5回目人質10人解放・パレスチナ人30人釈放:一時国境イスラエル軍への攻撃で緊張も 2023.11.29

(Courtesy; combination image: Times of Israel)

5回目イスラエル人10人・タイ人2人解放:ハマスとイスラム聖戦から

休戦と人質交換があと2日延長されたことで、昨夜あらたにイスラエル人10人(17歳女性とその母、8人の女性)が、イスラエルへに帰還を果たした。引き渡したのは、ハマスとイスラム聖戦だった。

今回もエジプトを経由しないで、カレン・ショムロンを経由して、赤十字が間をとりもっての引き渡しであった。これで戻ってきたイスラエル人の人質は60人。まだ180人近くがガザに残っていることになる。

今回も加えてタイ人2人が釈放された。

今回は、人質引き渡しの直前に、ガザ北部で爆発が複数回あり、イスラエル兵数人が負傷した。これで休戦は終わりかと緊張が走ったが、大きなことに発展せず、その5時間後に人質の引き渡しが無事行われた形である。

www.timesofisrael.com/several-injured-as-hamas-attacks-israeli-troops-in-gaza-straining-fragile-truce/

大勢のパレスチナ人たちが引き渡しの現場にいて大騒ぎになっている。今回は、ハマスとともにイスラム聖戦も、人質引き渡しの場に同席していた。

この後、イスラエルは、西岸地区と東エルサレムへ、パレスチナ囚人30人を引き渡した。その中には、14歳の少年テロリストも含まれていた。

なお、今日もまたイスラエル人10人が解放されるべく、イスラエル政府はそのリストを受け取っている。

高齢者6人含むイスラエル人女性10人帰還

今回釈放された人質の多くはキブツ・ニール・オズの住民である。

ディツア・ヘイマンさん(84)
4人の子供と3人の義理の子供の母、孫20人、ひ孫5人。キブツでは一人暮らしだった。

タマル・メッツガーさん(78)
タマルさんは、夫のヨラムさん(80)と拉致された。ヨラムさんはまだガザにいる。3人の子供と7人の孫がいる。家族たちが来た時2人は拉致されていなかった。

エイーダ・サギさん(75)
エイーダさんは、ホロコースト生存者の2世としてポーランドで生まれ、テルアビブに移住していた。アラビア語を勉強し、ガザ国境に住むパレスチナ人とのコミュニケーションを促進するため、周辺ユダヤ人たちにアラビア語を教えていたという。ガザでハマスと話したかもしれない。

ノラ・ババディラ・アゴジョーさん(60)
ノラさんはこの週末、夫のギドンさんと、農業70周年を記念していたキブツ・ニリムを訪問していて被災した。ギドンさんは殺されて、ノラさんは拉致されていた。

リモン・キルシャ・ブクシュタブさん(36)
共に拉致された夫のヤギブさん(34)はまだガザにいる。リモンさんとヤギブさんは、高校の同窓会で再会し、2021年に結婚したばかりだった。2人が隠れていた部屋は、銃撃の穴と血でいっぱいだったという。

ミーア・レインバーグさん(17)とその母ガブリエラさん(59)、親族のクララ・マルマンさん(62)
ラインバーグさん母娘は、エルサレムの住民だが、10月7日、キブツ・ニール・オズ在住の叔母クララさんを訪ねていて被災した。ミーアさんは、愛犬とともに解放された。
ミーアさん母娘と同行していたマルマンさんの兄弟、フェルナンドさん(60)と、マルマンさんのパートナーでキブツ在住のノルベルト・ルイス・ハーさん(70)はまだガザにいる。

オフィリア・ロイトマンさん(77)
オフィリアさんは、ハマスがキブツに侵入してから、しばらく隠れながら家族にメッセージを発していたが、9:37のメッセージが最後になっていた。

メイラブ・タルさん(54)
メイラブさんは、パートナーのヤイル・ヤアコブさん(59)とその2人の息子たちと共に拉致されていた。ヤアコブさんの2人の息子、オールさん(16)とヤギルさん(13)は、27日に解放され、イスラエルに戻っている。ヤイルさんはまだガザである。

訃報
先週、2人の娘とともに解放されたドロン・カッツ・アシャーさんの家族、ラビッド・カッツさんは、拉致されているとみられていたが、10月7日の時点で殺されていたことがわかった。(身元がわからないほどに破損か焼かれた遺体の身元確認は今も続けられている)

www.timesofisrael.com/10-israeli-and-2-thai-hostages-arrive-back-in-israel-after-53-days-in-gaza-captivity/

危篤だった人質のエルマ・アブラハムさん(84)回復・ヤファ・アダルさん(85)は退院

26日にガザから解放されたエルマ・アブラハムさん(84)は、イスラエルに到着した時、バイタルサインは危篤状態で、すぐに人工呼吸器装着となっていた。

孫娘のタル・アマノさんは、人質の健康管理をするはずの赤十字は、50日間、何もしておらず、祖母を捨ていたと訴えていた。

しかし、エルマさんの状態は回復し、昨日、呼吸器から離脱。抜管も終えて回復に向かっているという。(ベエルシェバのソローカ病院)

また、24日に解放されていたヤファ・アダルさん(85)も回復し、ホロンの病院から退院することができた。

www.timesofisrael.com/freed-hostage-elma-avraham-84-no-longer-in-critical-condition-hospital-says/

人質はどんな状態に置かれていたのか

これまでに解放されたイスラエル人50人は、子供30人とその母10人、女性20人となっている。イスラエル人男性1人派、ロシアの要請で解放。タイ人とフィリピン人17人も解放された。

ハマスは、人質たちに、「ハマスがとても人道的に取り扱っていることに感謝したい。」「女王みたいに扱われている」などとする手紙を書かせていたが、実際にガザでどんな生活をしていたのか、情報はさまざまである。

女性たちは、トンネルの中の檻の中に閉じ込められていたと言っている人は複数いる。身体的虐待はなかったようだが、食事はピタだけなど最小限だったようである。

エイタン君(12)によると、ガザでは殴られたり、他の子供たちとともに10月7日に撮影した恐ろしい暴力のビデオ(45分)を強制的に見せられたとのこと。エイタン君の父親はまだガザにいる。

エミリーちゃん(9)によると、食事はあったが、お腹はいつもすいていたとのこと。殴られなかったが、静かにしていなければならず、絵を書いたり、カードでゲームしたりしていたという。家族によると、解放されたとき、全身にしらみがわいていた。エミリーちゃんの母親はハマスに殺された。

www.ynetnews.com/article/ry9dbfqsp

www.jpost.com/arab-israeli-conflict/gaza-news/article-775480

石のひとりごと

(Photo by SAID KHATIB / AFP)

今回、解放された人は高齢者が多かった。

先日、70歳代知人と話していて、「無理とは思うけど、私ならもっと若い人を先に解放してというかもしれないな。」という声を聞いた。

自分はもう人生を十分歩いたから、もういつ死んでもいいという考えである。若い方がまだ先があるという確信に基づいている。

これは、おおむね平和であり、かつて姥捨山文化があった日本ならではの正義感ではないかと思った。

無論、大人が子供たちを守ろうとする、そのことを言っているのではない。ただ、高齢者全般を前にしたときに、高齢者はもういつ死んでもいい、若い人の方が大事だという考え方は、イスラエルには基本的にはないように思う。

ユダヤ教もイスラム教にも、おそらくはキリスト教にもその考えはないのではないかと思う。人の生き死には神のみが決めるのであり、若いからといって、高齢者より長生きするかどうかはわからないのである。

また若い人の方が仕事ができるので、社会のためには優先すべきという考え方もイスラエルにはない。むしろ、高齢者の方が、いろいろ経験を積んでおり、尊敬すべきというのが普通の考え方である。

特に、ホロコーストを通ったユダヤ人たちの間では、それを経験してきた高齢者を大事にする傾向があるように思う。祖国を立ち上げるために働いてくれた人々という思いもある。

イスラエルでは、若い人も高齢の人も命は命であり、仕事ができなくなっていて、人の世話になる人であっても、その価値が下がることはないということである。

今回も人質になっていた70代の女性が、自分は釈放されると言われた時、自分より高齢で医療ケアを必要としている80代の人を先に釈放するようにハマスに申し出たとの報告がある。

日本には、まだ姥捨山文化がどこか残っているのかなとわかってもまあ、どうしようもないのだが。。。今回も子供たちとともに、多くの高齢者が帰還できてよかったと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。