北部緊張:ヒズボラ戦闘員ら侵入で一時交戦状態 2020.7.28

シェバ農場
出展:wikipedia

27日午後、白昼堂々と、レバノンとイスラエルとの国境、北部ヘルモン山に続くドブ山地域で、レバノン戦争当時の激戦地でもあったシェバ農場方面から、ヒズボラ戦闘員とみられる4−5人がイスラエル領内に侵入。国境に駐留していたイスラエル軍に攻撃を開始した。

イスラエル軍は、ただちにこれに応戦。周辺地域では、銃撃や、爆発音、煙が上がるなどの戦闘の様子が観測されている。最終的に、レバノンから侵入した一隊は、イスラエルへ数メートル入っただけで、レバノン領内へと撤退していった。イスラエル軍に被害はなかった。

ヒズボラ系のメディアによると、ヒズボラ戦闘員にも被害はなかったと伝えているが、真偽は不明。また、レバノンのメディアが、今回のイスラエルの攻撃で、屋内まで破損された南レバノンの家屋の様子を報じたが、人的被害については不明である。

イスラエルとレバノンの間には国連の監視軍がいる。イスラエルは、レバノンのヒズボラ(イラン傀儡)との全面戦争には突入したくないと伝達している。ただし、相手がそうでてくる場合は、戦争にならざるをえないと言っている。

www.timesofisrael.com/israel-said-to-tell-international-officials-it-doesnt-want-war-with-hezbollah/

*これまでの経過

先週20日、ダマスカス南部への攻撃で、ヒズボラのアリ・カメル・モフセン・ジャワドが死亡。ヒズボラが、イスラエルによるものと断定し、報復を予告した。

このためイスラエルは北部の治安部隊を大きく強化したが、25日、ゴラン高原、シリアとの国境で、シリアからの砲撃(イスラエル領内には届かず)があり、イスラエルがこれに対する攻撃をクネイトラのシリア軍拠点(ヒズボラも関連)への空爆を行った。今回の戦闘は、この2日後のことであった。

ガンツ防衛相と軍高官出展:Ariel Hermoni/Defense Ministry

この交戦の後、ガンツ防衛相は、テルアビブのイスラエル軍本部で、軍高官たちとの会議を行い、その後、ネタニヤフ首相とのテレ会議にも望んだ。ネタニヤフ首相は、「難しい治安状況にある。」と述べた。

現在、ヒズボラがどう出てくるか、まだ油断できないことから、周辺地域の住民には、家を出ないようにとの指示が出され、高い警戒態勢が続けられている。

<その後のヒズボラの様子と現状>

この戦闘の直後、ヒズボラは、対戦車砲をイスラエル軍にむけて撃ち込んだと言ったが、イスラエル軍はこれを否定した。その後、ヒズボラは、主張を覆して、戦車砲攻撃だけでなく、ヒズボラ武装兵のイスラエルへの侵入も否定する声明を出した。しかし、シリアで殺害されたヒズボラ戦闘員への報復は必ず行うとも宣言した。

しかし、ヒズボラの現状を見ると、実際には、イスラエルとの戦争どころではなさそうである。約2週間前、複数のイスラエルのメディアが、ヒズボラが、レバノンの内政において、かなり危機的になっていると伝えていた。

ヒズボラは、単なるテロ組織ではなく、レバノン政府の中では、拒否権をもつ強大な政党として、レバノン内政に大きな責任を負っている党である。レバノンでも新型コロナ感染は拡大しており、医療崩壊も目前となっており、ヒズボラへの批判も高まっているという。

ヒズボラをバックアップするはずのイランは、もともとあったききんに経済制裁、コロナ危機、そして、ここ数週間続いている軍関係施設への火災、爆破で危機的な状況に置かれている。ヒズボラは、今、イスラエルと戦争をする状態にはなさそうである。

www.haaretz.com/middle-east-news/.premium-nasrallah-is-running-a-country-in-a-crisis-with-no-solutions-in-sight-1.8985445

<今後の見通し:ガンツ防衛相コメント>

ガンツ防衛相は、この状況から、大きな戦争になることはないとの見通しを述べた。しかし、同時に、もし”むこう”側が、イスラエルを”その状況”に追い込むことがないように願っていると述べた。(状況によっては、戦争もありうるということ)

ガンツ防衛相とネタニヤフ首相は、シリア政府、レバノン政府に対し、それぞれの領域からイスラエルへの攻撃があった場合は、それぞれの政府が責任を負うことになる。」と釘をさした。

www.timesofisrael.com/idf-security-incident-developing-on-lebanon-border-residents-ordered-indoors/

<石のひとりごと:政治的な背景もありうるか・・?>

ネタニヤフ首相とガンツ防衛相がチームアップすれば、最強の治安チームになるとの印象がある。両者とも戦争はなんども経験しているし、首相と軍参謀総長という関係で、ガザとの戦争をともに戦ったこともある。

国民の間で、今、ネタニヤフ首相、また政府への不信が高まっている中、治安状況悪化を見て、国を統一できる強い政府のイメージは、渡りに船的なものがある。実際、ネタニヤフ首相は、政治的な危機にある中、ガザや北部の治安問題で、助けられたことが何度かあった。

また、ヒズボラも、内政が非常に厳しい中、イスラエルを攻撃するという本来の勇敢な姿を示す必要があったかもしれない。報道の解説者の中には、ヒズボラが、白昼堂々、しかも最強のイスラエル軍が構えているとわかっている場所に、4−5人の戦闘員があえて入ってきたという点に疑問をもつ声もあった。

まさか、イスラエルとヒズボラが、このような衝突を協力して演出したとは思えないが、ひょっとして・・?と、想像力たくましく、考えてしまうところである。。。いずれにしても、今は、イスラエルもレバノンも、市民にとっては戦争している場合ではないので、このまま沈静化することを切に祈りたい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。