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映画オッペンハイマーをめぐる騒動
昨日8月6日は、広島の原爆記念日であった。これに先立つ先月21日、映画「オッペンハイマー」(クリストファー・ノーラン監督)が公開された。(日本はまだ)
オッペンハイマーとは、原爆を開発したアメリカのマンハッタン計画を主導した、J.ロバート・オッペンハイマーである。「原爆の父」と呼ばれている人物である。
売上は、公開後3週間で、すでに5億ドル(710億円)を超えており、第二次世界大戦を題材にした映画では史上最大を記録している。
www.cnn.co.jp/showbiz/35207510.html
ところが、この映画と同じ日に公開となった「バービー」も、すでに10億ドル(1420ドル)を突破したことから、この2つの映画が、「バーベンハイマー」とも呼ばれるようになっている。
しかし、「オッペンハイマー」と、「バービー」はまったく正反対の感じであり、これを一緒にしてしまうことに問題も指摘されているのである。
ツイッターでは、両映画の盛り上げが目的だったのか、バービーと、きのこ雲とを掛け合わせた写真が出回った。
それが、この2つの映画が一緒に公開された背景に、原爆投下は戦争を終わらせるために必要だったという、アメリカでの一般的な認識が、確認されているかのような印象になったのである。
日本からはクレームが出ている。これを受けて、配給会社のワーナーブラザースの日本法人が、「バーベンハイマー」は公式のものではないと関与を否定。
アメリカ本社の公式アカウントにも出ていたことについては、遺憾として本社に対応を求めたと発表し、不快な思いをした人ににはお詫びするとのメッセージを発した。
オッペンハイマーについて:原爆製造も水爆には反対
オッペンハイマーは、原爆の開発プログラム、マンハッタン計画の責任者である。アメリカ生まれだが、両親は、ドイツからアメリカに移住したユダヤ人であった。
ユダヤ人ではあるが、バルミツバ(成人式)さえしていないような、ユダヤ人らしい生活は全くしていなかったという。青年になってからも、世俗派、ヒューマニズムで通していたが、反ユダヤ主義の影響は受けていたようである。
非常に優秀な学生で、ハーバード大学で、化学を専攻し、のちにカリフォルニア大学バークレーなどの助教授を務めた。第二次世界大戦が始まる前の1930年代から、宇宙物理学における研究をおこなっていたことから、1943年に始まった原子爆弾の製造に関わるマンハッタン計画の主導者に選ばれた。
それまでのオッペンハイマーは、自分がユダヤ人であることは、完全に無視したような人生を送っていたが、ドイツでユダヤ人が殺戮されていることを知り、原爆のこのプログラムを熱心に進めたという。
それを裏付けるかのようだが、このチームの主要な学者の8人のうち6人はユダヤ人だったという。中には、ナチス支配下にあったヨーロッパからのユダヤ難民もいたという。
www.lanl.gov/museum/news/newsletter/2021/4/manhattan-project-jewish-employees.php
しかし、結局、原爆は、ドイツではなく、日本の広島と長崎に落とされたのであった。しかし、アメリカでは、これでオッペンハイマーは、戦争を終わらせたとして英雄視されるようになった。(実際には、ナチスはすでに投降しており、日本も時間の問題であったので、原爆投下が戦争終結に必要であったかどうかは論議になっている)
戦後、オッペンハイマーは、アインシュタインらとともに、プリンストン高等研究所に務めながら、原爆の恐ろしさを伝え、核兵器の国際管理を求めるようになった。
また、対ソ連において優越性のために、アメリカで進められていた水爆の開発に反対した。このため、オッペンハイマーは公職を失うこととなった。
映画では、同じくユダヤ人でアメリカ原子力委員会のルイス・シュトラウス氏が、オッペンハイマーが、ソ連関係者ではないかと疑い、失脚させることに関わっていたと描かれているとのこと。
なお、この映画には、原子爆弾の製造に同意署名して後悔したと伝えられているアインシュタインも登場している。アインシュタインもまた、ユダヤ人である。
www.timesofisrael.com/the-jewish-story-behind-christopher-nolans-oppenheimer-explained/
石のひとりごと
オッペンハイマーとバービーを、同じ日に公開するという点からすでに、なんとなくどうなのかな・・という思いがしないでもない。
アメリカには、原爆投下を戦争を終わらせるために必要だったと考える人が、多いことは否定できない事実である。またそう考えなかった場合、受け入れがたい罪意識にさいなまれることにもなるのだろうが、日本人としては、正しく認識しておきたいと思う。
それにしても、当時のナチス(ヒトラー)は、ユダヤ人絶滅を目論んだが、ユダヤ人は、すでに、アメリカにも大勢いたのであり、その時点でもすでに、世界に影響を及ぼす位置で活躍していたということである。ヨーロッパのユダヤ人を絶滅させようとしたヒトラーの考えは、実に愚かなことであった。