一家5人死亡のイタリア・ケーブル事故:エイタン君(5)回復へ 2021.5.31

バイランさん一家 右下の少年が重症のエイタン君 https://www.ynetnews.com/article/ryb4ihdFO

イタリアでのケーブル事故

イタリアでのケーブル事故で、イスラエル人一家5人を含む14人が死亡した事故。犠牲となったのは、イスラエル人一家5人と、若いイタリア人婚約者含むカップル3組、1組の夫妻とその子供(5)が含まれていた。この事故で2歳と5歳の幼児2人が死亡したことになる。

イスラエル人一家5人については、アミット・バイランさん(30)とその妻タルさん(26)、その次男トム君(2)、タルさんの祖父母、イツハクさん(81)とバーバラさん(71)夫妻の5人。報道によると、エイタン君は、父親のアミットさんが抱いて衝撃を緩和していたために、生存につながったとみられている。

バイランさん一家は、イタリア北部のロンバルディ地方、ファビアに在住していた。アミットさんは、ここで医学生として学びながら、ユダヤ人学校の護衛として働き、生計をたてていた。

今回犠牲になったタルさんの祖父母(エイタン君からは曹祖父母)は、コロナ規制が解除になったことを受けて、久しぶりに、この家族に会うために、イスラエルからイタリアに来ていたのであった。遺品からは、墜落寸前に撮られたとみられ、ケーブルの中から外の景色を眺めているイツハクさんとエイタン君の写真が残されている。

www.timesofisrael.com/israeli-boy-orphaned-in-italy-cable-car-crash-starts-to-ask-about-his-parents/

あまりにも悲惨な事故でもあったことから、ローマ教皇が、遺憾と深い悲しみとともに、特に一人だけ生き延びたエイタン君への懸念を表明している。

www.vaticannews.va/en/pope/news/2021-05/pope-francis-telegram-italy-stresa-mottarone-cable-car.html

エイタン君回復へ

エイタン君は、複数の骨折で重症であったため、安定剤を使用して眠らせていたが、神経的ダメージがないことから、安定剤からは離脱を始めている。

両親と弟の死については、あまりにも大きすぎる衝撃であることから、地元病院では、エイタン君に専属の心理学者を配置したとのこと。エイタン君は、覚醒して両親のことを聞いているとのことだが、まだ本人には、現状は伝えられていないもようである。

イタリアでは、イスラエル人でもエイタン君は、イタリアで生まれ育っていたことから、イタリア人家族3組が、養子として引き取りたいと申し出たとのこと。

また、イタリアのユダヤ人コミュニティは、エイタン君のためにと献金を募り、約5万ドル(約600万円)が集まっている。この他、先週イタリアで行われたバイクレースの賞金が、この事故の犠牲者のためにと献金されたとのこと。

www.timesofisrael.com/israeli-boy-orphaned-in-italy-cable-car-crash-starts-to-ask-about-his-parents/

なお、アミットさんと家族5人の遺体は、先週、イスラエルに戻ってすでに埋葬されている。これについては、配慮からか、イスラエルでもニュースになっていなかった。

事故は人災:関係者3人逮捕

事故後、イタリア当局は原因についての捜査を開始。まもなく、これが悲惨な人災であったことが明らかとなった。

この観光ケーブルは、コロナにより昨年から運営を停止していたが、今年4月26日に運営再開となっていた。まもなく、緊急ブレーキに障害が発見されたが、技術者と経営陣は、営業停止を恐れて、ブレーキをブロックする形でこれを隠蔽し、運営を継続していたのであった。

緊急ブレーキがブロックされていたので、ケーブルが逆走を始めた際に、ブレーキが聞かず、時速100キロを超える速度で降った後、中継の塔に衝突して、空中に舞い上がった後、54メートル下の地面に激突。斜面を数十メートル転がった後、木にあたって停止した。なぜ逆走が始まったかについては、まだ不明だとのこと。

www.dailymail.co.uk/news/article-9622373/Coffins-Israeli-family-killed-Italian-cable-car-horror-lined-ahead-repatriation.html?ito=social-twitter_mailonline

イタリアの警察は、このケーブルのマネージャー・ガブリエレ・タディニら3人を逮捕した。違反や危険性を意識した上で、ブレーキをブロックしたことが明らかになっており、重大な過失致死になるとみられる。

マネージャーのダディニは、責任はすべて自分にあることを認めているが、ケーブルは順調に動いており、まさかこんな事故になるとは予想もしなかったとも語っている。しかし、3人に深い後悔の様子があり、逃亡の危険性は低いとして、1人は釈放。2人は自宅監禁に置かれているとのこと。

BBCによると、このケーブルが設置されたのは、1970年にさかのぼる。その後、2014年と2016年にメンテナンスで運営を停止したことがあった。警察は、これ以後、今回のようなブレーキの不調があったにも関わらず、普通に隠蔽されてきたのではないかと見ている。

www.timesofisrael.com/suspects-in-italy-cable-car-crash-released-from-custody-1-sent-to-house-arrest/

石のひとりごと

エイタン君のこれからの人生はどうなっていくのだろうか。また、娘一家と、両親を一度に失ったタルさんの両親(父方か母方かは不明。おそらく50歳代)のことを思うと、心が沈む思いがする。イタリア人の犠牲者の中にも、夫婦とその5歳の子供が含まれており、その親たちは、子供と孫一家を失っている。

日常に普通にあるかもしれない、ちょっとしたごまかしがこれほどまでに悲惨な事故になったということ。改めて肝に命じなければならない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。