2021年イスラエル国内アラブ人地域の殺人事件95件:ベネット首相がIDF・シンベト投入表明で論議 2021.10.4

ナザレの殺人現場 MDA

国内アラブ人地域の根深い殺人の問題

オリーブ山通信ではなかなかお伝えできていなかったが、イスラエルでは、アラブ人社会の中での民族闘争や、家族の名誉殺人など、様々な殺人事件が多発していることが問題となっていた。2021年1月から現時点までだけで、殺されたアラブ系市民は95人にのぼっている。いうまでもなく、今年だけの問題ではない。

先週も金曜にアラブ人がハイファで銃殺され、先週金曜はナザレでアラブ人が殺害。その翌日にはベエルシェバでアラブ人男性が殺害された。これらは、部族や組織の間の闘争であってテロではない。犯罪による殺人事件である。

アラブ系市民たちは、イスラエルの警察が、ユダヤ人地域に比べて、アラブ人地域への警備を怠っていると訴えてきた。この件では大きなデモにもなっていた。アラブ系市民が、イスラム主義政党ラアム党を支持した背景には、この問題を解決するというアッバス党首への期待もあったということである。

こうした中、先週金曜、イスラエル中央に位置するアラブの町、クファル・カシムの役所から、暴力的な者たちが来ていると警察に助けを求める連絡が入った。このため、警察官ら数人が、かけつけて役所に入ろうとしたところ、筋肉モリモリの男たちが役所から現れ、警察官らをボコボコにして、負傷させるという騒動になった。

www.timesofisrael.com/4-arrested-after-private-guards-at-kafr-qasim-municipality-assault-cops/

この男たち4人は逮捕されたが、後で、地元民らが雇った用心棒であったことがわかった。ベネット首相は、「アラブ人地域の暴力は限界に達した。」と表明。3日、特別な閣議を開催した。

極端!?イスラエル軍・シンベトを投入するべきか否か

ベネット首相は、事態がここまで悪化したのは、これまで手をこまねいていたからだとして、この政権は本気で対処すると述べ、この件に取り組む内閣チームを立ち上げた。責任者は、公共治安部副主任で元警察長官のヨアブ・セガロビッツ氏。

今後は、法の改正も含め、イスラエル軍や、国内治安組織(スパイ活動も含む)シンベトの投入も含めて対応を検討していくと発表した。

しかし、イスラエル軍やシンベトは、国外や国内に潜むテロリストに対応する組織であり、国内のしかも市民を相手にする組織ではない。イスラエル軍からは、この点に関する懸念も出された。だいたい、この閣議にイスラエル軍が呼ばれていなかったことへの不振も出されたとのこと。

これについては、アラブ人政治家らからも、これは民主的ではないと批判が出た。確かにイスラエル軍やシンベトが出てくると、国内の犯罪対応に止まらず、イスラエル対アラブのイメージになってしまいかねない。

ベネット首相は、アラブ系住民の指導者たちを集め、これは犯罪や違法な武器を回収し、殺人を減らすたまである。市民を守るための方策であると説明し、イスラエル軍やシンベトが登用されることへの理解を求めた。

www.timesofisrael.com/idf-shin-bet-will-aid-illegal-weapons-crackdown-in-arab-towns-ministers-decide/

しかし、Times of Israel によると、アラブ系市民の間では、軍やシンベトの登用に賛同しない人も少なく、意見は統一できていないようである。ベネット首相。また一つ大きなハードルに直面しているようである。

www.timesofisrael.com/government-plan-to-enlist-shin-bet-to-fight-rising-crime-splits-arab-israelis/

*イスラエル国内のアラブ系住民の現状

総人口の21%を占めるイスラエル国内のアラブ系市民たちは、ユダヤ系住民と同じ権利を約束されている。しかし、実際には、やはり差別もあり、アラブ系住民は就職しにくく、生活は貧しい人が少なくない。

またイスラム教徒の地域では、昔ながらの族長的な家族支配が続く地域もあり、イスラムの教えに乗っ取った家族間の名誉殺人が後を立たないのである。(不倫した女性は家族に殺されるなど)

伝統的な考え方に支配されがちなアラブ系住民の間では、ワクチン接種がすすまないという状況も続いている。こうなるとますます仕事ができず、貧しさがます一方である。

このように、同じイスラエルに住んでいて、表面的にはうまくやっているように見えるが、両民族が本当の意味で一つになっているとはいえない。

さらに近年では、イスラエルは、ユダヤ人の国で民主国家とする定義が論議され、イスラエルで生まれ育ってもアラブ人は、その居場所のなさに怒りを表明していた。以下はこの法律に反発するアラブ系イスラエル人たち。(2018年テルアビブにて)イスラエルにとっては、非常に難しい、大きな課題である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。