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エルサレムのユダヤ教超正統派で広がる感染:一般地域の9倍
イスラエルの中で最も感染がひろがっているのは、エルサレムである。
エルサレムは、人口92万人中、25%にあたる23万人がユダヤ教超正統派である。先週、一時封鎖となったブネイ・ブラックと同様、エルサレムでも、超正統派地域での感染率が他地域より高いことがわかった。
7日の記事によれば、エルサレムの感染者は1464人で、このうち1100人が超正統派地域の人であった。一般の地域での感染率が、1万人中5人であるのに対し、1万人中47人と、9倍以上である。
www.ynetnews.com/article/r111dFLqvI
この原因としては、ユダヤ教超正統派の人々は、集団で動くことが多いことと、一般メディアを避ける傾向にあるので、感染予防のための知識や指示が行き渡っていないことも挙げられている。
エルサレムの超正統派の中には、ソーシャル・ディスタンスを守らず、検査に来るMDA隊員の車が襲われたり、外出制限の監視に回っている警察との衝突もあった。外出制限に反発する人もいた。隔離から脱走してバスに乗っているところを捕まった人もいる。
エルサレム市は、通りの連絡板に手洗いなどの基本情報を張り出したり、モシェ・リオン市長が、この地域だけのメディアにアプローチするなどして、情報拡散に努めている。
余談になるが、超正統派の男性は長くボリュームのあるヒゲのある人が多い。湾岸戦争の時もガスマスクの着用が難しかった。今回の危機においても、髭のある人に合うマスクが製造中との情報もある。
こうして今ようやく、手袋やマスクをしている超正統派の姿がみられるようになってきたところである。
しかし、やはりあまり強制的に封鎖措置をとると、警察と衝突する可能性がある。過越の繊細なシーズンでもあるためか、計画していたこれらの地域でのロックダウンは、今も実施できていない。
封鎖:ユダヤ教超正統派の孤立化
今回、極端にユダヤ教超正統派地域に感染者が多数でていることから、今後もこの地域への差別や孤立が進むことが懸念されている。
ユダヤ教超正統派をめぐっては、昨今、税金や兵役が免除されていることを不公平と感じる世俗派の声が高まり、右派政党と左派政党との大きな対立の原因となっていた。この中で、コロナ問題である。
もし今後も超正統派から多くの感染者が出続けて、病院のベッドや人工呼吸器を塞がれることは、世俗派たちにとって脅威となる。
世俗派たちからは、なぜ、この地域の封鎖をしないのかというの声が上がっている。ネタニヤフ首相は、「この地域の人は、うちにこもっていて外には出てこないので心配はない。」と説明した。
しかし、チャンネル12のニュースキャスター、リナ・マツリア氏は、「超正統派たちは、国の指示に十分な敬意を払わなかった。この関係は変わらなければならない。」と超正統派社会を非難した。
この発言が物議となり、テレビ局には、マツリア氏をくびにしろとの怒りが噴出。ネタニヤフ首相は、「コロナとの戦いに人種はない。超正統派も世俗もないし、ユダヤ人もアラブ人もない。この戦いは我々皆の戦いだ。」と、名指しはしなかったが、マツリア氏の発言非難するとみえる声明を出している。
このように、コロナ危機で、世俗派へのユダヤ教超正統派と世俗派との亀裂がさらに大きくなっていく可能性がある。
ブネイ・ブラックに在住するダビッド・ルービンスタインさん(46)は、町が封鎖がされた時、「まるで、新型コロナが、ブネイ・ブラックから始まったような錯覚におちいりそうだった。(ブネイ・ブラックに感染を持ち込んだのは、イタリアからの帰国者)。
自分がハンセン氏病かなにかになったような気がする。」と、イスラエル社会からの孤立感を語っている。
ユダヤ教超正統派と世俗派・イスラエル政府
イスラエルの政治では、超正統派政党を味方につけずして、立ちゆく政権はほとんとない。ネタニヤフ首相もその弱みはある。それに反発して、青白党や、リーバーマン氏が、今回の3回もの総選挙にもちこんだのであった。
www.timesofisrael.com/netanyahu-slams-wild-incitement-against-ultra-orthodox-amid-pandemic/
こうした中でのコロナ感染問題である。今後、世論がどう動くかで、超正統派の発言力が弱まって、政府の動向に変化がでてくるかもしれない。
一方で、今回、超正統派のリーダーたちが、政府の指示を市民に伝えきれていなかったことで被害が広がったことは否定できないことである。今後、不審感を抱く人が出てきて、コロナ危機後に、超正統派社会から離脱する人が増えてくるのではないかと指摘する記事もあった。