4月17日、テロ行為などでイスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ囚人6500人のうち、少なくとも1187人が、ハンガーストライキに入った。4月17日は、パレスチナ人たちの間で、”囚人の日”と呼ばれる日である。
ハンストとは、死に至るまで断食を行い、囚人の健康を守る責任を持つ刑務所とその政府を困らせ、抗議行動を行うというものである。
Yネットによると、1967年以来、テロなどで逮捕されたパレスチナ人は、60万人。その中でパレスチナ囚人たちは、こうしたハンストを20回も行い、政治犯として通常の犯罪者とは違う取り扱いになるなどの利益を勝ち取ってきたという経過がある。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4949903,00.html
また、ハンストが始まると、ベツレヘムやヘブロンなど、パレスチナ自治政府領内各地で、囚人らを支持するデモが発生。イスラエルの治安部隊と衝突した。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4949978,00.html
<終身刑囚人マルワン・バルグーティの呼びかけ>
今回、ハンストでパレスチナ囚人らが要求するのは、イスラエルの刑務所は非人道的だという非難と、パレスチナの(イスラエルからの)解放と自由を国際社会に訴えることである。
しかし、今回は、それだけではなく、その背後に濃厚な政治的な目的があると指摘されている。
このハンストを呼びかけたのは、第二次インティファーダの際に、多数の自爆テロを指導し、自らもテロでイスラエル人5人を殺害した凶悪なテロリストとして、終身刑を5回言い渡され、すでに15年もイスラエルの刑務所にいるマルワン・バルグーティである。
バルグーティは、ハンストに先駆け、いかにイスラエルが、パレスチナ人を非人道的に逮捕し、拷問を行って取り調べをしているかなどを赤裸々に書き連ね、”イスラエルに虐げられているパレスチナ人の解放”を訴える記事をニューヨークタイムスに投稿していた。
記事:https://www.nytimes.com/2017/04/16/opinion/palestinian-hunger-strike-prisoners-call-for-justice.html?_r=0
それを、ニューヨークタイムスは、ハンスト開始の日に合わせて発表している。バルグーティとニューヨークタイムスの間になんらかの協力があったとして、イスラエルはこれを非難している。
*世界一甘い?イスラエルの刑務所
バルグーティの記事を読むと、イスラエルは非常に非人道的な扱いをしていることになっている。しかし、実際はそうではない。
数年前に、イスラエルのオフィル刑務所を取材したが、パレスチナ囚人たちは、刑務所の食事の他に、差し入れ等独自の食物を管理する倉庫を持っていた。
管理するのはパレスチナ囚人自身で、刑務所の食事は断食しても、その倉庫からの食物を摂ることも可能といえば可能であった。もちろん、完全な断食を行って、実際に死亡寸前まで行き、刑務所から出た囚人も過去にはいるのだが、選択として、食べる道はあるということである。
また現在は、停止したが、かつてパレスチナ囚人は、イスラエルの刑務所にいる間に、無料で、ヘブライ語学べる他、これも無料で、ヘブライ大学で学士を取ることも可能であった。*後者はその後、廃止になっている。
また、アラビア語の本の差し入れも可能であった他、アラビア語による集会なども可能であった。そのため、イスラエルの刑務所で、新たにテロを学ぶ若者もいたほどである。かなり閉鎖的な日本の刑務所とは比べものにならないほどの自由であるといわざるとえない。
また、イスラエルの刑務所が、バルグーティが訴えるような非人道的な環境ではないということは、パレスチナ囚人全員が、このハンストに参加しなかったことでも明らかである。
だいたい、イスラエルで終身刑のバルグーティが、イスラエルの知らないところで、ニューヨークタイムスに投稿できたこと事態、それを証明しているかのようである。
<政治的背景とは?:ポスト・アッバス>
では、今回、バルグーティが、ハンストを始めたのはどういう目的なのだろうか。
パレスチナ社会は、現在、西岸地区のPLOファタハと、ガザ地区のハマスに分裂している。今の所、ファタハにもハマスにもそれを解決する力はまったくないため、パレスチナ人の間には絶望感が広がっている。それがナイフなどによる、自殺行為的な単独テロを増長させているとも考えられる。
そうした中、バルグーティ(58)は、アッバス議長と同じPLOファタハの指導者の一人で、唯一、カリスマ性を持つ有力な指導者であると目される人物である。イスラエルの刑務所に長期間いることで、パレスチナ人からの尊敬もある。
しかし、いかんせん、バルグーティは、刑務所にいる囚人であるので、当然、指導者にはなれないのではあるが、アッバス議長の求心力が落ちる昨今、もしバルグーティが指導者になれば、ファタハは盛り返すと目されている。
イスラエルですら、もし将来、アッバス議長が倒れた場合、ハマスに西岸地区を奪われるよりは、バルグーティを時期ファタハの指導者に据えたほうがましだとして、刑務所からあえて出すことも可能性としては全くありえないことでもないとまで言われている。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4950793,00.html
バルグーティに関する動きを、ファタハ、ハマスがどうみているかがだ、Yネットの分析によると、自分より人気のあるバルグーティの頭角をアッバス議長は快く思わず、またハマスにしても、強いファタハの登場は歓迎するものではない。
しかし、どちらも、一般のパレスチナ人の間でカリスマ的人気を持つバルグーティを、容易に非難することもできないといったところのようである。
<イスラエル政府の対応>
イスラエルは、バルグーティの身柄を北部の刑務所の独房へ移した。ハンスト参加者を今以上に煽ることを予防するためである。
また、国内治安担当のギラッド・エルダン氏は、ハンストをしている囚人で医療的ケアが必要になった者を受け入れる準備をすすめるよう指示した。イスラエルとしては、強制的な食事摂取も行う。これについては法整備もすでに完了している。
バルグーティの訴えは、実際とは違う点が数多くある。もとより、ハンストの本当の目的は、刑務所での処遇改善ではなく、政治的(バルグーティの立場を強調する)目的と考えられている。
このため、エルダン氏は、ハンストの囚人たちとは交渉はしないと、当初から発表している。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4950460,00.html
<刑務所前でバーベキュー>
パレスチナ囚人のハンストが始まった2日後、エルサレムとテルアビブの間にあるオフィル刑務所前では、右派のユースらが、バーベキューを行い、その匂いを刑務所内に送り込み、ハンストを中断させようというイベントが行われた。
なんともイスラエル人らしい発想だが、イベントが始まって、よい匂いが漂い始めて45分後、警察がこれを停止させた。