目次
トランプ政権とは違うバイデン政権の中東政策
イランとの対立が明確になってくる中、バイデン大統領がサウジアラビアに厳しい態度を取り続けている。これまでは、イラン(シーア派)という共通の敵に対し、アメリカ、イスラエル、そしてサウジアラビア(スンニ派)が一致してイランに立ち向かうという勢力図になっていたのが、バイデン大統領が、これに水を差すかのような動きをしているのである。
イエメンで代理戦争をしていたサウジアラビアへの軍事支援を差し止めた上、親イラン組織フーシ派のテロ組織とのレッテルを排除したことで、フーシ派のサウジアラビアへの攻撃がにわかに激しくなってきつつある。
さらには、王位後継者とされるモハンマド皇太子に、民間人記者暗殺を承認したとして、人権侵害だと公に非難したのである。サウジアラビアはこの指摘を否定している。
こうした動きは、アメリカ、イスラエルとともに、アブラハム合意を締結し、まもなくサウジアラビアもこの輪の中に入るものと期待していた湾岸アラブ諸国にとっては、懸念材料である。
また、3月23日、イスラエルでも総選挙が行われる予定で、万が一にもネタニヤフ首相が、トランプ大統領に続いて政界から消えるとなると、アブラハム合意が、根底から揺らいでしまう可能性もある。
www.jpost.com/middle-east/gulf-states-anxiously-await-results-of-upcoming-israeli-elections-660526
イスラエルの治安エキスパートたちは、今は、コロナ対策においても、アブラハム合意を有意義に使ってイスラエルとスンニ派諸国が一致する時であり、それこそが、イランへの最も大きな防波堤になると言っている。しかし、バイデン大統領はそうは思っていないのか、そこまで手が回らないのか。。。以下は、アメリカとサウジアラビアの最近の衝突と、イスラエルとの関連である。
モハンマド皇太子を民間人記者暗殺支持で非難
1)バイデン大統領がモハンマド皇太子を公に非難
バイデン大統領は、25日、就任後1ヶ月以上たって初めて、サウジアラビアのサルマン王(85)に電話をかけた。
その中で、2018年に、トルコのサウジ領事館で暗殺された、サウジアラビア人でワシントンポストの記者(アメリカ在住)であったジャマル・カショギ氏の暗殺は、モハンマド・ビン・サルマン皇太子(35)の承認の元で行われたと指摘。サウジアラビア王室は人権保護侵害の責任を負うことになると警告した。
その翌日、バイデン大統領は、テレビのインタビューに答えて、サルマン王に、この件を伝えたこと、また、ホワイトハウスは、トランプ前大統領とは、きわめて違った道をいくことになると伝えたと語った。
www.timesofisrael.com/biden-to-saudi-king-significant-changes-in-the-offing/
トランプ前大統領がどういう歩みだったかというと、バイデン大統領と違い、就任早々からサウジアラビアに接近。サウジアラビアも、特にモハンマド皇太子を筆頭に、アメリカとイスラエルに接近する動きを見せ、父親のサルマン王もそれを黙認した流れであった。このため、のちに一部の湾岸諸国とイスラエルの国交再開という、劇的な変化が中東にもたらされた。
この計画があったためか、トランプ前大統領は、2018年に、モハンマド皇太子が、カショギ氏暗殺にかかわっているのではないかというスキャンダルが、表沙汰になった際、サウジ政府が、モハンマド皇太子は無関係だと主張すると、それ以上、深くは追求せず、うやむやに闇に付したのであった。
これについて、バイデン大統領は、決して黙認しないと言っているのである。なぜそこまで厳しく言うのかというと、これがカショギ氏暗殺問題だけにとどまらず、バイデン氏が大きく掲げている民主主義に反するからである。
次期後継者ではなく、その父親で、現役のサルマン王とだけ会話したところに、バイデン大統領の本気が現れている。イスラエルメディアによると、イスラエルは、アメリカで、サウジアラビアやエジプトに人権侵害などで圧力をかけないよう、ロビー活動を行っていた可能性があるが、結果的に受け入れられな語った形である。
*ジャマル・カショギ氏暗殺事件
カショギ氏は、公に王室を批判していたジャーナリストであった。BBCによると、サウジアラビアでは、近年、3人の王子が失踪するなど、王室に批判的とみた人物を次々に消しているという。カショギ氏は、王室に反逆はしないが、こうした独裁政権への流れには反発していたという。
2)イエメンのサウジアラビア軍事支援を停止:フーシ派からリヤドに弾道ミサイル
イエメンでは、政府軍を支援するサウジアラビアと、反政府勢力のシーア派過激派組織フーシ派を支援するイランとの戦いが、もう4年も続いている。イエメンでの戦いは実質的には、サウジアラビアとイランの戦いである。この戦いで、1600万人ともいわれる市民が餓死状態に追い込まれている。
トランプ前大統領は、イランを抑え込むため、サウジアラビアに武器を送って支援する一方、フーシ派をテロ組織として登録したのであった。ところが、バイデン大統領は、就任早々、イエメン内戦を終わらせることが必要だと述べ、アメリカは、サウジアラビアの治安を保証しつつも、」サウジアラビア軍だけを支援することは停止すると発表した。
同時に、フーシ派のテロ組織との認識を解除した。するとさっそくフーシ派は、サウジアラビアへの攻撃が増え、27日、首都リヤドに向けてイエメンから弾道ミサイルを発射した。サウジアラビアはこれを迎撃ミサイルで対処し、被害はなかったが、イランが、予想以上に、強い態度に出ていることがわかった。
まるで、ガザ地区から飛んでくるミサイルをイスラエルの迎撃ミサイルが撃墜するのと同じ光景である。
Video of Patriot Missile interception over #Riyadh, #KSA in the last 15 minutes. Unknown target at the moment. pic.twitter.com/Fga2oSZWrI
— Aurora Intel (@AuroraIntel) February 27, 2021
アブラハム合意はどうなる?:イスラエルと湾岸諸国の懸念
イスラエルは、サウジアラビアとはまだ正式な国交がない。しかし、ネタニヤフ首相は、近年、次期国王と目されるモハンマド皇太子と連絡をとりあっている。昨年11月には、サウジの未来都市ネオムで、モハンマド皇太子と直接会談もしていたのであった。そのモハンマド皇太子が、今や、犯罪者扱いに近い扱いになっているtぽいptp
今のサルマン国王は、イスラム教メッカをかかえる歴年の国王として、イスラエルとの国交を認めてアブラハム合意に加わることは難しいと言われていた。しかし、国の近代化を進める次世代のモハンマド皇太子が王位を継承した後であれば、サウジアラビアもアブラハム合意に加わると期待されている。
こうした中、バイデン大統領が、サウジアラビアを退けつつ、実質イランへの軍事攻撃をイラクで決行した。イスラエルは、この攻撃を歓迎したが、サウジアラビアについてのコメントは出していない。
もしかしたら、サウジアラビアへの冷たい態度は、イランとの合意に戻るために、イランに見せただけの態度である可能性もあるが、アブラハム合意を潰す結果にならなければよいがと思う。
イスラエル治安研究所のエキスパート、アモス・ヤディン氏は、イランの危険性を考えると、アメリカは、最終的には、イスラエルとこの湾岸諸国を味方にしないといけないので、なんらかの形で、サウジアラビアとは、敵対しない形におさまるだろうという見方を語っている。
しかし、今、イランが、アメにもムチにも反応せず(計算違い?)、アメリカに対する態度を強化し続けているので、アメリカは、多くの課題はあったにしても、早いうちにサウジアラビアと妥協していくしかないのではないだろうか。
実際、アメリカは、今の所、この件にかかわったとみられる者たちを含む76人のサウジアラビア人の入国を禁止すると発表したにとどまっている。