戦時下の暗闇でリアルなハヌカ:ウクライナで1夜目点灯 2022.12.19

暗闇に光:首都キエフでハヌカ点灯

イスラエルと世界のユダヤ人たちは、18日の日没から8日間のハヌカの祭りに入った。時差はあるが、イスラエルから世界中で、戦時下のウクライナでも1本目の蝋燭が灯された。

*ハヌカとは

ハヌカは、聖書で命じられている例祭ではない。紀元前2世紀ごろ、エルサレムは、ギリシャの後に出てきた残虐なセレウコス朝シリアの王、アンティオカス・エピファネス4世の支配下にあり、神殿は偶像礼拝に汚されて、ユダヤ人たちは律法を守ることを禁じられる苦難を強いられていた。

しかし、紀元前168年、ユダヤ人のマカビー一家(父と5人の息子)が、一家だけでエルサレムに踏み込み、ギリシャの王たちと戦って追い出すことに成功する。エルサレムを解放したマカビー一家は、まず神殿を聖め、本来礼拝するべき神、主を礼拝することができるように整えた。

この時に神殿のろうそく(メノラー)をともすために使えるほどに聖なる油は、1日分しかなかったが、奇跡的に8日間燃え続けたという言い伝えが残っている。ハヌカはこれを記念し、8日間、毎日ろうそくを1本づつともして、神の奇跡を思うというのがこの例祭である。

聖書の例祭ではないので、労働や移動の制限はない。電気が消えることもない。ユダヤ人たちは、スフガニヨットと呼ばれる油であげたパンを食べながら、家族友人知人らと賑やかに宴会を行う。クリスマスを祝わないユダヤ人にとって、クリスマスに対抗するような、華やかで、楽しい例祭である。

50%停電のウクライナでハヌカ

この楽しいはずのハヌカは、戦時下にあるウクライナでも覚えられている。ウクライナでは、ハヌカの2日前、16日にも、キエフ、オデーサなど各地への大規模なミサイル攻撃が行われた。

撃ち込まれたミサイル76発のうち、キエフでは、40発全部を撃墜できた他、合計すると60発は撃墜したという。しかし、16発はインフラ設備などを破壊したため、全国で必要な電力の50%が失われたと伝えられている。影響を受けているのは、200万から300万人にのぼるという。

www.nikkei.com/article/DGXZQOGR16EAJ0W2A211C2000000/

しかし、18日夜、首都キエフでは、停電で真っ暗な独立広場で、8枝のハヌカに1本目の光をともす点灯式が行われた。このメノラーは、ヨーロッパで最も背の高いメノラーだという。

ウクライナのユダヤ人連盟が主催するこの点灯式には、キエフのクリチコ市長、イスラエル、アメリカ、日本、ポーランド、カナダ、フランスの大使たちも出席していた。

自身もユダヤ人である、ゼレンスキー大統領は、「数の少ない方が、多い方を打ち破った。光が闇に打ち勝った。それと同じことがここで起こっている。」とビデオメッセージを送った。

www.timesofisrael.com/ukraine-jews-mark-festival-of-lights-amid-skies-darkened-by-russian-strikes/

なお、この前日の17日夜には、キエフの同じ広場に、クリスマスツリーが点灯されていた。ツリーは、昨年の半分にされたとのことだが、12メートルだという。

www.nikkei.com/article/DGXZQOCB190T00Z11C22A2000000/

ウクライナ情勢まとめ

BBC
ピンクがロシア支配域で紫がウクライナ奪還地域

今年2月から始まったロシアのウクライナ侵攻。10ヶ月経過した今、ウクライナが予想外の反撃を見せ、世界諸国もウクライナを支援していることから、いまやロシアは、武器不足になりつつあるとみられている。

これを助けているのがイランで、イラン製のドローンが多数使われるようになっている。

ロシアは、核兵器の可能性をちらつかせながら、ウクライナのインフラを攻撃して、ライフラインを奪うという非道な動きに出ている。

しかし、ゼレンスキー大統領によると、ロシアがインフラを破壊しても、EUなど国際社会の支援もあり、短時間で回復させているので、まるでいたちごっこのような一面もある。ヨーロッパもエネルギーのロシア依存からの離脱を進めている。

こうした中、今月6日、ウクライナが、ロシア中西部国内、しかも首都モスクワからそう遠くない地点も含めての空爆を行った。しかし、プーチン大統領が弱気になることはなく、逆に本気で反撃してくると予想された。

そうした中での16日、ロシアは、巡航ミサイルなどでウクライナを大規模に攻撃した。しかし、これは、大規模な攻撃の前兆に過ぎないのではないかとの見方がある。

ニュースでは、ロシアが、来年早々、ベラルーシも巻き込む形で、地上戦を含む大規模な攻撃に出てくるのではないかと懸念されている。

www.bbc.com/news/world-europe-63995244

ただ、独立系メディアによる情報としてNHKが伝えたところによると、ロシア国内ではプーチン大統領の支持率が57%(7月)から25%(11月)と急落しているという。まだ先のことは予想不可能かもしれない。

www3.nhk.or.jp/news/html/20221216/k10013924831000.html

こうした先行きが全くみえない状況の中でのハヌカである。ユダヤ人たちは、かつてマカビー一家が、全く不可能と思われるほどの大国シリアを撃退したことを思い、大国ロシアからの祖国解放を思っているのだろう。

神戸シナゴーグのラビ・シュムリックのお兄さんは、やはりラビで、キエフにおられるという。ユダヤ人たちの信仰を守るためである。

安堵を訪ねると、「大丈夫。全能の神がおられるから」と天をさして言われた。キエフにいるラビたちとその周囲におられる人々の安全と祝福を祈る。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。