戦闘の傷跡と立ち上がろうとするガザ市民たち 2021.5.27

再建にとりくむガザの人々 スクリーンショット

停戦後ガザの様子

停戦から1週間。ガザ内部に海外メディアも入るようになり、その破壊の激しさを目にするようになってきた。ガザ市民たちが、がれきとほこりの中で、生活を取り戻そうとする姿も見られている。

日本からもTBSが、須賀川記者による停戦後のガザの様子を生中継で伝えている。須川記者は21日、エレツ検問所からガザ入りしている。

なお、ガザ保健省によると、死者は、254人(子供66人、女性39人、高齢者17人)で、ハマス指導者ヤヒヤ・シンワル自身が認めた通りに武装兵の死者が80人とすると、市民の死者は、男性が52人で174人ということになる。

無論、死者が一人でも出てはならないのだが、これほどまでに激しい攻撃の中で、死者がこの人数ですんだということは、イスラエルの攻撃が、かなり正確にハマス関連地のみを攻撃していたということ、また、周辺市民にはできる限りその前に避難できるようにしていたということではないだろうか。

ブリンケン米国務長官も、「イスラエルは、市民の犠牲を最大限回避した。」と認める発言をしている。

こうしたガザ現地からの映像を見ると、破壊されたビルの跡は、ビルがなくなっただけでなく、深い穴になっており、水が貯まるまでになっている。

周囲のビルは破壊されてはいないものの、その表面は削り取られ、もう使用は不可能だろう。がれきの中には、ほこりで灰色になった市民の生活物品がみえる。

UNRWA(国連パレスチナ難民支援機関)ディレクターのマティアス・シュメール氏が答えたところによると、少なくとも1000軒が破壊されており、数千人がホームレスになっているとみられる。

しかし同時に、戦闘中も、また特に今は、医療物資や食料、水などの搬入が始まっているので、人道支援を緊急に行わないといけないというわけではないと述べた。

また、それほどまでに緊急な人道支援の必要が見えないかもしれないこと(破壊が限定していることや、意外に多くの車が走っているなど)を挙げ、建物の復興は可能かもしれないが、今回はこれまでと違って、人々の心理的な影響が心配だと述べた。

物理的破壊より心理的影響を懸念するUNRWAディレクター

UNRWAのシュメール氏は、23日、イスラエルのチャンネル12のインタビューに答えた。チャンネル12のアナウンサーが、「イスラエル軍は、今回、かなり正確な攻撃をしたと言っているが、どう思うか」との質問をされ、シュメール氏は、それに反発はしないといいながらも、「それは私にはわからないことだ。」と答えた。

肯定はしなかったが、否定もしていないこの返答には、すぐにパレスチナ人の激しい反発があり、シュメール氏が公式に謝罪するに及んでいる。しかし、シュメール氏は、後にイスラエルがコンテクストを抜きにした報道をしたとも返答している。

この時、シュメール氏が本当に言いたかったことは、今回の戦闘における、イスラエル軍の攻撃による破壊力がこれまでとは比べのにならないほど“Vicious (悪い)”ということである。

人命を失わないようにしたかもしれないが、その破壊はあまりにも“悪質”だったというのである。たとえば、あるオフィスでは、机の下にあった石が爆風で窓から飛んだとのことで、もしそこにいたら、その机の人物は間違いなく死亡しているなど。

イスラエルの攻撃は確かに正確であったかもしれないが、大きな恐怖を生み出すものであり、人命が失われたことは決して受け入れられるものではないとシュメール氏は語った。

イスラエル初のAI作戦

イスラエル軍では、今回、はじめてAIによる情報分析が、戦闘で使われていた。イスラエル軍の中に、天才的頭脳が集まる8200部隊というのがあり、様々な要素からなる情報を分析するプログラムがあるとのこと。その名も「錬金術」「ゴスペル」「知恵の深さ」などと名付けられている。

「ゴスペル」は、AIを使って、諜報活動を行う部隊を導いて得た情報から、ターゲットを絞り込み、イスラエル空軍が正確に攻撃するという作戦である。なぜ「ゴスペル」なのかは不明。これが、あまりにも正確にハマス関係者の位置を割り出したかもしれず、近代戦争が一歩先に進んだ感じである。

これが、シュメール氏のいう、「恐怖」に繋がっているかもしれない。イスラエルとしては、その恐怖が、今後の戦闘への縛りになればと思ったかもしれないということである。しかし、肝心のハマスにその恐怖は伝わっているかどうかは、まったく不明である。。。

国際社会からの復興支援

これまでに表明されたガザ地区再建に向けた国際社会の動きは以下の通りである。エジプトが5億ドル(約550億円)、アメリカからガザへはまず550万ドル(約6億円)で最終的には7500万ドル(約83億円)をガザを含むパレスチナ人全般へ支援する予定。

アメリカは、すでにパレスチナ支援として3億6000万ドル(約400億円)の支援を検討中であったとのことで、ガザへの支援もその中からになると思われるが、まだ議会を通過していない。この他、国連が、ガザへの緊急人道支援として、3300万ドル(約40億円)

この他、カタールがまた現金を市民に配布するという情報もある。これからこれがどうハマスの再建にならないようにするかが、大きな課題である。

石のひとりごと:ガザの人々“生きている限り希望はある”

破壊して立て直し、また破壊して立て直す。その度に国際社会も、大金を投入している。なんとも、人間の悲しさというか、どう表現したらいいかわからない。

ただ、イスラエルに長年住んだ者として、一つ言えることは、イスラエルが、それを望んでいるわけではないということである。イスラエルとしては、ガザの人々も静かに人生を楽しんでくれるなら、そことも友達になりたいとすら思っているということである。

ハマスがガザを支配するようになる2007年以前、まだユダヤ人入植者たちがガザにいたころは、パレスチナ人たちが、ユダヤ人の農場で働いていた。彼らはそれなりに親しい関係を楽しんでいたと思う。

また、ガザのビーチにはユダヤ人も行っていた。今ロケット攻撃を受けているイスラエル南部の人も、かつては、ガザのビーチに行っていたのである。

それを国際社会は覚えているだろうか。しかし、それからもう15年近くになる。ガザではもう、その当時のことを覚えていない子供達がティーンエイジャーになっている。彼らは、繰り返されるイスラエルとの戦闘の中で育てられた。その原因を作ったのは明らかにハマスである。

しかし、一つの希望は、こうした戦闘と破壊に慣れていると思われるガザの市民たちは、意外にパワフルに、立ち上がっているかもしれないということ。以下、後半でたくましいパレスチナ人の様子を見ることができる。

ガザの人たちが言っている。「生きている限り希望はある。することがあるなら、家ですわっているようなことはない。」「神が私たちに忍耐と力をくれるので、私たちはまた立ち上がる。前よりよくなる。神によって私たちは繁栄に戻る。」

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。