ケリー国務長官が6回目ヨルダン入りして、アッバス議長に面会。今回も滞在を延期して、パレスチナとイスラエルとの和平交渉再開に挑戦している。
今回、ケリー氏は、2002年にアラブ同盟から提案されたアラブ同盟が出している和平案を持ち出し、パレスチナとイスラエルの問題を、パレスチナ+アラブ同盟とイスラエルの問題、という構図にしようとしている。
この提案は、おおざっぱに言えば、もしイスラエルが1967年以前の国境線まで撤退すれば、そこまでの領地をユダヤ人の国イスラエルと認めるというものである。
パレスチナにしてみれば、東エルサレムを首都とする念願の国家建設ということになり、イスラエルにとっても、パレスチナだけでなく22ものアラブ諸国が、イスラエルをユダヤ人の国としてその存在を認めるという悲願の達成となる。
しかし、その代価としてパレスチナはイスラエルをユダヤ人の国として認めなければならない。
イスラエルも1967年以前の国境線に戻るということは、東エルサレム(旧市街、オリーブ山を含む)、西岸地区、ゴラン高原からも撤退することを意味する。双方共、目的達成のために不可能をつきつけられた形だ。
今回は、ケリー国務長官との会談を終えたアッバス議長が、18日、自治政府幹部らとも検討した後返事をする。それを受けて明日、ヨルダンからの帰国前に、ケリー氏が今回の交渉結果として発表することになっている。
つまりボールはまずパレスチナ側に投げられたというわけである。もしパレスチナ側がこれを受け入れた場合、次にイスラエルにボールが来ることになり、今度はイスラエルが1967年以前まで撤退するかどうか返事することになる。
<どうするパレスチナ?>
18日、ラマラに帰ってきたアッバス議長は、PLO幹部らとケリー国務長官との話し合いの結果を報告し、イスラエルをユダヤ人の国として認めるかどうかの話し合いを行った。
ニュースによれば、話し合いは紛糾しているという。イスラエルをユダヤ人の国と認めれば、ハマスなど過激派グループとの溝は深まってしまう。またイスラエルをユダヤ人の国と認めれば、パレスチナ人がイスラエル側へ”帰還”することができなくなる。
かといって、今をのがせば将来、解決の道はもはやまったく見えなくなり、テロ、戦争という暗闇にすすんでいくだけである。話し合いの結果は、現時点ではまだ出ていないもようである。
<どうするイスラエル?>
1967年以前まで撤退するということを、そのままでイスラエルが認めるということはありえない。エルサレムの分割とだけでなく、35万もいる入植地の撤退は事実上不可能だからである。
認めるとすれば、移動不可能な入植地の分だけどこか別のイスラエル領をパレスチナに引き渡すという土地交換が前提となるが、エルサレムの分割だけはやはりどう考えてもイスラエルは認めないだろう。
実際、強硬右派のユダヤの家党のベネット党首は、すでに、もし政府が1967年以前の国境線を論議するなら、連立政権を離脱すると表明している。
一時、イスラエルが1967年以前への撤退に同意したというニュースが流れたが、ネタニヤフ首相はこれを否定し、「イスラエルの国境線策定に関してはだれの指図も受けない。和平は当事者どうしのみで決めるものだ。」と述べた。
<EUの後押し:入植地完全ボイコット決議>
こうしたドラマが展開される直前、EU(ヨーロッパ連合)は、その加盟国が、西岸地区のユダヤ人入植地(150カ所)といかなる関係をもつことも禁止するという決議を発表した。
これはビジネス上のボイコットだけでなく、アカデミックな分野や、様々な銀行業務、つまりはヨーロッパからの支援金なども停止することを意味する。
理由は、EUは、西岸地区の入植活動が国際法に反していると認め、入植地の存在こそがパレスチナ人国家建設の妨害であるとの認識を表明するためである。アメリカはEUの判断に反対しない方針である。
このEUの動きとともに昨年、国連においてパレスチナを国として認めるとの認識を表明した国は、日本を含む135カ国にのぼる。
もしパレスチナ側がケリー案を受け入れた場合、イスラエルへの国際社会からの圧迫が強まり、経済制裁が課されるなどの可能性も出てくる。イスラエルの立場は非常に苦しくなるだろう。
イスラエルにしてみれば、今、パレスチナ側がケリー氏の提案を拒否し、ボールを渡されないほうが好都合かも知れない。・・・が、このまま何の前進もないことはイスラエルにとっても益はなく、非常に難しい状況である。