ぎりぎり中東戦争?:イスラエル軍が中東広域でイラン拠点を攻撃か 2019.8.26

この週末、イスラエル軍が、イラク、シリア、レバノンと中東の広範囲で、イランの拠点をつづけさまに攻撃したと伝えられた。

INSS(イスラエル国家治安研究所)のアモス・ヤディン所長(元イスラエル軍諜報部長官)は、今、イスラエルとイランの紛争が、アメリカとロシアが見守る中、シリア、イラク、レバノン、広域にはサウジアラビアとイエメンも含め、中東全域で、繰り広げられていると語った。

イスラエルの閣僚、エルキン環境相が、「イランは今、中東全域にその帝国を築いて、イスラエルへの攻撃に備えようとしている。」とのコメントを出したが、イスラエル政府が、これに対処しているとみられる。

ただし、攻撃は、大きな中東戦争に発展しないよう、注意深く、相手に警告も与えながら、ぎりぎりのところで行なわれているもようである。

一方、これと並行して、中東から目をそらせようとするかのように、イスラエル国内の西岸地区、ガザ地区では、テロ事件や、軍との衝突が、相次いでいる。

ヤディン氏は、軍は、国内のテロ事件に振り回されることなく、中東広域での諜報活動も的確に行い、迅速に対処していると、軍の動きを評価するとコメントした。ここしばらくの中東での攻撃は以下のとおり。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/267868

1)イラクでイラン拠点を攻撃:イラン司令官2人死亡

23日(金)、イラクのイラン拠点、ハシェッド・アル・シャビの武器庫が攻撃、爆破された。ハシェッドは、イランと関係のあるシーア派主流のグループである。この拠点は、7月にも攻撃を受けており、イラン人司令官2人が死亡している。

これを受けて、イランの拠点とする強力なイラク人シーア派イスラム指導者グランド・アヤトラ・カゼム・ハエリは、攻撃はイスラエル軍が、アメリカ軍の協力を得て実施したとして非難。イラクのアメリカ軍は直ちに撤退させると主張した。

こうなるとイラクに駐留するアメリカ軍に危害が及ぶことが懸念される。このためか、アメリカ軍は、当初、この攻撃がイスラエルによるものとの見解を発表したが、後に、8月の熱波(43度)によるものとの推測に変更した。イラクの武器庫では、こうした熱波による自然発火は時々あるのだという。

イラクには、イスラム国への攻撃が行われていた2017年以来、対テロ軍事訓練などを目的として、アメリカ軍5000人が駐留している。いうまでもなく、この地域におけるアメリカ軍は歓迎されるものではない。

トランプ大統領は、就任当初、イラクにいる米軍の撤退を宣言したが、実際ここからアメリカ軍が撤退すると、イスラエルとクルド人たちが無防備になるため、結局、撤退はできないままとなっている。

シーア派とスンニ派の両方が存在するイラク政府も、対テロ対策のためにも、アメリカ軍の駐留を擁立する立場をとっている。

しかし、イスラエルは、中東にあるイラン拠点の確率を決して容認しないと言っているので、攻撃が続けば、アメリカ人たちに被害が及ぶだろう。そうなると、いよいよアメリカ軍が、ユーフラテス川付近から撤退を余儀なくされるかもしれない。

www.jpost.com/Middle-East/Israeli-airstrike-leads-to-renewed-calls-for-US-troops-to-leave-Iraq-599536

そうなれば、いよいよ、ロシア、イラン、トルコ、中国などの大国がユーフラテス川を越えて、イスラエルに流れ込んでくるという聖書の預言が実現する可能性が出てくるかもしれない・・・。

2)ダマスカス南東部イランの”神風・ドローン”拠点攻撃:イラン兵1人、ヒズボラ2人死亡

24日(土)イスラエル軍は、シリア首都ダマスカス南東部のヒズボラとイラン革命軍の拠点を攻撃。イスラエル(ゴラン高原)に向けたテロ攻撃用ドローンが準備されていたためと公式に発表した。

イスラエル軍によると、この拠点から発せられる予定であったドローンは、数キロの爆発物を運搬可能で、イエメンでイランが使っているタイプのもので、イスラエル北部ゴラン高原に侵入したのち、複数のターゲットで自爆するとみられた。

イスラエル軍スポークスマンのコーネリウス少佐はこれを「神風・ドローン」と表現している。イスラエル軍は、このテロが市民をねらう計画であったとして、大きな危機を未然に阻止できたとみている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/267875

*神風ドローン関連のビデオ(イスラエル軍): http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/267881

コーネリウス少佐によると、イスラエル軍は、この数ヶ月、イランのアル・クッズ革命軍とヒズボラが、この拠点から、イスラエルへのドローン攻撃を準備しているのを観測。その最終段階で攻撃を実施したと説明している。

しかし、イラン革命軍のモシェン・ラザエイ長官は、このイスラエルの発表を否定。イスラエルにもアメリカにも、イランの様々な地域の拠点を攻撃する能力はないと反論した。

www.timesofisrael.com/iran-denies-its-posts-were-hit-in-syria-strike-2-hezbollah-fighters-said-killed/

しかし、シリアの国営放送は、土曜にダマスカス近郊で、実際に攻撃があったことを伝えていた。また、シリアの人権保護監視組織によると、この攻撃で、イラン兵1人、ヒズボラ2人が死亡したという。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5574994,00.html

ネタニヤフ首相は、「イランがどこにいるかはお見通しだ。イスラエルの治安を脅かすイランやその関係組織に容赦することはない。イランに(イスラエルを攻撃する)安全な場所はない。」と語った。

イスラエルが、シリア領内のイラン拠点を攻撃するのは今に始まったことではないが、イスラエルが公式に発表するのははじめてではないが稀である。

これについて、ヤアコブ・アミドロール・イスラエル軍少将(予備)は、イスラエルは、イランが今、中東に拠点を展開しようとしていることをイスラエルは知っているということをイランをはじめ、世界に知らせるために、公式発表したと説明する。

2006年の第二次レバノン戦争の後、イスラエルは、国連監視団軍を信頼していたため、南レバノンに、ヒズボラ(イラン)が、イスラエルの攻撃拠点を築き上げることをむざむざ許してしまった。

国連監視軍は、ヒズボラがミサイルを蓄積するのを放置し、国際社会もこれを無視する形をとったからである。

イスラエルは、これと同様のことが、シリアでもおこり、シリアに、イラン傀儡のイスラエル攻撃の拠点が出来上がってしまうことを容認しないと言っているのである。

3)ヒズボラ拠点でイスラエル?のドローン2基爆発:ベイルート

上記シリアへの攻撃の数時間後、ヒズボラが、レバノンのベイルートで、イスラエルの2基のドローンが爆発したと発表した。

それによると、一基は、爆発物を掲載したもので、ベイルート南部ダヒヤにあるヒズボラのメディア関係のビルに深刻なダメージを与えた。2基目は、1基目のドローンを探しに来たとみられ、空中で爆発して落下したという。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5575082,00.html

レバノンのハリリ首相は、レバノンの主権を侵すイスラエルの無差別攻撃だとして非難。レバノンは度重なるイスラエルのドローンの飛来に以前より苦情を出していたのであった。

これについて、イスラエルはコメントしなかったが、25日(日)、レバノン政府が発表したドローンの写真から、これがイスラエル軍のものとは思えない不出来なもので、イラン製であるとのコメントを出している。なぜイランのドローンが味方であるはずのヒズボラに被害を与えたか??

不明だが、ヤディン元諜報機関長官によると、イランのドローンが、レバノンを出てイスラエルへ入ろうとして失敗したかとの見方もあるようである。

<今後どうなるのか>

今後、どうなっていくのかは不明だが、イランは、経済制裁や、ききんなどで、まともにイスラエルと戦える状態にはないと思われるし、ヒズボラも、今はとりあえず、イスラエルとはことを構えたくないのではないかとの見方がある。

しかし、そこは中東、予想はできない。アミドロール元少佐も、「わからない」と言っていた。

<石のひとりごと>

ニュースだけを見ていると、かなり危機的な状況にみえる。いや、見えるだけでなく、実際にいつ大きな中東戦争になっても不思議はないわけである。

しかし、テロ被害が続く西岸地区、ガザ周辺以外のイスラエル国内はいたって平和。いつもの日常が続いている。上記のような中東情勢は、イスラエル国内にいても、ニュースをみない人は、ほとんど知らないままだろう。海外からの旅行者も相変わらず到着している。

しかし、その平和は、ひとえに国境や、中東各地で危険きわまりない諜報活動を行っているイスラエル軍の司令官や兵士たちがいるからである。平和に旅行できるのは、命がけで戦っているイスラエル軍がいるからということも知るべきであろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。