ラビン首相暗殺から26年:出口がますます見えないパレスチナ問題の現状 2021.10.20

ラビン首相暗殺26周年式典でのベネット首相 GPO

ラビン首相暗殺26周年記念式典

18日、エルサレムのヘルツェルの丘で、故イツハク・ラビン首相が、1995年、過激右派ユダヤ人に暗殺されから26年目を記念する公式の国家式典が行われた。

www.ynetnews.com/article/sjysss5st

以下はイベントで挨拶する故ラビン首相夫人のレーアさんが、国に貢献した人々を埋葬している場所、ヘルツエルの丘で、26年たった今もなお、夫を覚えるイベントを開催していることに感謝を述べている。

ラビン首相とアラファト議長

ラビン首相は、左派労働党で、1993年に故アラファト議長と握手し、パレスチナの国を立ち上げることを目標にするオスロ合意を締結した首相である。

この後、両者は、パレスチナ自治政府を立ち上げて、国作りを始めたのであった。世界はこれを喜び、ラビン首相と、アラファト議長にノーベル平和賞を授与したのであった。

しかし、右派はこれに完全には賛同しておらず、1995年、ラビン首相は、ユダヤ人のイーガル・アミンに暗殺されたのであった。

ところが、オスロ合意の後、逆にテロは増えた。2000年代には、市内での自爆テロが横行し、1000人以上のイスラエル人が犠牲となった。

世俗派左派を中心に、一般的には、今もラビン首相は英雄視されている。しかし、この結果が、現実的にはイスラエルの平和につながらなかったこともあり、今では、右派の中には、顔をしかめる人も少なくない。

右派のネタニヤフ前首相は、毎年の式典には出席していたが、今年の記念式典は欠席した。理由は明らかにしていないが、ラビン首相家族との関係にはぎくしゃくしたものがあったという。

www.timesofisrael.com/netanyahu-to-skip-official-ceremony-marking-26-years-since-rabin-assassination/

ベネット首相は、かつては二国家案ではなく、イスラエルがパレスチナ人も含む一国家を支持する右派であると主張する過激右派とまで言われた人物である。しかし、今は、右派左派アラブ人もともに統一政権を導く立場にあり、その多様な政府を支持する立場に大きく方向転換している。ベネット首相は、式典での演説で、「なにがあろうが、イスラエルは分裂するべきではない。」と語った。

www.timesofisrael.com/marking-rabin-assassination-bennett-warns-we-mustnt-burn-our-house-down/

パレスチナ人との関係:今は話し合う時ではないとイスラエル

イスラエル独立から73年。オスロ合意から30年近くになろうとしている今、パレスチナ問題は、和平どころか、今は話し合いすらするときでないという絶望的な認識がひろがている。

パレスチナ自治政府は、パレスチナ人の国の土台になるはずだったが、2007年には、過激派のハマスにガザを取られてしまい、ガザと西岸地区は分裂状態となった。ガザのハマスは、国づくりには興味なく、イスラエルを攻撃するしか頭にないようである。ガザは、今や人が住めないと言われるほどにインフラが崩壊。失業者であふれかえって、希望のない場所となった。

西岸地区でも、自治政府は汚職でまみれ、パレスチナ人の間でも信頼はうすい。歴代アメリカの大統領と国務長官たちが、両者の間を仲介に奔走したが、どの政権も不発に終わった。最後はトランプ大統領が親イスラエルであることを受けて、アッバス議長が、アメリカとイスラエルとの交渉を全面的に拒否すると発表。以降、両者の話し合いは停止したままである。

しかし、その後、アッバス議長は、イスラエルとの直接交渉はしないで、国際法廷にイスラエルを刑事訴訟し、間接的に国際社会の圧力でイスラエルに圧力をかけ始めている。

こうした中、昨年ぐらいから、湾岸諸国が、「もうらちがあかない。イスラエルの存在は否定できるものではない。」として、二国家二民族案を支持する立場は変えないとしながらも、イスラエルとの国交を結びはじめた。これが、トランプ大統領が仲介したアブラハム合意である。

パレスチナ人たちは、アラブ諸国に見捨てられたような形になり、反発を表明。また、アッバス議長は辞任を示唆して、イスラエルと世界を脅迫するようになった。

アッバス議長が辞めると、ハマスなど過激派や、その背後にいるイランが出てくるしかないからである

一方、パレスチナ市民たちの中からは、将来に絶望したのか、組織とは無関係の個人がイスラエル兵などに対するテロを行い、イスラエル軍にあえて殺されるという、新しい自殺型テロも発生している。

ガザ国境では、目標も明確でないまま、暴力的なデモとイスラエル軍との衝突している。ガザからのミサイル攻撃もある。一方で、過激なユダヤ人たちも、パレスチナ人を襲撃して、犠牲者を出す事態になっている。

世界は一刻も早く、和平交渉をと言うが、ベネット首相は、「国際法廷に自分を訴えている相手と話し合いはできない。」「今はその時ではない。」と、和平交渉に乗り出す動きはない。

新たなラビンをめざす?ガンツ防衛相

ベネット首相とガンツ防衛相
GPO

しかし、では、どうするのかというところで、功を発し始めたといえるのかどうかだが。。。右派左派アラブもいる多様な統一政権という、強みである。

ベネット首相は、右派として、パレスチナとの交渉には出ないが、左派としてパレスチナとの交渉にも前向きなガンツ防衛相が、ラマラでアッバス議長と直接会談を実施できる。

ガンツ防衛相は、「自分は新しいラビン首相を目指す」と、アッバス議長に伝えたとの報道もある。これに対し、ベネット首相は、賛同はしていないが、反発する様子もない。

ベネット首相は、首相ではあるが、国会での議席は4議席しかなく、ネタニヤフ首相時代のような強硬なリーダーシップが発揮できない立場なのである。とはいえ、逆のそれを利用して黙認しているともみえる。

www.timesofisrael.com/report-benny-gantz-told-pa-chief-abbas-he-wants-to-be-the-new-rabin/

ガンツ防衛相も、「政府を通り越してアッバス議長と接触したのではない。今は事務的なことのために訪問しただけであって、和平交渉を進める時ではないという点は、ベネット首相と同じ立場である。」と表明している。

まとめると、左派が、パレスチナ人に提供するのはアメ、右派が提供するのはムチ、ということになるが、統一政権なのでその両方を出すことが可能ということである。

しかし、アメを出しても、パレスチナ側が、満足して態度を和らげると言うことはなく、ムチを出せば、反発を正当化する。結局のところ、解決はないというのが、この問題の難しい本質である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。