<ドイツで爆弾テロ未遂か?>
パリでの連続テロの後、ヨーロッパでは、どこでもテロが発生する可能性があるとして、各国で警備が強化されているが、17日夜、ドイツのハノーバーで、きわめて確実なテロの情報が入ったとして、サッカーのドイツ・オランダ戦がキャンセルとなった。
キャンセルが決まったのは、試合開始のわずか90分前。スタジアムは、49000席と巨大で、特にこの試合は、メルケル首相も観戦する予定になっていたため、リスクを回避したものである。集まりつつあった観客は、警察の指示に従い、速やかに退去した。
警察は、このスタジアムの近くで行われようとしていたコンサートも中止とし、この後、市内全域にわたって警戒態勢を強化した。
これまでのところ、爆発物は発見されず、逮捕者の報告もまだ出ていない。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4727299,00.html
<フランスの決断:対ISIS・地球規模の連合軍結成呼びかけへ>
フランスのオーランド大統領は、テロに屈しないばかりか、反撃に出る意志を明確に表明。テロ後、ただちにISIS拠点、シリアのラカへの空爆を行った。18日にも、戦闘機10機によるラカへの激しい空爆を行っている。フランス空軍機の発進地は、アラブ首長国連邦とヨルダン。
オーランド大統領は、ISISは、封じるのではなく、絶滅させなければならないとして、近く、アメリカとロシア両国の首脳を訪問し、地球規模の連合軍を結成してISISの壊滅をはかるよう、働きかける方針を明らかにした。
フランス国内においては、テロ直後から国家非常事態宣言を出し、国境をすべて閉鎖。これまでに11万5000人もの警備体制をとりつつ、生き延びたとみられるテロの実行犯逮捕(現在2人)にむけた踏み込み強制捜査を続けている。
強制捜査は、月曜までにリヨンやチューローズなど6つの都市で168カ所。18日だけでも128カ所にのぼる。これにより、逮捕されたのは23人(18日の逮捕分は不明)。ロケット弾発射機や手榴弾、カラシニコフ自動小銃など31の武器が押収された。
さらには、国内で”S”(治安上危険人物)としてマークされていた104人を自宅監禁として監視下においた。
こうしたかなり踏み込んだ捜査は、国家非常事態でのみ可能になる。オーランド大統領は、国家非常事態ステータスを3ヶ月に引き延ばす方針で、法整備がすすめられている。
news.sky.com/story/1588358/rocket-launcher-found-in-french-police-raids
*明らかになってきた犯人像
フランスの主都パリで129人もの死者を出す大惨事となったテロを起こした犯人はこれまでの調べでは8人。このうち6人は自爆。1人は警備員に射殺され、事件当日に死亡している。このうち6人の身元が発表された。
テロを計画した主犯は、ベルギー国籍で、現在、シリア在住のアブデルハミド・アバウドと伝えられている。フランスは、諜報機関をフル回転し、シリアにいるアバウドの行方を追っている。
次にパリでの実行犯グループの中で生存しているとみられているフランス国籍のサラ・アブデスラム。フランス警察は国境で、いったんサラ・アブデスラムと一緒にいた3人を逮捕したものの、その後通過させていた。
バタクラン劇場で自爆したイスマエル・オマル・モステファイ(29)。アルジェリア系でパリ在住。2013年にシリアへ渡航していた。
同じくバタクラン劇場で自爆したフランス人のサミー・アミモール(28)。2012年から国際的に指名手配されていた。サミーの父は、昨年、シリアへ行き、サミーを連れ戻そうとしたが、息子は父を追い返したという。
この他、カフェで自爆したイブラヒミ・アブデスラム(31)フランス人。サッカースタジアムで自爆したビライ・ハドフィ(20)、ベルギー人。
同じくスタジアムで自爆した人物は、近くにあった身分証から、シリア難民で、セルビア経由でヨーロッパ入りしたアフマド・アル・モハンマド(25)とみられている。これについては、今後、ヨーロッパでのシリア難民の受け入れに影響を及ぼす可能性がある。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4726642,00.html
オーランド大統領は、上記にようにフランスとの二重国籍のを持ち、テロに関わりがある場合は、フランスの国籍を剥奪する手続きの簡素化する他、外国人で、治安上フランスの脅威になる人物は、すみやかに強制送還できるようにするなどの方策をすすめている。
<パリ経済への影響>
パリでは、テロには屈しないことを強調しており、航空関係を含めて、公共交通機関、エッフェル塔、ルーブル美術館などの観光地もほとんどは、通常営業に戻されている。今の所はまだ大きな影響は報告されていない。
しかし、日本のHISではパリ行きのツアーをキャンセルした他、大手企業もパリへの出張は控えているという。今後、パリをはじめ、ヨーロッパへの観光業が落ち込み、各国の経済に大きな影響が出て来ることが懸念される。
<G20:各国の反応>
15-16日、トルコのアンタルヤではちょうどG20が行われた。各国首脳は、テロ行為を非難するとともに、今後、経済的な影響が出て世界経済は不安定になるとの共通の認識に至っている。
1)アメリカ:世界的テロを収拾するにはISIS指導部を壊滅し、シリア新政権を樹立する事が解決への道
今に始まったことではないが、ISISは昨日、「次はアメリカの主都ワシントンDCだ。」と、アメリカを脅迫する新たなビデオを流した。
フランスを訪問中のケリー国務長官によると、アメリカは、世界に広がるテロを押さえるにはやはり、中央から影響を与え続けているシリア・イラクのISISの指導部を壊滅することが解決への道だと考えている。
その後、シリア人自身による新政権を樹立することが必要だが、それには時間がかかるとのオバマ大統領の見解を改めて強調した。
オバマ大統領自身は、「有志軍によるシリア・イラクでのISIS攻撃は、効果なし。」との批判もあるが、実際にISISは、未だバグダッドにも。ダマスカスに至っておらず、クルド人勢力が、200もの町や村をISISから開放するなど、領地的観点からいえば、一定の効果をあげていると評価した。
一方で、こうした世界に散らばる分子による情勢悪化には対処できていないとの見解も明らかにした。
地上軍派遣については、アメリカは続けて地上軍を派遣しない方針は変わっていないと語った。しかし、アメリカの防衛関係者やNATO関係者も、ISISを壊滅させるにはいずれは地上軍が不可欠だと言っている。
アメリカは、17日、ケリー国務長官をフランスに派遣。今後について、オーランド大統領との会談を行っている。
2)ロシア:フランス(アメリカとも?)と協力してISIS空爆強化へ
ロシアのプーチン大統領とオバマ大統領の間には、シリアのアサド大統領を残留させるかどうかで、まだへだたりは大きい。しかし、ロシアは、17日、先月、シナイ半島で発生したロシア機墜落がテロによるものと認めるとの公式発表を行った。
プーチン大統領は、今後、テロリストを徹底的に追求すると宣言し、この件について犯行声明を出していたISISの本拠地、ラカへの攻撃を強化した。BBCによると、ロシアは、フランス、またアメリカとも協力している?との情報もある。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4726957,00.html
3)イギリス:ISISと戦う有志軍に参加するか?
イギリスは、2年前にキャメロン首相が、ISISを攻撃するアメリカ有志軍にイギリスも参加するよう提案したが、いったんは議会がこれを却下。後にイラクに限り、空爆を認めるという形になっている。
今回のフランスでのテロを受け、キャメロン首相は、イギリスも無関係ではないとして、シリアも含めて有志軍の攻撃に参加するかどうかを再度議論すると発表した。しかし、あくまでも議会の決定に従うと強調している。
フランスは、NATO加盟国である。今後NATO軍がどう出るかも含め、イギリスの出方が注目される。
4)日本:防衛対策開始(朝日新聞15日、毎日新聞17日記事より)
日本の安倍首相は、G20に出席した後、イギリスのキャメロン首相と会談。安全関連保障法案が成立したことを報告し、テロ対策で協力して行くことを確認した。http://digital.asahi.com/articles/DA3S12070900.html?rm=150
国内では、特に来年5月には、伊勢志摩で主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が予定されているため、三重県の知事が警備強化の関連予算の増額を国に求めて行く方針である。
それに先立つ4月には広島でサミットの外相級会議が予定されている。広島空港などでも入国審査の徹底が行われる予定。
ソフトターゲットであるディズニーリゾートや、幕張メッセなどの観光地では14日から機動隊を配備。成田空港ではフランス系航空会社関係の警備を強化している。http://mainichi.jp/select/news/20151117k0000e040215000c.html
*安倍首相とキャメロン首相と会談の背景:中国に牽制
余談になるが、なぜ今回、安倍首相が特別にイギリスのキャメロン首相と会談したかについては、背景がある。先月、中国の習近平国家主席がイギリスを訪問した際、イギリスは、原子力発電所の原子炉を中国から購入することを決めた。(総額7兆円の契約)
イギリスの中国製原子炉導入は、先進国としては初めてで、これまで日米欧が主導をとってきたインフラ市場が大きな転換期を迎えたと日経新聞は伝えている。安倍首相のキャメロン首相との会談は、イギリス・中国の関係が急接近したことへの牽制とみられる。
www.nikkei.com/article/DGXLASGM21H91_R21C15A0FF1000/
<イスラエルの反応>
パリでのテロ事件は、イスラエルでも、発生当時からテレビのニュースでのトップである。事件発生直後から、プライムタイムのキャスターをパリに派遣し、連日現地からニュースを流している。
パリでの残虐なテロ事件に世界中が心を寄せる中、イスラエルでも、土曜夜、エルサレムの城壁と、テルアビブ市庁舎が、3色のフランス国旗色にライトアップされた。エルサレムの通りでは、今もフランスの3色の旗がひらめいている。
テルアビブのハビマ・スクエアでは、土曜夜、数千人が集まり、フランスへのサポートとともに、金曜夜、ヘブロン近郊でのテロで死亡したヤアコブ・リトマンさん父息子へのテロも覚えて、テロには断固反対するデモを行った。
ただし、このデモは本来、ハイファ沖で発見されたガス油田の扱いに関する政府の方針に反対するデモとして予定されていたものであり、ちょうど時期が重なったために、テロに反対するデモで始められたといえる。
テロに反対の後は、政府が近々承認しようとする天然ガスの扱いに関する取り決めに反対するデモとなった。政府の承認案では結局、特定の企業だけが利益を独占することになるためである。同様のデモはテルアビブの他、ハイファやなど各地でも行われた。
なお、テロに関するイスラエルの動きだが、世界のテロとの戦いに、イスラエルが表立って出てくる事はない。しかし、中東での情報収集についてはイスラエルが最先端に立っていることは間違いない。水面下での情報提供は行っていると事件当初には報じられた。しかし、今はそういう報道はない。
<中東の人々の反応>
中東では、パリでのテロ事件の後、フランスや世界が急に動き始めていることについて、シリア難民など中東からは、「こうした事件はシリアでは日常だ。自分のところで129人死亡したら、本格的に腰をあげているようだが、シリアで過去4年にわたり、25万人もの人々が殺されても、世界は動かなかった。」と、大国の不条理を訴える声がある。
実際、レバノンでは、パリでのテロの数日前に、同様の人ごみの中での連続自爆テロで40人以上が死亡した。この時、世界は、いわば、”そういうことが起こっても不思議はない地域”という見方であり、大きな行動にでることはなかった。
www.bbc.com/news/world-europe-34842535
<今後の懸念:サイバー分野>
今後の懸念だが、テロ未遂が発覚したドイツ、名指しで脅迫されているワシントンDC、ロンドンやローマなど、ヨーロッパを中心に世界のどこで大きなテロが発生しても不思議はない。地球の反対側のオーストラリアでも過去に数回、こうしたテロが未然に防がれたことがある。
ISISは、頭脳、経済力ともに、相当な力を持っている。今後懸念されることは、パリのテロのような自爆攻撃だけでなく、政府関係機関や銀行、飛行機、管制塔、病院などのコンピューターを操作してしまうサイバー攻撃である。
イギリスでは、国内でのサイバーセキュリティを強化するための予算増額が予定されている。
また民間のサイバー攻撃グループで、一時はイスラエルを狙うとも言っていた「アノニマス」が、ISISに対する戦争を強化するとのコメントをネット上で流している。