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レビン法務相が司法制度改革案を発表
12月29日に新政権が発足してからまもなくの1月4日、ベングビール国家治安相が、神殿の丘へ入場して、国内外に物議をかもしたが、そのわずか2日後の6日、今度は、レビン法務相が、行政が司法を支配することも可能になる、司法制度の改正案を発表。民主主義の危機だと激震が走っている。
イスラエルでは、政府が立案した法案を国会が審議し、合意して成立すると、次に最高裁の判断を仰ぐことになる。最高裁が合意せず、却下となった場合、この法案はお箱入りとなる。このように、政府の暴走を抑えてきたということである。
ところが、今回、就任したばかりのレビン法務相が発表した4項目からなる司法制度改正案によると、この最高裁の権限が著しく制限され、行政が司法よりも上に立つ形になることがわかった。メディアは「オーバーライド(乗り越え)条項」と報じた。
三権分立、民主主義を根底から揺るがすこの法案に、イスラエルの民主主義が危ないと懸念と反発が噴き出している。
オーバーライド条項とは
4項目からなる司法制度改正案は、次の4項目である。
① 政府の法案を却下するには、最高裁裁判官15人全員の一致。もしくは“明らかな(12-14人)一致”が必要とする。また仮に却下しても、その法案はお箱入りとならず、政府が裁判官を解任して新しくした後、もう一度審議することができる。
② 最高裁判官選考委員会の構成を、現在の9人から11人にする。9人は法務大臣、首相、国会から選ばれた2人(与党と野党)、弁護士会から2人、最高裁判所から3人となっているところ、法務相が選ぶ“公の代表”2人が加えられる。この2人は、弁護士会ではなく法務相が選ぶ。こうなると、11人のうち、過半数の6人が与党関係者ということになり、常に過半数で、与党が支配権を持つ形である。
③ 最高裁が、法案の審議において、“合理性”基準に照らして却下することを禁ずる。何を意味するかだが、専門的に見て、出された法案が基本法に合法的かどうかを判断して却下することができなくなるということである。そうではなく、その時に政治的に必要かどうかがより重要な法案であれば通すべきということである。基本法へのレビン法務相はこれを司法制度改革の第一段階だとも言っている。
④ 政府や大臣の法律顧問の地位が格下げとなり、法律顧問による政府の政策決定に障害にならないようにする。
総じて、三権分立の中で、行政が突出するとみられてもおかしくない形である。いうまでもなく、野党や司法関係者、左派系市民からも懸念が噴出しているが、いかんせん、与党は過半数である。何者もこれを止めることはできない。レビン法務相は、この司法制度への改革を4月の過越までの3月末までに決定したいと語っている。
www.timesofisrael.com/government-intends-to-pass-sweeping-judicial-overhaul-by-end-of-march/
司法改革が決定されたらどうなるのか:右派イデオロギーを推進しやすくなる
総じていうなら、ネタニヤフ首相とその政権に権力が集中するということである。
その象徴として、現在、最高裁は、汚職で懲役2年を経験しているシャス党のアリエ・デリ党首が、新政権で内務省と保健相に就任するべきではないという判断だが、それは覆される可能性がある。
これについては、まだメディアには上がっていないが、おそらく、ネタニヤフ首相自身の汚職裁判もなくなるかもしれない。政府が最高裁より上になるからである。
元副最高裁のエリヤキム・ルービンシュタイン氏は、常に国会過半数の意見が通り、弱者や少数派が守られなくなると指摘する。これまでは、最高裁が、過半数与党の意見を覆す権利があったので、弱者を庇護することができたからである。
その例として、Times of Israelは、シャロン首相がガザからの撤退を決めたとき、当時の最高裁はこれを却下しなかったことをあげた。
右派が目標とするのは、“聖書に書かれている通り”、神がユダヤ人に与えたイスラエルの地(西岸地区、ガザ地区含む)をユダヤ人の国として確立することである。
したがって、右派は、ガザからの撤退を反対していたのだが、最高裁はこれにゴーサインを出したということである。それでイスラエルはガザから撤退したのであった。しかし、その後、ハマスが台頭し、事態は悪化したと右派は考えている。
言い換えれば、最高裁の決定は、左派的になりやすく、右派には足かせになる傾向が強いということである。司法制度改正案をすすめようとするネタニヤフ首相が、これまで最高裁が政府の上にいたので、効果的な政権運営ができなかったと言っている通りである。
今、イスラエル史上最も、強硬(過激右派も含む)右派政権が立ち上がったこの時に、時を逸せず、まずは、この足かせを排除するということを始めたということである。イスラエルを守るために、政権のリーダーシップを強化する方がよいとネタニヤフ首相は確信しているのだろう。
しかし、ルービンシュタイン氏は、これまでイスラエルの司法制度が右に傾かず、平等校正であったので、パレスチナ自治政府が国際法廷に訴えても、イスラエルは守られてきたと語る。それが一転、イスラエルの司法制度が右派的になると、今後、国際法廷や国際刑事裁判所からのイスラエルへの対処が厳しくなる可能性が出てくると懸念を表明している。
*エルサレムの最高裁にフリーメイソンの影?
全くの余談になるが・・エルサレムの国会に近い最高裁の建物は、ロスチャイルド家の寄贈によって建てられた。その中の図書館近くには、不思議なピラミッド形の建物があり、フリーメイソンのシンボルである「プロビデンスの目」との関連があるとも言われている。
なお、イスラエルの現在のクネセット(国会)建物もロスチャイルド家の大きな寄贈で建てられている。
www.israelnationalnews.com/news/171292
en.wikipedia.org/wiki/Supreme_Court_of_Israel#Building
テルアビブで3万人がデモ
レビン法務相の発表の翌日7日、世俗的で左派的な考え方の人々が多いテルアビブで、この改革に反対する人々がデモを行った。参加者は3万人と報じられている。
「過激な政府が、すでに我々皆を傷つけようとしている」「アラブ系市民や性による人種差別が深まる。」など、かなり過激な様相であったことから、レビン法務相の家の護衛が強化されたとのこと。右派だけでなく左派は、自らの正義感で動いているので、もっと過激になりやすいということも忘れてはならない。
www.jpost.com/breaking-news/article-726915
石のひとりごと:イスラエルは孤立に向かうのか?
ニュースを見ていると、本当に今、イスラエルの政界が大きな変化の時であり、混乱していることが見えてくる。何がよくて、何が悪いのかは、現時点では、まだわからない。しかし、この変化が、国際社会との関係に大きな影響を及ぼしつつある。
イスラエルで強硬右派政権が立ち、さっそくベングビール氏が、閣僚の立場で神殿の丘を訪問したことから、国連安保理では、イスラエルへの避難決議が採択された。これに続いて、強硬右派政権が司法を乗り越えて、独裁に近い形になるなら、国際社会の目はさらに厳しくなるだろう。
また、ネタニヤフ首相は、ロシアのプーチン大統領とも個人的に対話できる関係にある中、コーヘン外相が、イスラエルはこれからも、ロシアを非難する立場には立たず、ウクライナへの武器支援はしないと確約し、国際社会から冷たい目線がイスラエルに向けられている。
世界各地では、反ユダヤ主義とその暴力が悪化しており、こうしたイスラエルの動きで、その傾向に拍車がかかるのではと懸念される。聖書によると、世界中がイスラエルを取り囲む時が将来くると書かれているが、その形が整いつつあるようで不気味である。