司法制度関連法案・来週月曜から採択開始へ 2023.2.11

GPO

ネタニヤフ政権強気:オーバーライド法案・来週月曜から採択へ

テロの増加と、今のネタニヤフ政権が、強硬右派であることと関係があるのだろうか。実際、宗教シオニストのスモルトリッチ氏が、政権内で、西岸地区担当になったことで、いよいよイスラエルの西岸地区併合が始まるのではないかとの懸念も広がっている。

また、レビン法相が、司法制度改革案を発表して以来、国内外で、民主主義が失われる、政府の独走を許す形になるとの激しい、危機感を伴うほどの物議になっていることはお伝えしきた通りである。

こうした中、ジェニンでパレスチナ人9人がイスラエル軍との衝突で死亡し、その反撃で市民7人が死亡するテロ事件が発生。続いて、また、エリコでパレスチナ人5人が死亡する衝突が発生イラン国内の軍施設をイスラエルが攻撃といった驚くほどの出来事もあった。その上に、シリアでの大地震で、イスラエルからも450人もの救援隊を出すという、目の回るような状況となっている。

しかし、政府がその手を緩めることなく、すでに司法制度改革案に乗り出すことがわかった。政府は、十分な議論をすることがないまま、来週13日(12日から1日延期)に、国会の基本法・法律・司法委員会で、基本法(日本の憲法にあたる)の変更に関する最終決議を行うことになった。同日中にも国会総会で第一回目の採択が行われる。

国会での採択で3回、過半数・通過すれば、これが決定となり、基本法の変更が決まる。基本法とは日本でいえば、憲法にあたるものである。日本でいえば、憲法9条が変わるというほどに重大なことで、国のありようが変わることにもつながってくる。

また今回の採択は、レビン法相が、司法制度改革案のスタートにすぎないと言っている。採択される項目は、この後も続いていくという。可決されるたびに、基本法が変わっていき、イスラエルの国の在り方が、除去に変わってくる可能性がある。イスラエルは、今、歴史的な分岐点に立っている可能性がある。

行政が司法を支配する形へ:採択される2項目

今回、司法制度改革案のスタートとして出された項目は以下の2項目。これらを通して、司法は行政にブレーキをかけられなくなると言われている。

1)最高裁判所の裁判官選出委員会が政府影響下へ

現在最高裁判所の裁判官は9人だが、それを選出する選考委員会がある。委員長は、これまで通り法務相で、基本法委員長と、与党議員1人、野党議員1人。加えて、これまでは法律の専門家である弁護士委員会からの2人であったところ、政府が選んだ2人が委員会に加わる。

次に、最高裁での決定は、裁判官9人のうち7人の賛成で可決となっているが、それを5人にする。すでに最高裁の裁判官たちは政権に有利な人材となっているので、この点からも行政の意向が、自動的に反映することになる。

司法を管理するのが、行政になるということで、民主主義の原点である三権分立が崩れる形である。

2)最高裁が行政を監視する特権を失う「オーバーライド(乗り越え)法案」

もう一つは、政府が決めたことを最高裁が、却下する権利をなくすというものである。たとえ最高裁が却下しても、国会で再度過半数になれば、法案を実施するという、いわゆる「オーバーライド(乗り越え)法案」である。

この結果として、まずは、最高裁に繰り返す汚職のために閣僚か罷免を命じられたシャス党のアリエ・デリ氏を内閣に復帰させるとみられている。その後には、ネタニヤフ首相自身の刑事訴訟を却下するなどもありうる。

月曜日、この2点が、まず基本法・法律・司法委員会が審議し、通過すると、同日にも国会での採択に進む。司法改革のスタート地点だというが、この2点が決まることで、続く法案も文句なしに決まっていく形である。

国会で基本法に関する採択については、最高裁が、憲法なみの位置付けであるとして、普通の法案よりもハードルは高くしている。すなわち、国会での明らかな過半数の時のみに賛同とみなされるということだが、これについて、基本法・法律・司法委員会のシムハ・ロズマン委員長は、基本法は“憲法”とは異なるとの見解を表明しており、政権側はあくまでも、この司法改革をおしすすめる動きをみせている。

www.timesofisrael.com/demolition-of-israeli-democracy-starts-next-week-netanyahu-must-heed-herzogs-plea/

www.timesofisrael.com/rothman-rules-out-major-changes-on-first-overhaul-bill-delays-vote-to-monday/

国民の62%は司法制度改革に反対:チャンネル12(TV)調査

イスラエルのメインTVチャンネル12が調査したところによると、62%が、司法改革に反対(31%)か、もしくは延期するべき(31%)だとの考えをもっていることがわかった。一方、改革を支持すると答えた人は、24%。わからないと答えた人が14%だった。

ネタニヤフ首相の支持者の間では、42%が司法改革に反対を表明し、45%は賛成と答えていた。

www.timesofisrael.com/poll-only-1-in-4-israelis-wants-government-to-press-ahead-with-judicial-overhaul/

司法制度改革を受け入れていない国民の方が多いということではあるのだが、政府が怯む様子はまったくない。イスラエルは今、深刻な分裂に直面しているようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。