感染は本当に潮時か?:さらなる規制緩和への駆け引き 2020.4.23

MDA コロナホットライン 出展:Jerusalem Post/ MDA

新型コロナは潮時か?

イスラエルでは、19日から外出制限の緩和が実施され、道路にも通常の75%程度の車が出始めている。またイケヤなど営業再開を認められた店舗には、イスラエル人が殺到したもようである。

www.ynetnews.com/article/BJvtLz000I

しかし、規制緩和から3日後の22日、イスラエルでの感染者数は、過去24時間で556人と、ここ数日250人前後であったことからすると、一気に激増し、計1万4498人となった。死者は過去24時間で5人増えて189人。重傷者141人。人工呼吸器依存者は106人である。

しかし、新たな感染者が激増したことについて、保健省のグロット長官は、検査数が、20日は1万件以上と、急増していることによる感染者数増加とも考えられることと、重症に陥る人、人工呼吸器に依存する人の数は、変わらず減少しているので、今回の新型コロナは、一段落しはじめたとの見方を変えていない。

www.timesofisrael.com/israel-sees-sudden-jump-in-coronavirus-cases-as-death-toll-hits-189/

また、イスラエルが中国から輸入した検査キットで、少なくとも1万件は、正確でない*との報告が出たので、グロット長官は、数字以外の要素も考えて、総合的に判断しているようである。

ただし、グロット長官は、「ウイルスが一段落しようとしている」と表現し、人間が勝ったというわけではないという意味をにじませている。また、感染者数が増えているということについては、甘く見ているわけではないとし、油断すると、5月にも感染の拡大が再発すると釘をさした。

*中国製検査キット不正確:少なくとも1万件

中国製の検査キットが不正確で、各国から返品が相次いでいるということはすでに報道されていた。イスラエルでも22日、MDA(救急隊)が、少なくとも1万件が不正確である可能性があるとし、再検査の必要もあると発表した。

www.jpost.com/israel-news/as-many-as-10000-coronavirus-test-kits-from-china-found-faulty-625517

なお、検査数を最小限にしようとしてきた日本とは正反対に、ネタニヤフ首相は、1日3万件の検査を指示しており、22日には、これまでで最高の1万3342件を記録している。イスラエルでは、今も、感染の動向を把握するためとして、国民全員の検査も検討している。

戦没者記念日(28日)と独立記念日(29日)は再び外出禁止へ

イスラエルでは、来週、28日が戦没者記念日で、続いて29日が独立記念日である。戦没者記念日には、過去の戦争やテロで死亡した兵士や犠牲者の墓に、家族のみならず、関係ない人までもが、敬意を払うためにヘルツェルの丘や、各地メモリアルや墓地に向かう。屋外ではあるが、かなりの「密」状態になる。

さらに続く独立記念日は、若者たちが特に町で大騒ぎする日で、感染の危険性が非常に高い。政府は、論議の末、この2日間は、公共交通機関をすべて停止とし、緩和前に近い外出制限に戻すこととした。

①戦没者メモリアルや墓地訪問は、27日午後4時までなら可。27日夕刻から始まる戦没者記念日その日については禁止。

②戦没者記念日直後からの独立記念日について:28日午後5時から29日午後8時まで(通常なら盛大なセレモニーや公園でのバーベキュー)は、食料や薬局へまでの外出のみを許可する。どうしても手に入らないものを得る場合のみ他地域へ行ってもよい。

独立記念日に行われるイスラエル空軍戦闘機部隊のエアショーもなし。しかし、上空を飛んで、人々に戦闘機の音は聞こえるようにするとのこと。ユダヤ人にとって、祖国の独立と軍隊の存在は、あまりにも大きな希望だからである。

コロナとの戦い:その現場

感染は、一段落にあるとはいえ、医療現場では、まだ悲壮な戦いが続いていることは、忘れてはならない。

21日に死亡した超正統派のバイラ・ポルーシュさんは、6人の子供の母だった。コロナ陽性が発覚し入院。回復に向かっていると見えたが、その半時間後に急死した。

現在、バイラさんの夫、ラビ・ポルーシュもコロナ陽性で入院。6人の子供のうちの1人も重症とのこと。以下のクリップは、バイラさんの葬儀の様子であるが、自らも感染しているラビ・ポルーシュは救急車の中で、葬儀に加わっている。

また、ツファットでは、コロナに感染した妊婦(27)が、呼吸困難に陥ったので、胎児が酸欠になるとの懸念から、予定日よりひと月以上早かったが、急遽帝王切開した。この母親は、軽症で4日前に入院したばかりだった。

母親はまだ人工呼吸器に繋がれており、新生児を見ることができていない。父親も新型コロナに感染して病院にいるので、新生児に近づけない状態である。この夫妻は、政府が封鎖を決めたアラブの町、デイル・アル・アサドの住民だった。この町では多数の住民が感染している。

www.timesofisrael.com/in-hospital-drama-doctors-deliver-baby-as-virus-hit-mom-struggles-to-breathe/

石のひとりごと:霊的戦い

新型コロナで死亡する人の場合、病院に搬送される時が最後となり、家族は臨終にも立ち会えないまま永遠の別れとなる。しかも、別れてから数日後に死んでしまう人も少なくなく、家族にとっては受け入れがたい痛みとなる。イスラエルでは、家族に防護服を着用させ、最後に面会できるようにとの取り組みもはじまっている。

コロナウイルスは、多数は軽症で回復する中で、奪う命は確実に、しかも数日の間に奪っていく。恐怖を持つべきか、恐れすぎなくていいのか、どうにも難しい。加えて、経済を奪って、人々を絶望に追い込んでいる。実に冷酷で狡猾で、恐ろしいウイルスである。これはもう、霊的戦いではないかと感じる。

来年の今頃、世界はどうなっているのだろうか。主はご存知であろう。今やるべきことは何か。ともかくも、まだ救われていない命が奪われることがないように主のあわれみが今日もあるように。1日も早く、治療薬と、ワクチンが与えらえるように祈ろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。