対テロ政策で右派政権追い風か:入植地強化・週末の反政権デモは規模縮小 2023.1.30

治安閣議 GPO

エルサレム連続テロ・その後

エルサレムで7人の犠牲者と重傷者含む5人の負傷者を出した連続テロ事件が発生してから3日めになる。イスラエル軍は、西岸地区の治安維持に3大隊を派遣した他、エルサレムの防護壁周辺を守る警察(国境警備隊)に歩兵中隊2隊を派遣して、治安の維持にあたっている。

今の所、新たなテロは発生していないが、ラマラ近郊のパレスチナ人の村で、家と車が放火された。覆面をした男が目撃されており、過激ユダヤ人による報復であり可能性がある。

現地テレビニュースによると、テロ事件以降、西岸地区で人や車に向かっての投石したケースは160件。このうち85件は、パレスチナ人にむかっての投石であった。ということは、過激ユダヤ人によるものと考えるのが普通だろう。

ネタニヤフ首相は、法を自分の手で行わないようにと警告を発している。

www.jpost.com/israel-news/article-729954

西岸地区入植地強化・保身用銃所持許可拡大:強硬右派ネタニヤフ政権の対策

安息日のテロを受け、28日夜、ネタニヤフ首相は、緊急治安閣議を開催。テロへの代償はきっちり払わせると表明した。なお、この会議には、閣僚を辞任させられたアリエ・デリ氏がオブザーバーとして参加していた。

1)テロリスト家族への報復

ネエベ・ヤコブのシナゴーグで、7人を殺害したテロリスト、アルカム・カイリの自宅は、東エルサレム、オリーブ山にあるパレスチナ人地区アトゥールにあるが、その家を破壊する前に、直ちに家を封鎖した。家族は、事件発生当日にすでに家から追い出されていた。

東エルサレムは、パレスチナ自治政府の領域ではなく、イスラエルの領域にあるとされており、そこに住むパレスチナ人のほとんどは、イスラエル市民ではないが“エルサレム住民”ということで、イスラエル人と同じ社会保障を受けている。アルカム・カイリの家族からは、社会保障もすべて剥奪されることになる。

さらには、エルサレム住民というIDも剥奪される見込みとのこと。これについては、今後も、テロリスト家族に適応するための法律として、本日の国会で審議される。これが決まると、テロリストは、エルサレムから追放され、パレスチナ自治区へ送られる。

2件めのテロを実施した13歳少年の自宅の封鎖については、死者が出るテロではなかったので、司法長官は、実家の破壊を適応するには問題があると述べた。

テロリストの家は封鎖されてから破壊まで通常数ヶ月かかるのだという。家のどの範囲を破壊するかのマッピングの他、裁判所は、テロリスト家族の訴えを聞くなど一連の手続きを終えてから、ゴーサインを出すことになるからである。

特にこの少年の場合は、死者が出てないので、現行の法律を変えなければ家の破壊は不可能だという。最終的に、家を封鎖するとことまでが決まった。

www.timesofisrael.com/in-first-cabinet-okays-sealing-home-of-teen-jerusalem-terrorist/

2)保身用銃の保有許可範囲を拡大

保身用に銃を保有できる市民の範囲を拡大する。これにより、テロ事件現場に居合わせた人が、対処しやすくなる。普通に銃を保持する人が数千人増えるみこみとのこと。

3)入植地強化

西岸地区各地で、テロを祝う様子がみられたため、入植地の治安強化を進める。また、警察やイスラエル軍が、パレスチナ人の逮捕をする権限を拡大する方針である。

2回のテロでは、パレスチナ人の間で、拳銃が普通に出回っていたことが明らかとなっている。テロリストの摘発をパレスチナ自治政府に任せていた間に、武器の密輸が、かなり自由にお行われていたようで、イスラエル軍は、その摘発を頻回に行うようになっていたのである。

GPO

www.timesofisrael.com/security-cabinet-decides-to-strengthen-settlements-after-jerusalem-terror-attack/

4)テロリスト取り押さえに活躍した警察官、市民らに感謝表明

ネタニヤフ首相は29日夜、テロリストを射殺したり取り押さえに動いた市民や、警察官らに感謝を表明した。

週末テルアビブでの反政府デモは6万人に縮小:デモは高校生・海外でも

司法制度改革問題で、安息日明けにテルアビブを中心に毎週行われてきた反政府デモは、エルサレムでのテロ事件を受けて、参加者が減ることとなった。テルアビブでは、先週10万人を超える人が集まったところ、4回めとなる今週は、6万人であった。デモはまず、テロの犠牲者への黙祷から始められた。

エルサレムのテロ現場では、「左派は家に帰れ」「テロリストに死を」と叫ぶ群衆と、テレビ放送局の取材班が衝突する事態も発生していた。パレスチナとの和平も念頭にある左派的な思いをもって、強硬右派政権に反対していた人々にとっては、このテロは、水をさされたような形であったかもしれない。

January 28, 2023. (Elad Gutman)

ラピード前首相は、今週は、エルサレムでのデモに参加し、犠牲者のためのろうそくに点火してからのデモとなった。ラピード氏は、犠牲者家族に哀悼を表明するとともに、治安部隊に感謝を表明した。

イスラエルの司法制度改革に対する反対デモやラリーは、この週末、イスラエルの国境を超えて、アメリカのニューヨーク、ワシントンDCなどでも行われたようだったが、大きなニュースにはなっていなかった。

しかし、29日日曜、テルアビブでは、公立高校の生徒たち数千人が、「私たちの未来のために」と、テルアビブの目貫通りを行進し、司法制度改革に反対を表明するデモを行った。テルアビブ市長のロン・フルダイ氏もこれに加わっていたとのこと。

www.timesofisrael.com/fighting-for-our-future-tel-aviv-high-schoolers-join-protests-of-judicial-reform/

石のひとりごと

これもまた主の計画なのか、ネタニヤフ政権になって急に治安問題が、厳しくなってきた。左派では対処できにくい事態かもしれない。何が良いことなのかはわからないが、イスラエルという国は、ともかくも、主の手の中にあるということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。