスラム教の、聖なるラマダンの最中で、特にイスラエルへの反発が高まっている。

9日(日)には、ラマダン中の例祭の1つ、「ライラ・アル・カダール」が控えている。この日はラマダンの中でも最も聖なる日とされ、イスラム教徒たちは、この日も神殿の丘(ハラム・アッシャリフ/アル・アクサ・モスク)で祈ることになっている。

パレスチナ人デモ隊たちは、多くの同胞たちに、この日、エルサレムのアル・アクサ・モスクに集結するよう呼びかけている。

しかし、この同じ9日夜は、エルサレム・デー。イスラエルが六日戦争(1967年)で勝利して、神殿の丘を奪回。東西エルサレムを統一したことを祝う日である。毎年、右派ユダヤ人たちが、ダマスカス門から、無数のイスラエルの旗を振りながら、イスラム地区を通って、神殿の丘方面へ行進して行くことになっている。

今年は特に、パレスチナ人との緊張が高まっていることから、イスラエル政府は、少し前から、ユダヤ人の神殿の丘への入場を禁止ししているが、右派ユダヤ人からは反発が出ていた。

www.timesofisrael.com/police-burst-into-temple-mount-compound-as-hundreds-riot-after-ramadan-prayers/

しかし、現地メディアによると、これに先立ち、イスラエル在住のアラブ人たちと、ガザ地区で、大規模なデモが行われることになっている模様である。「アルアクサモスクに対するテロリストの挑発から、エルサレムの人々を支持する」というのが、デモのタイトルである。

デモ隊は、代表団をエルサレムへ送り、「アルアクサで礼拝している数千人の人々が、占領者のテロリストが攻撃し、多くが負傷した。これこそが、占領者が将来、エルサレムとアルアクサに対してやろうとしていることだ。」と訴えるとのこと。

鶏が先か、卵が先かの論争になるかもしれないが、今回の神殿の丘での衝突に関しては、パレスチナ人の方が挑発をしたようにも思うが、この場所が関わったが最後、このようにイスラエルとの戦いの正当化に結びついてしまう。なんとか、大きな衝突にならないようにと思う。

www.timesofisrael.com/arab-israelis-gaza-groups-plan-mass-protests-saturday-after-jerusalem-clashes/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。