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7日午後11:30停戦発動
5日に始まったガザのイスラム聖戦(イランによるパレスチナ過激派組織)との戦闘は、66時間後の7日午後11:30(日本時間8日朝5:30)から、エジプトを仲介とする停戦状態に入った。
その後20分ぐらい、ガザからのミサイルが続いたが、それ以降は発射されておらず、なんとか停戦が成立しているもようである。一時、数週間にもつれこむ見通しとも報じられたが、3日で終わったことになる。
ラピード首相:7日に南部市長たちに目標達成を表明
ラピード首相は、戦闘の間、ガンツ防衛相や治安関係者らと常に共にいて方針を決めていた他、スデロットやアシュケロンなど南部の市長たちを訪問していた。
停戦を前にした7日、ラピード首相は、この3日の戦闘で、イスラエルが達成すべき目標は達成したと伝えていた。
達成した目標とは、①ガザ南北にいるイスラム聖戦の2人の指導者の暗殺と、②ガザ国境にいた対戦車砲部隊を壊滅したことを挙げている。これにより、イランを背後とするパレスチナ人テロ組織イスラム聖戦にかなり壊滅的な打撃を与えたと考えられている。
またガンツ防衛相は、達成した目標として、①一触触発状態にあったガザ国境住民の危機を回避した、②こちら側主導の戦闘の自由(優勢)を確認できた、③イスラエルの主権を脅かす動きにブレーキをかけた、の3点を挙げている。
イスラム聖戦(PIJ)孤立へ:イスラエルへの被害はほとんどなし
この66時間の間に、イスラエルが空爆したイスラム聖戦拠点は、約170個所。5日にガザ北部でイスラム聖戦指導者の一人タイサー・ジャバリが死亡したのに続き、6日、もう一人の指導者カリード・マンソールが、ガザ北部ラファへの空爆で死亡。懸念されていた対戦車砲部隊も壊滅した。
注目されていたハマスは、結局参戦せず、西岸地区にもイスラム聖戦を支持する動きは出ず、イスラム聖戦が孤立した形となった。
www.timesofisrael.com/israel-strikes-and-kills-another-top-islamic-jihad-commander-in-gaza/
ガザからイスラエルへ放たれたミサイルは約1100発。このうち、約200発は、イスラエルへ届かず、ガザ内部に着弾した。また、イスラエルへ到達しても、多くは空き地に着弾し、アイアンドームが成功率96%で約300発を撃墜。家屋への被害も最小限で、ミサイルそのものによる負傷者も出なかった。
しかし、スデロットやガザ周辺地域だけでなく、テルアビブや、ベエルシェバ、エルサレムに近モデイーンなど中央でもサイレンが鳴ったため、あわててシェルターへ駆け込む際に転んだなどで負傷した人はいた。
アシュケロンのバルジライ病院では、精神的なショックで搬入された人が21人、転んで軽く負傷した人が39人と、計60人を手当てしたとのこと。
ガザ死者51人(市民死者27人:うちガザのミサイル誤射による死者16人):イスラエル軍調べ
イスラエル軍によると、この戦闘中のガザでの死者は51人。このうち27人はガザ市民とみられる。このうち、イスラエルとの戦闘に巻き込まれて死亡した市民は11人。ガザから発射されたが、イスラエルまで届かず、ガザ内部に着弾したミサイルで死亡したガザ市民は、子供12人を含む16人とみている。
ハマスはじめ、国際社会からは、すでにイスラエルへの非難が出ているが、イスラエルは、死亡したガザ市民の多くが、ガザからのミサイルの誤射によるものと主張している。以下は、ガザ内部に落下するミサイルの様子。
子供が2人いることがわかって空爆を取りやめたケースもある。
イスラエル軍は、今回もイスラム聖戦関係地点への正確なピンポイントと、市民の不在が確認できてからの空爆を行なっていたと主張している。
どのように停戦になったのか:エジプトの活躍
今回、イスラエルは2万5000人の予備役を招集するなど、ある程度長期にわたることも覚悟で戦闘に望んでいた。もしハマスが参戦していたら、戦闘は拡大し、確かに長期化していただろう。
しかし、これを差し止めたのはエジプトと、ハマスに金銭的な支援を行ってきたカタールであった。イランに対抗するアブラハム合意からの流れで、エジプトとカタールが、イランを背後にしたイスラム聖戦を孤立させた可能性がある。
孤立したイスラム聖戦は、停戦に応じるしかなった。しかし、エジプトは、イスラエルに囚われているイスラム聖戦のメンバー2人の釈放を停戦の条件にあげたもようである。イスラエルは、これには合意していないと主張しており、今後への懸念になっている。
いずれにしても、すばやい停戦に持ち込んだエジプトのシーシ大統領に、バイデン大統領はじめ国際社会は高い評価を表明している。
www.inss.org.il/social_media/how-did-egypt-lead-the-ceasefire-effort-in-gaza/
ラピード首相は、停戦後、シーシ大統領に電話をかけ、仲介の感謝と表するとともに、首相の持つパレスチナ人との若いへのビジョンを伝えたとのこと。
www.timesofisrael.com/in-call-with-el-sissi-lapid-thanks-egypt-for-brokering-gaza-ceasefire/
専門家の評価は?:INSS(イスラエル国家治安研究所)のウディ・デケル氏
今回の戦闘は、右派左派にかかわらず、メディアもおおむね高い評価で報じている。以下は、専門家の分析と課題。
1)評価ポイント
今回、イスラエルが先制的に動いたことにより、ガザとの国境付近に展開していた対戦車砲部隊、ならびに弾薬庫を壊滅させた。また主要な2人の指導者を排斥した点。
また、ガザのハマスが動かず、この戦闘に乗じて発生すると懸念されていた、神殿の丘(神殿崩壊記念日中)での反乱、西岸地区パレスチナ地域からもなんの動きも出ず、イスラム聖戦は最後まで単独で戦うこととなった。
イスラム聖戦の背後にいるイランの尊厳にも傷がついたと考えられる。また、この戦闘で、イスラエルへの敵意を看板にしていたハマスのイメージダウンになった。
この他、アイアンドームが成功率96%とさらに精度を上げたこと。ガザでのピンポイント攻撃も精密度が上がり、市民の犠牲も前とは比べ物にならないほど最小限に止めることもできた。
開戦も停戦の時期もイスラエルが決めた形なので、攻撃の正当性も維持できた。
2)今後の課題
パレスチナ人テロ組織の間での一致にダメージは与えたかもしれないが、イスラエルへの敵意、憎しみには変わりはない。また、ハマスは今回無傷であるので、次に反撃に出てくる可能性は十分に残っている。
デケル氏は、ガザとの戦闘において、イスラエルがエジプトに頼るパターンが定着してきたことに懸念を表明している。
また、今回の停戦条件に、イスラエルの刑務所にいるイスラム聖戦メンバーの釈放が挙げられており、イスラム聖戦は、それが約束通り履行されない場合は、戦闘を再開させると言っている。停戦が破られ、再び戦闘になる可能性はまだ残っていると考えなければならない。
www.inss.org.il/social_media/operation-breaking-dawn-a-closing-balance-sheet/
国民の評価は?
イスラエル系メディアは、今回のラピード首相とその政権の戦闘指揮について、おおむね高評価を出している。
www.timesofisrael.com/with-gaza-ceasefire-imminent-lapid-tells-mayors-israel-has-achieved-its-goals/
また、ラピード首相は、7日、筆頭野党のネタニヤフ氏と会談したが、ネタニヤフ氏はこの時、ラピード首相の方針をバックアップし、こういう時は政治的な違いは横に置き、イスラエルは一致すると表明していた。
政治的な対立から、ネタニヤフ氏とラピード首相が顔を合わせるのは1年以上ぶりだったという。ラピード首相は、停戦後、ネタニヤフ氏と野党にも公式に感謝を表明している。
ラピード首相は元ジャーナリストで、防衛に関する経験が脆弱と懸念されていた。しかし、今回のおおむね成功と考えられている「夜明け作戦」でラピード首相の評価は上がったと考えられる。
しかし、11月の選挙にどう反映するかはまだ不明である。そう考えれば、ネタニヤフ氏の動きも、背後には、11月の選挙にむけての宣伝であったとも考えられなくもない。。。