アメリカはイスラエルと共に立つ:トランプ大統領訪問 2017.5.23

トランプ大統領が、昨日22日正午すぎ、直前の訪問国、イスラエルとは国交のないサウジアラビアから、エアフォースワンの初の直行便でイスラエルに到着。2日間の公式訪問を終え、翌23日の今日夕方、もうまもなく空港からバチカンへ向けて飛び立とうとしている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/229992

トランプ大統領については、外遊直前に、イスラエルのスパイからの機密情報をロシアに漏洩したとのスキャンダルが報じられ、両国の関係が懸念される動きもあった。

しかし、イスラエル政府は、就任後初めての外遊でイスラエルを訪問先に含めたというこの訪問自体が、それを否定するよい証になっていると主張。今回のの訪問を、”Ever Stronger”(これまでよりも強い(友好関係))と名付けて、トランプ大統領を迎えた。

トランプ大統領もまた、イスラエルでは、ユダヤ人にとって大事な場所である嘆きの壁、ヤドバシェム、そして、最後の記者会見を、イスラエルにおけるユダヤ人の3000年の歴史を裏付けるイスラエル博物館で行い、イスラエルへの友好関係の深さを証しした。

イスラエル博物館での最後の記者会見は、ネタニヤフ首相との共同会見で、政府閣僚、チーフラビや各宗教指導者が集められる中で行われた。

トランプ大統領は、ユダヤ人の聖書時代以来の長い歴史と、苦難の中から帰還した経過への理解と感動を語るとともに、治安情勢においても、理解を示し、「このドナルド・トランプは、イスラエルの滅亡を言い続けるイランに、絶対に核兵器保有を許さない。」と宣言した。

最後には「アメリカはいつもイスラエルと共に立つ」と約束。何度もスタンディングオベーションを受けた。具体性には欠けたが、イスラエルのユダヤ人にとっては、非常に心温まるメッセージであったと言える。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4966290,00.html

滞在28時間という非常に短い訪問であり、特に具体的なことが決まったわけではなかったが、注目点は多数あり、イスラエルでは”歴史的”と評される訪問となった。イスラエル滞在中のトランプ大統領の動きと、特に注目された点をまとめた。

<イスラエルでの行程>

1)22日(月曜)

到着した22日、空港での歓迎式典(約45分)の後、そのままヘリコプターでリブリン大統領官邸を訪問(約45分)。その後、プライベートで、旧市街へ。

歩いて聖墳墓教会(キリストの墓とされる地の教会)を訪問。同教会では、6つの宗派が常に争っているので、どのようにトランプ大統領を案内するのか注目されたが、そこからユダヤ地区まで歩いて出て、駐車場から、車で嘆きの壁へ向かった。

夜には、キング・デービッドホテルで、ネタニヤフ首相と会談、記者会見の後、首相官邸に移動して、ネタニヤフ夫妻との夕食会となった。

www.jpost.com/Israel-News/Hours-before-Trump-arrives-updated-visit-schedule-released-492495

2)23日(火曜)

翌日は、午前中に、ベツレヘムでアッバス議長と約1時間面会し、記者会見を終えると、ランチもそこそこに、メラニア夫人や家族たちとともに、ヤド・バシェムの記憶のホールでの献花と記念式典(30分)に出席した。

トランプ大統領は、ここで、家族でただ一人生き残ったマーゴット・ゴールドステインさんから、その妹(16歳でナチの犠牲で死亡)エステルさんのアルバムのコピーを授与された。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4966252,00.html

そこからイスラエル博物館へ直行し、まとめの記者会見を行い、そのまま空港へ直行。バチカンへ向かった。

<注目された点>

1)現職米大統領では史上初:嘆きの壁訪問

現職のアメリカ大統領として、嘆きの壁を訪問したのは、トランプ大統領が初めてである。

旧市街は、東エルサレムであり、国際社会ではまだイスラエルの領地とは認められていない。そこをイスラエル公式に訪問した際に訪問すると、旧市街はイスラエルの領地と認めたととられる可能性がある。

このため、これまでの大統領は嘆きの壁を訪問しなかったのである。

さすがにネタニヤフ首相の同伴は断ったものの、トランプ大統領はキッパをつけて、嘆きの壁に手をおいて、しばらく立ち、願い事を書いた紙を残した。トランプ大統領は後に、この時、「神の知恵」を祈ったと語っている。

メラニア夫人も女性セクションで一人で壁の前に立った。上級顧問のクシュナー氏とイバンカさんや、同伴のティラーソン国務長官ら政府高官も同様に嘆きの壁に立った。

その後、トランプ大統領は、西壁専属のラビ・ラビノビッツと、西壁遺産基金のモルデハイ・エリヤブ氏から、歴史的な説明を受け、ラビたちとともに、詩篇122編「エルサレムの平和のために祈れ。おまえを愛する者が栄えるように。」と、詩篇121編を朗読した。

ラビたちは、トランプ大統領の名前と、「この古代の書が、あなたを守り、全世界を守れるようにしてくれます」と記入した詩篇の書を贈答した。

この嘆きの壁への訪問について、トランプ大統領は、ネタニヤフ首相との共同記者会見において、イスラエルは「美」と「神の霊」に満たされている国だと語り、嘆きの壁で受けた印象は一生のこるものとなったと語った。

これは、実質、トランプ政権は、嘆きの壁は、ユダヤ人の聖地であると認めたということである。昨今、ユネスコが「ユダヤ人と神殿の丘、嘆きの壁」とは無関係、さらには「エルサレム」自体がユダヤ人とは無関係と示唆するような採択をしたことに反する動きである。

そういうわけで、イスラエルでは、トランプ大統領の嘆きの壁訪問は、イスラエルでは、歴史的訪問と高く評価されている。ネタニヤフ首相も、感謝を述べた。

www.jpost.com/Israel-News/Politics-And-Diplomacy/An-historic-day-at-the-Western-Wall-493588

2)イランについての共通の認識を表明

リブリン大統領、ネタニヤフ首相との共同声明の中で、トランプ大統領は、明確に対イラン政策で、イスラエルと共通の認識であることを明らかにした。

「イランには核兵器を絶対に持たせてはならない。2015年に、オバマ政権が主導して導いたイランと世界諸国との合意は危険である。」と語っている。

合意によって、経済制裁が緩和され、多額の資金がイランに流れた上に、合意期限が切れた際には、イランは自由に核兵器開発を再開できる可能性が残されているからである。

トランプ大統領は、イランについて、また過激派勢力との戦いにおいて、アメリカとイスラエルとの深い友好関係を強調するとともに、平和は実現できると信じていると語った。

www.youtube.com/watch?v=7iBV3iAek1M

3)中東和平において2国家解決へのこだわり表明せず:平和の実現への希望的楽観を表明

トランプ大統領の中東和平への意気込みは、米大使館のエルサレム移動が先送りになるなど、就任当初よりはかなり尻すぼみになったが、それでも、両者の会話再開への意欲がなくなったわけではない。

トランプ大統領は、ネタニヤフ首相との共同会見において、イスラエルとパレスチナの問題を解決するのは世界で最もタフな問題だとしながらも、「今、和平推進への変化のチャンスの時が来ていると期待する。」と、解決に向けた楽観的希望を述べた。ネタニヤフ首相もこれに同調した。

何をもって、チャンスの時と言っているのかだが、まずは、トランプ大統領が、これまでになかった新しいタイプの大統領であるという点があげられる。

実質優先、柔軟変化、何をするのか予測不能ということから、リスクがあるものの、何か新しい手を出してくるかも。。との期待感もなきにしもあらず。。。である。

その一環か、トランプ大統領は、オバマ前大統領のように、2国家共存を目指すということはいっさい言わず、成功するならなんでもよいという態度である。

また、イスラエルの前に訪問したサウジアラビアで、イスラム諸国指導者50人と対話し、トランプ大統領が、歴代大統領よりもイスラム社会に受け入れられ始めている・・・と考えられる点である。(後述記事参照)

イスラエルにとっては、トランプ大統領が”触媒”となり、湾岸イスラム諸国との国交が正常化することは、有益なことであるし、そうなれば、パレスチナ人も、経済的にも依存しているアメリカや湾岸諸国の手前、イスラエルとの妥協に応じる可能性がないとも言い切れない。

トランプ大統領の楽観スピーチが、ただの楽観で終わるのか、本当に事が動くのか。イスラエルでは、懐疑的ながらもとりあえず今は、期待の空気になっている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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