トランプ政権の”世紀の取引”中東和平案始動へ:バハレーン経済ワークショップ 2019.5.27

92369910991599640360no.jpg  写真出展:Ynet ロイター

19日、トランプ大統領とクシュナー大統領補佐官は、約2年、先延ばしになっていた、”世紀の取引”と銘打った中東和平案を、6月25-26日、バハレーンのマナマで経済ワークショップで明らかにすると発表した。

しかし、この段階で明らかにされるのは、取引の第一段階であり、政治的な事情を取り扱う第二段階の公表はまだその先とのことである。

マナマでのワークショップは、パレスチナ人とその周辺にいる他の必要なアラブ諸国に、有益な経済的な投資をしようとするもので、アラブ首長国連邦やサウジアラビアなど、裕福なアラブ諸国、ヨーロッパやアジアから、この地域に投資できる裕福な国々やビジネスが参加する。

平たくいえば、このワークショップの目的は、資金を集めである。多くの戦争が、結局経済にからんで発生しているので、まずは経済発展のわくぐみをつくった上で、政治的な交渉に入ろうというわけである。

ホワイトハウスによると、この経済ワークショップでは、政府レベルだけでなく、民間のビジネスリーダーも加わってアイデアを出し合い、和平合意によって可能になる地域のプロジェクトに投資して、中東和平を実現・安定化させることを目標とする。

ホワイトハウスからの情報ではないが、ワークショップでの投資目標額は、680億ドル(約7兆円)。投資先は、パレスチナ自治政府、エジプト、ヨルダン、レバノンなどとなっている。

これらの国々は、投資を受ける見返りとして、イスラエルは、1967年以前の国境線まで撤退すべきとする訴えを撤回させる、つまりイスラエルの存在を認めさせる計画とみられる。

しかし、もしそうなると、西岸地区にイスラエル人がとどまることとなり、パレスチナ人の国を作ることは不可能になるようにみえる。しかし、この経済ワークショップのホストであるバハレーンは、パレスチナ人の国家設立を支持していることに変わりはないと強調している。

www.timesofisrael.com/uae-saudi-arabia-to-attend-us-peace-confab-in-bahrain/

こうした動きについて、「平和を金で買おうとしている」との批判もあるが、無論、トランプ大統領がそんな批判を気にするはずもない。要するに平和になれば、それでよいのである。

www.nytimes.com/2019/02/26/us/politics/kushner-middle-east-peace.html?module=inline

イスラエルはこの動きについて、今のところ、静観を決めている。

<パレスチナ自治政府不参加表明:期待感うすい”世紀の取引”>

毎回のことではあるが、パレスチナ自治政府は、アメリカの「世紀の取引」は、イスラエルに有利に働く取引だとして、すでにこれを拒否。バハレーンでのワークショップにも出席しないと表明した。

トランプ政権は、米大使館をエルサレムに移動させるなど、数々の親イスラエル政策をすすめているのだから、今回も親イスラエルになると懸念するパレスチナ自治政府の不信感も理解できないわけではない。

一方で、イスラエル国内でも、これまでの和平案と同様、”世紀の取引”も失敗するとみて、あまり期待感はない。

それを裏付ける要因として、まず、イスラエル内政の混乱があげられる。連立政権がはまだ確立していないが、現時点で、連立に加わっている党の中に、強行右派と目される統一右派党(5)がふくまれている。

この党は、西岸地区における妥協は一切認めないと思われるだけでなく、神殿の丘に第3神殿を立てようとしている党である。パレスチナ人とのいかなる妥協も受け入れることはないだろう。

またパレスチナ側でも、アッバス議長(85)は、議長について14年になる。これまでの動きからして、トランプ政権が、いかにパレスチナ市民に有益な条件を出したところで、市民生活の改善を優先する人物でないことは明らかである。

実際、アメリカは、歴史的にも何度となくパレスチナ人に有利な条件を提案してきたが、アッバス議長はそのどれをも受け入れてこなかった。要するに、イスラエルの存在自体を受け入れられないということと、アメリカとの信頼関係がないということが原因である。

また、世紀の取引が相手にするのは、西岸地区のPLOとガザのハマスの両方をさしているのか、そうでないないのかも、まだ明確でない。もし、西岸地区だけであれば、その取引は意味がないということになる。

もしハマスも視野に入れるとすれば、トランプ政権は、自ら”テロ組織”と指定したハマスとの交渉を行わなければならなくなる。これはありえないことである。

3つめに、この動きが、現地当人たち不在のまま、外国勢だけで進められている点。現地イスラエル人、パレスチナ人たちの草の根レベルでは、この件に関して、ほとんど興味も反応もないということも指摘されている。

これでは現地のニーズから外れる可能性が高い。そのよい例が、イスラエルボイコット運動(BDS)である。現地を見たことのない欧米在住の人々が、反イスラエルの主義主張でもって、西岸地区にあるというだけで、イスラエル人による工場ソーダ・ストリームを転居へと追い込んだ。これにより、現地パレスチナ人500人が職を失ったのであった。

また、これまでの中東和平交渉を振り返ると、いざ、何かが決まり始めると、現地では、テロが激化するという繰り返しであった。外国で何を決めてもらっても良いが、現地でテロが激化することのないようにと願うばかりである。

www.jpost.com/Opinion/Why-Trumps-peace-plan-is-certain-to-fail-590651

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。