アッバス議長:5月総選挙延期を表明へ 2021.4.28

File - In this Saturday, Oct. 20, 2012 file photo, palestinian President Mahmoud Abbas shows his ink-stained finger after casting his vote during local elections at a polling station in the West Bank city of Ramallah. President Abbas called for legislative elections on May 22 and presidential elections on July 31, 2021. (AP Photo/Majdi Mohammed, File)

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、1月15日に、15年ぶりとなる自治政府議会の総選挙とそれに続いて議長選挙を行うと発表。以降、アッバス議長自身のファタハからも若手ライバルが2人、ハマスも含め約25のグループが立候補し、政権交代の可能性が出始めている。

この選挙にはパレスチナ市民も大きな関心を寄せており、有権者の92%(約250万人)が、投票に参加すると表明していた。

しかし世論調査での最大議席獲得政党は、ガザのハマスが代表する政党で、アッバス議長は過半数に届かないという結果になっている。このため、アッバス議長は28日、選挙を延期すると発表した。

アッバス議長は、選挙が延期になったのは、イスラエルの生であると言っているが、パレスチナ市民は、長年政権を独占しているアッバス議長への反発を強めている。

15年ぶりパレスチナ自治政府総選挙について

パレスチナ自治政府の設立は、イスラエルとパレスチナのオスロ合意翌年の1994年。PLO(ファタハ)のアラファト議長が最初の自治政府議長となった。2004年にアラファト議長が病死して以降は、今のアッバス議長が、今に至るまでの約15年間、議長を続けている。

選挙については、2006年に、最初の議会選挙が行われたが、この時、ハマスが過半数をとり、ファタハのアッバス議長の元で、ねじれ状態となった。案の定、翌年の2007年、ハマスは、ガザからファタハ党員を追放してガザを占拠。以来、西岸地区はファタハによるパレスチナ自治政府の支配、ガザはハマスのよる支配と、パレスチナは事実上、分裂したのであった。

アッバス議長の任期は、本来なら2009年までであったが、ハマスとの合意が得られないことから選挙が行えず、選挙は何度も試みたものの、一回も議長交代がないまま、今に至るという状態にある。

しかし、今では、パレスチナ自治政府が腐敗していることに異論を唱えるパレスチナ人はいない。また、アッバス議長が15年も議長を続けて、今や86歳と高齢になっていることから、市民の間には、政府の改革、刷新を求める声が非常に大きくなっている。

さらには、トランプ政権以来、これまでパレスチナ人を支援してきた湾岸アラブ諸国が次々とアメリカやイスラエルとの対話をはじめ、ついにUAE、バーレーン、スーダンが、イスラエルの存在を認めて、アブラハム合意を締結するに至った。これは、パレスチナ人たちが、忘れられるという流れである。

このために、分裂したパレスチナでは国にならないと考えたのか、今年1月15日、アッバス議長は、ハマスも含め、パレスチナ全体で、14年ぶりとなる議会選挙と議長選挙を行うと発表したのであった。

www.timesofisrael.com/abbas-expected-to-delay-election-but-could-pay-heavy-price-diplomatic-source/

アッバス議長の誤算?で選挙延期へ

1月に選挙を発表すると、ハマスもこれを歓迎し、有権者も92%が投票に行くと表明した。

しかし、ガザのハマスだけでなく、予想外にもアッバス議長の足元からも候補者が出て、アッバス議長が過半数(132議席中67議席以上)を取れる見込みはないとの流れになっている。このため、アッバス議長は、おそらく今回も、選挙の延期か中止を発表するとみられたていた。

こうした中、4月、アッバス議長は、東エルサレム在住のパレスチナ人は、東エルサレムの郵便局にて投票を受けつけると強調。東エルサレムは、イスラエルの領土であるので、そこでパレスチナ自治政府の選挙を行うのは認められないとするイスラエルとの対立が浮き彫りになった。

*これについて、イスラエル外務省は、EU(パレスチナ人のエルサレムでの選挙はオンラインを推奨)に対し、イスラエルは、自治政府が東エルサレムで行う選挙を妨害するつもりはないと伝えている。

この他にも、先週、極右ユダヤ人団体レハバが、「アラブ人は出ていけ」「アラブ人は死ね」などと言いながら、旧市街を行進してアラブ人と衝突になったことから、エルサレムの治安が悪化したことや、ハマスが、これを理由にイスラエルにロケット弾を発射したことをあげ、「もし選挙ができないとすれば、それはイスラエルのせいだ。」と言い、28日、イスラエルを理由に選挙を延期すると発表したのであった。

なお、ハマスは、エルサレムでの極右ユダヤ人の動きに反発してイスラエルにロケット弾を撃ち込み、「ハマスが、エルサレムがユダヤ人に支配されていることに黙っていることはない。」と選挙前にパレスチナ市民に、強さの印象づけを図ったとみられている。

ガンツ国防相が言っているように、実際のところ、イスラエルはパレスチナ人の選挙運動に利用されているという面は否定できないだろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。