極右ベン・グビール国家治安相が神殿の丘訪問で物議 2023.1.4

National Security Minister Itamar Ben Gvir visits the Temple Mount, January 3, 2023 (Courtesy Minhelet Har Habayit)

12月29日に就任したネタニヤフ政権。さっそく様々な課題に直面している。

3日、極右政党オズマ・ヤフディ党のベン・グビール国内治安相が、就任後早速、神殿の丘を訪問した。パレスチナ人、ヨルダン、友好関係がすすむ湾岸諸国、サウジアラビア、アメリカや世界諸国からも、懸念が噴き出している。

国家治安相に就任直後に神殿の丘訪問:極右ベン・グビール氏

ベン・グビール氏は、3日、予告なし、朝7時に、最小限の警備員だけを連れて、神殿の丘へ上がった。滞在は15分ほどだった。

早朝であり、大きな紛争をさけようとしたともみられるが、Times of Israelによると、次のように述べており、十分挑発的である。

“イスラエル政府が、テロ殺人組織(ハマスのこと)に降伏することはない。神殿の丘はイスラエル人にとって、最も重要な場所だ。神殿の丘は、全ての人に開放されている。イスラム教徒、キリスト教徒、そしてユダヤ人にもだ。私が所属する政府に人種差別はない。ユダヤ人も神殿の丘に上がる。」

以下は、神殿の丘に上がった直後に、テレビニュース、チャンネル12に出演したベン・グビール氏。ユダヤ人も神殿の丘に上がれると激しく反論している。

グビール氏の神殿の丘訪問については、ガザのハマスから、攻撃の警告が出されていたことから、筆頭野党、ラピード前首相は、この前日の2日、「もしベン・グビール氏が神殿の丘を訪問したら、紛争に発展し、イスラエル人が死ぬ事態になる。」と強い警告を出していた。

イスラエルでは、かつて2000年に、右派のアリエル・シャロン氏が神殿の丘に上がった直後に、アルアクサ・インティファーダ(武装蜂起)が始まり、テロで、イスラエル人が多数死亡したという経験をしている。

3日には、ネタニヤフ首相もベン・グビール氏と会談し、神殿の丘への訪問は、延期するみこみというニュースが流れていた。その直後に、まるで不意打ちのように、ベン・グビール氏は神殿の丘を訪問したということである。

なぜユダヤ人は神殿の丘へ自由に入れないのか

1967年の六日戦争後、イスラエルはヨルダンと、神殿の丘に関するステータス・クオ(現状維持)の原則を維持している。これは、神殿の丘は、治安維持においては、イスラエルの主権下に置くが、その管理については、ヨルダンが権利を維持するという大変ややこしい約束である。この合意は1994年にも確認されている。

この原則により、ヨルダンはイスラム教徒意外が神殿の丘へ入ることに制限をかけ、入る時間、入る門などに制限をかけている。また、ユダヤ人とキリスト教徒が聖書や祈りの書物を持って入ることは禁じられている。神殿の丘での祈りも禁じられているため、目をつぶるなど祈る様相をしていると、パレスチナ人たちが、とりしまりにやってくる。

しかし、暴力的な紛争をとりしまるのは、イスラエルの国境警備隊なので、非常にややこしい中での現状維持、ということである。

こうした状況の中でも、決められたルールを守るのであれば、ユダヤ人が入ることが絶対禁止というわけではない。ベン・グビール氏もそのルール内で訪問していたわけである。実際、ベン・グビール氏が神殿の丘に上がることはめずらしいことではない。8月にも大勢の治安部隊とジャーナリストを伴って、神殿の丘に上がっていたのである。

しかし、今は、国家治安相という、治安問題にもかかわる閣僚の立場になっているので、これまでとは違ったメッセージを発することになってしまうのである。

イスラエルの正式なユダヤ教チーフラビは、至聖所(大祭司のみが足を踏み入れることができる)の位置が不明である以上、ユダヤ人は神殿の丘へ上がることは控えるべきであるという立場である。

スファラディ系チーフラビ・イツハク・ヨセフ師は、ベン・グブール氏に「あなたは政府閣僚の一人なので、ユダヤ人は神殿の丘に入るのを控えるようにという、正式な国のチーフラビの指示に従ってもらいたい。」と伝えたとのこと。

しかし、イスラエルのメディアによると、国家治安相になったベン・グビール氏には、次の過越の祭りの際に、神殿の丘で子羊をささげる儀式をしたいと、その許可を求めているユダヤ教団体があるとのこと。ベン・グビール氏がどんな判断を下すのか、注目されている。

www.timesofisrael.com/after-visit-ben-gvir-refuses-to-say-if-hell-seek-to-change-temple-mount-status-quo/

ガザからロケット弾:被害はなし

3日夜、ガザからイスラエルに向けてロケット弾が1発、撃ち込まれたがガザ内部に着弾し、イスラエルに被害はなかった。以後、ロケット弾による攻撃はない。ハマスなどからの声明も今のとこころ、報じられていない。

www.timesofisrael.com/rocket-launched-from-gaza-at-israel-after-threats-over-ben-gvirs-temple-mount-visit/

外交に深刻な影響:ネタニヤフ首相のUAE訪問延期

ベン・グビール氏の神殿の丘訪問は、イスラエルの外交に深刻な影を落とした。ヨルダンは、在ヨルダン・イスラエル大使のエイタン・シュキ氏を召喚し、極右政治家ベン・グビール氏の行為を批判した。シュキ氏は、イスラエル政府は、神殿の丘の現状維持の原則を維持すると回答している。

近隣諸国、エジプト、トルコも正式な声明として、ベン・グビール氏の訪問が、マイナスの影響を及ぼすと批判。友好国、アメリカも、ホワイトハウスの治安委員会が、神殿の丘での現状維持の原則を破ることは危険であると警告を発した。

UAEも湾岸諸国を代表して、ベン・グビール氏の訪問を深刻な挑発だと厳しく批判。この件とは直接の関係はないとしながらも、予定されていた、ネタニヤフ首相の初の公式訪問を延期すると発表した。アブラハム合意のバーレーンも批判。

イスラエルが国交開始を目論む、サウジアラビアも正式に批判を表明。これまでの努力に水が刺された形となった。

欧米では、フランス、イギリスが批判を表明した。

ネタニヤフ首相は治安閣議を開催

この件に関するネタニヤフ首相からのコメントはない。ネタニヤフ首相は同じころ、国家の治安維持を決定する治安閣議を招集していた。

メンバーは、11人で、リクードの閣僚以外は、特に選挙での勝利で仮があるとみられる、宗教シオニズム党のスモルトリッチ氏、オズマ・ヤフディ党のベン・グブール氏、シャス党のアリエ・デリ氏の3人である。

治安閣議には、穏健派や、閣僚ではないが、アメリカとの関係に深く関わり、冷静で賢明と目されるダーマー氏も含まれている。リクード以外の3人の言動を抑えられる形ではないかともみられている。

www.jpost.com/israel-news/politics-and-diplomacy/article-726513

石のひとりごと

さっそくにひやっとさせられる出来事だった。幸い、パレスチナ人との大きな紛争には今の所なっていない。しかし、国民の中には、ネタニヤフ首相が、リクード以外の政党に譲歩しすぎたのではないかと、ネタニヤフ首相の主導力を疑問視する声もある。

先日、ネタニヤフ首相が嘆きの壁に祈りに行っている様子が報じられていた。まさに主の助けがなければ、イスラエルを導いていくことは不可能だろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。