ヨーロッパでは、難民の流入とともに、国粋主義や極右派勢力が台頭し、イギリスもEU離脱をめぐって混乱をきわけるなど刻々と、混乱にむかっている。
ヨーロッパでは、社会、特に経済が混乱すると、反ユダヤ主義が台頭するという歴史的パターンがある。現在のヨーロッパが1930年代(ナチス時代)に酷似してきたと指摘するユダヤ人は少なくない。
EUが今年5-6月に、加盟国12カ国(ネット上16000人のユダヤ人が回答)で行った調査結果として10日に公表されたところによると、ヨーロッパ在住のユダヤ人の90%近くが、反ユダヤ主義が、過去5年間で悪化したと答えた。また30%が、昨年中になんらかの嫌がらせを受けたと答えた。
www.timesofisrael.com/unprecedented-eu-poll-finds-90-of-european-jews-feel-anti-semitism-increasing/
反ユダヤ主義を経験する国として最も回答が多かったのはイギリスだったが、危険度としては、フランスが最も深刻と目されている。
フランスではここ数週間、マクロン政権に反発するイエローベストの暴動(以下に解説)が各地で発生しているが、Yネットによると、この運動から反ユダヤ主義へ移行するサインがすでに現れているという。
パリとマルセイユの大通りでは、「マクロンは、ユダヤ人のあばずれだ」と書かれたバナーが掲げられた。これとともに広がっているメッセージは、「ユダヤ人がマクロンを大統領にして裏で糸を引いている。金持ちの税金が下がり、今の経済状況を招いたのはユダヤ人だ。」ということである。
またイエローベストの群れがハバッド派のハヌカに招かれ、「ユダヤ人は、我々に食べ物がないときにハヌカを祝っている」と訴えるビデオも、ユーチューブに登場した。(すでに削除済み)
8日土曜、シャンセリゼ通りにあるユダヤ教ハバッド派シナゴーグでは、安全のため、安息日に初めて一時、扉を閉めたという。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5424971,00.html
イスラエルでは、ディアスポラ担当のナフタリ・ベネット氏が、閣議において、フランスにいる20万人のユダヤ人が移住を希望しているのに、イスラエル側にこれを受け入れる用意ができていないと指摘。政府をあげて、受け入れ準備が必要と提案した。
ネタニヤフ首相は、これに賛同し、準備をすすめるよう、指示した。 http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/255906
<混乱するヨーロッパの現状>
1)フランス:マクロン政権危し
*ストラスバーグ・クリスマスマーケット乱射テロ事件
フランスでは、12日午後8時ごろ、ドイツとの国境に近いストラスバーグのクリスマス・マーケットで、銃の乱射事件があり、これまでに3人の死亡が確認された。
現場は、EU本部から1キロしか離れていない。フランス警察は付近を閉鎖して、700人体制で捜査にあたっているが、まだ犯人は逮捕されていない。
しかし13日、フランス警察は、シェリフ・シャカット(29)を顔写真つきで指名手配した。シャリフは、ストラスバーグ生まれ。強盗で前科があるが、さらに、フランス、ドイツ、スイスをまたにかけて27の罪状で追われている。イスラム過激派として、以前より当局に知られていた人物だった。
フランスでは、2012年にユダヤ人学校が襲撃され、7人が死亡。2015年には、130人もの犠牲者を出すテロ事件が発生している。今回を含め、いずれの事件も、当局がマークしていた人物による犯行であることから、フランスの治安体制の甘さをイスラエルは指摘している。
www.bbc.com/news/world-europe-46535552
*マクロン大統領へ市民の怒り爆発:イエローベスト暴動
これに先立つ11月17日、フランスでは首都パリをはじめ、全国において、マクロン大統領の経済政策に反発する市民十数万人がデモを開始した。全員が黄色のベストを着ていることから、イエローベストと呼ばれている。
これに対し、政府が、装甲車や催涙弾などで対処したことから暴力的な衝突となり、市民4人が死亡する事態となった。
きっかけは、マクロン大統領が、地球温暖化政策として締結された「パリ協定」に従い、電気自動車導入促進にむけて、ガソリン税を大幅に上げたことへの反発で、トラック運転手などが中心となってはじまった。
在英ジャーナリストの木村正人氏(元産経新聞ロンドン支局長)が、伝えるところによると、フランスでは、ガソリンが15%もあがったという。日本でいうなら、レギュラー1リットルが今146円円として、168円になったということである。
news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20181204-00106489/
これは特に自動車関連の同道者には大きな打撃である。また、この値上げが、ガソリン自体の値が上がったのではなく、税金として政府に入ったとなると、市民の怒りは政府に向けられることになる。
さらに、フランスでの賃金低下への不満の火がついた。EUでは、国によって、最低賃金にかなりの差があり、それを是正するとして、フランスでの賃金は下がる一方であった。これは、雇用主には有利であっても市民には、怒りにしかならない。
マクロン大統領はあわてて、ガソリン値上げを撤回し、賃金の値上げも宣言したが、もう時遅しである。フランス市民の間で、マクロン大統領は、「現代のマリー・アンドワネット」と評されるほど、庶民のことより高額取得者優遇というイメージができあがっているという。これを是正しない限り、解決はないとBBCは伝えている。
www.bbc.com/news/world-europe-46437904
フランスで懸念されることは、極右で知られる国民戦線のマリー・ルペン氏が登場してくる可能性である。そうなった場合、反ユダヤ主義は、加速して深刻になっていくことは確実である。
2)イギリス:ブレキシット(イギリスEU離脱)で大混乱
イギリスは、イギリスのEU離脱を来年3月29日に控えている。メイ首相は、2016年からの2年間の交渉でできあがった合意案について、11日、議会の承認への採択を行うと宣言していた。ところが、ぎりぎりになって、「合意をえられそうもない」との見通しから、採択を延期すると発表した。
www.sankei.com/world/news/181211/wor1812110006-n1.html
しかし、3月29日に、スムーズに離脱を発動するためには、来年1月21日までに離脱案について議会の承認を得なければならない。延期を決めたメイ首相は、クリスマス休暇を終えた来年1月7日以降に、採択を行う方針だが、かなりぎりぎりである。
この合意に議会が反対する最も大きな問題は、アイルランド問題。アイルランドは一つの島だが、北の一部はイギリス領のアイルランドで、それ以外は、別の独立国であるアイルランドである。
現時点では、両方ともEU加盟国なので、両者の間に検問や関税はない。しかし、イギリスがEUから離脱すると、イギリス領アイルランドと、アイルランドは、EU非加盟と加盟国の関係となり、関税などが発生することになる。
この点を解決するには、まだまだ時間がかかるとみられるため、メイ首相は、この問題が解決するまで、イギリスは離脱後も関税については残留という形で合意しようとした。ところが、この案は、中途半端で、イギリスがEUの加盟国より低い立場になるとして、反発しているのである。
メイ首相は、改めてEUとアイルランドとの再交渉をするといったが、両者ともに、もう合意はなったのであり、再交渉の余地はないとの考えをあきらかにした。
これを受けて、与党保守党では、メイ首相の不信任投票を行うべきだとの意見が出され、13日、投票が行われた。結果、かろうじて過半数となり、首相にとどまることが決まった。しかし、解決の見通しはたっていない。
フランスと同様、イギリスにも、反ユダヤ主義者として知られる、野党労働党のジェレミー・コルビン氏が控えている。
イギリスがもしこのまま、合意なき離脱に突入して、経済が下落すると、イギリスでも反ユダヤ主義に拍車がかかることは間違いないだろう。
3)民族主義、極右台頭の気配
この他、ヨーロッパでは、ドイツのメルケル首相が、移民受け入れに関して、市民からの怒りを買い、10月に行われた州議会選挙では、メルケル首相のCDU(キリスト教民主同盟)が、敗北。メルケル氏4期目は難しいとの見方がひろがっている。ドイツでは、ネオナチなど極右の台頭が指摘されているところである。
www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-10-28/PHBLQP6KLVR401
また、スペインでも12月2日に行われたアンダルシア自治州議会選で、極右政党ボックスが、0からいきなり12議席を獲得。反移民、ポピュリズムの流れがスペインにも広がり始めたとみられている。
確かに今のヨーロッパは、1930年代のナチスが台頭してきた時代に似てきているようである。