総選挙しかない?:反ネタニヤフ首相デモと民主主義が問われる混乱 2020.10.12

ガンツ氏(左)とネタニヤフ首相 出展:GPO/Times of Israel https://www.timesofisrael.com/annexation-rotation-et-al-key-elements-of-the-netanyahu-gantz-coalition-deal/

ガムズ教授と同様、ネタニヤフ首相は、第一波を早急に解除しすぎた経験から、感染予防対策の解除には、慎重である。しかし、問題は、医療と経済にとどまらず、イスラエルが民主主義国かどうかが問われる事態になっている。

テルアビブでのデモ
スクリーンショット

この土曜日は、まだ厳しいロックダウン下にあるはずだったが、全国で大規模な反ネタニヤフ首相デモが展開された。テルアビブのハビマ広場では、デモに20万人が参加したとの報告もあり、警察との衝突も発生していた。

20万人が参加したとはいえ、まだ大部分の人はデモには参加していないのだが、政府は、新型コロナ対策に失敗しているとみられる中、エルサレムだけであった反ネタニヤフ首相デモは、今や全国に拡大している。

ネタニヤフ首相は退陣すべきと考える市民は決して少なくないといえる。それを反映してか、3月には36議席であったリクード(ネタニヤフ首相)の予想議席は26まで下がっている。

こうした中、政府に反論する民衆の訴えを、いかにコロナ禍にあるとはいえ、政府が規制することは、民主主義を逆行させることになると警鐘が鳴らされている。

ネタニヤフ首相ライバルのガンツ氏は、デモを政府が規制することに反対している。こうした中、ネタニヤフ首相は、今後、デモをとりしまらない方向だと表明した。

こうなると、超正統派たちも、政府の指示に従って集会を控えるということをしなくなるだろう。そうなると、超正統派たちもまた、集会を控えることはなくなるだろう。

www.timesofisrael.com/nationwide-protests-against-netanyahu-resume-in-hundreds-of-locations/

<ネタニヤフ首相は弱体化しているのか否か>

反ネタニヤフ首相デモは、当初は、政治的に極端なグループだけのものというイメージがあったが、コロナ対策での不備以来、デモはエルサレムだけでなく、全国各地に広がっている。

テレビニュースが行った調査によると、ネタニヤフ首相が今、獲得できる議席数は、3月は36議席であったところ、今は27議席と当初よりかなり落ちていることがわかった。これに対し、ナフタリ・ベネット氏のヤミナ等は23議席とわずか3議席差にせまっている。

4月に立ち上がった今のネタニヤフ首相による統一政権は、右派左派が同居する非常に難しい政権で、なかなか一致した行動をとることができない政府である。この8月末、今年の予算案を1年だけにするか、2年分で計画するかで、ネタニヤフ首相と、時期首相のガンツ氏は、合意に至ることができなかった。

この場合、4回目の総選挙が残された選択肢ということになるのだが、コロナ禍の緊急事態ということで、予算案決定期限を100日伸ばすことで、総選挙をなんとか避けたのであった。

mtolive.net/4回目総選挙回避なるか:ネタニヤフ首相が予算/

その100日後はこの12月初頭にせまっている。もしまた予算案の期限となり、合意できなければ、総選挙という流れになる。しかし、今回もネタニヤフ首相は、逃げて時間稼ぎをするかもしれないとも言われている。

実際のところ、反ネタニヤフ首相に傾く市民は決して少なくないというのが現状ではあるのだが、ネタニヤフ首相以外に、首相になれそうな人がいないと感じている人が多いというのも現状である。

このため、今の現状を、ネタニヤフ首相が懸念しているかといえば、それほどのことではないだろうと、ヘブライ大学政治科学部のギドン・ラハット教授は解説する。

ラハット教授は、「イスラエルは、非常に不安定な現状の中で、不思議な安定を維持しているという状態だ」と語る。確かに、ネタニヤフ首相とガンツ氏のやりとりをみていると、ネタニヤフ首相の方が何枚も上であることは、素人目にみても見えてくるようである。

<石のひとりごと>

ネタニヤフ首相は、自分のために首相職を続けたいと思っているのではないのではないかと、筆者は思うのだが、どうだろうか。

前の予算案のとき、ネタニヤフ首相の中には、なにがなんでも、少々汚いことになってもでも、生き残るという、少々みにくいほどの必死の姿があった。その先にあったのは、ガンツ氏も知らなかった、UAEとの合意であった。

もし、あのとき、ネタニヤフ首相があきらめていたら、UAEとの合意はどうなっていたかわからない。自分がいなければならないという形をネタニヤフ首相自身が、あえて作り上げてきたのかどうかはわからない。

しかし、イスラエルの首相ほど、しんどい仕事はないだろう。たたかれるわりに、やめるか、もしくは死んでしまうまで、それほど栄誉があるとも思えない。筆者は、やはり、ネタニヤフ首相のうちには、イスラエルという国を思う気持ちがあるからこそ、こんな仕事を続けているのではないかとも思うのだが、どうだろうか。

少なくとも、自分の幸せな人生だけを求めて満足している姿ではないだろうと思う。石のひとりごと。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。