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先月末、アメリカの国務次官補中東担当デービッド・シェンカー氏が、レバノンを訪問。イスラエルとレバノンが、アメリカの仲介で、海洋境界線策定に向けた直接交渉を、仮庵の祭りが終わった後、12日の週から開始することが決まった。
イスラエルとレバノンは、1982年、2006年のレバノン戦争以来、UNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)をはさんで、にらみあう関係が続いており、今回の両国の交渉は30年ぶりと報じられている。ここに至るまで水面下で交渉が続けられていたとのことである。
なぜ・何を交渉するのか
イスラエルとレバノンは、東地中海の両国の沿岸部には、双方が排他的経済水域を主張している海域がある。(地図参照)話し合いはこの地域に関する交渉である。ここが問題になるのは、この周辺にまだ発見されていないガス田があるとみられるからである。
イスラエルは、2009年にタマル、2012年にレビヤタン、タニンと次々に天然ガス田を発見しており、大きな収益が見込まれている。外交のカードとしてもおおいに用いているところである。
一方、レバノンは、今年3月、国際のデフォルトをおこしており、公的債務が、GDPの170%と厳しい経済状況に陥った。また先月、ベイルートでの大爆発を経験し、政府が全員辞職するという事態になっている。次期首相として指名された人物はまだ政府を立ち上げることができていない。
今回の交渉については、アウン大統領が決定し、話を進めている状況である。イスラエルは敵国ではあるが、ともかくも経済を立て直さなければならない事態になっているとみられる。しかし、レバノンで大きな力を持つヒズボラがどう出てくるかは、今のところ不明である。
イスラエル側の交渉に立つユバル・ステイニッツエネルギー担当相は、レバノンとの交渉にあたって、「レバノンの崩壊は見たくない。」と言っている。今もしレバノンが崩壊すれば、ヒズボラ、つまりはイランがレバノンに今以上に進出してくる可能性があるからである。
イスラエルとしては、たとえ敵対してきた国の経済を助けるような交渉をしてでも、ヒズボラ以外の政権がレバノンを維持してくれている方がマシということである。
トランプ大統領の3つ目の勲章になりうるか?
交渉は、イスラエルとレバノンの国境、国連のUNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)の本部で、地中海に面するローシュ・ハニクラの近く、レバノン側のナコウラで行われる。仲介はアメリカで、ホストは国連となっている。
先ごろイスラエルとUAE,バーレーンとの国交樹立を仲介したアメリカだが、ここで、長年敵対してきたイスラエルとレバノンとの交渉を再開させたということになれば、大統領選挙直前に、3つ目の勲章になりうる。
ポンペオ国務長官は、海洋境界線だけでなく、地上の国境線についての話し合いにまで至る可能性を示唆しているが、イスラエルは、陸上境界線について、交渉するつもりはないと表明している。
ややこしい東地中海のガス田をめぐるにらみあい:トルコの進出
東地中海ハイファ沖ということは、レバノンだけでなく、キプロス、ギリシャ、トルコにも関わっているということである。
イスラエルは、今年1月、天然ガスをイタリアからヨーロッパに搬送するパイプライン(1900キロ)を建設するべく、ギリシャ、キプロスと合意に至った。総額60−70億ドルの建設費がかかるが、これにより、ヨーロッパの消費量の10%ほどをカバーすることになるという。
ヨーロッパは、今は、天然ガスをロシアに依存している。
昨今、ウクライナやベラルーシへの進出が見え隠れするロシアとの対立が深まっているため、ロシア以外からの天然ガス供給は、ヨーロッパにとっても好都合である。稼働は2025年を予定している。
しかし、このパイプラインはトルコを無視した形になっている。そこでトルコは、地中海を挟んで向かい側にいるリビアに目をつけ、この国をとりこむことで、トルコとリビアの間の海域は、トルコの海洋権益海域だと主張。それを通過するイスラエルからのパイプラインを遮断する動きをみせている。
www.nikkei.com/article/DGXMZO54346950U0A110C2I00000/
リビアの内戦激化の背後にトルコ対ロシア
上記のように、トルコが暫定政権を支援しているので、リビアでの内戦は激化している。ややこしいのは、リビアで反政府勢力を支援しているのがロシアだという点である。
トルコとロシアは、敵対しているようにみえて、時々手を組んでいるので、リビア情勢が今後、どのような動きになっていくかは、見通しがたちにくい。
リビアは、第二のシリアと言われているように、泥沼の戦闘状態になっている。停戦にむけた試みも行われているが、まだ停戦には至っていない。