司法制度改革でもめる与野党:ヘルツォグ大統領の妥協案は今回も失敗か 2023.9.6

March 28, 2023. (Kobi Gideon/ GPO)

司法制度改革:ヘルツォグ大統領の仲介再び

高等裁判所では、9月12日に、7月に国会が採択した「合理性法案」(最高裁が国会で採択された法律を、国民の利益とって合理性に欠けると判断した場合にこれを却下する権利があるが、これをないに等しい形にする法案)に関する公聴会が予定されている。いわば、政府と裁判所がぶつかり、国の分断につながると懸念されている。

ヘルツォグ大統領は、そうした事態を避けるため、与野党議員たちを官邸に招き、広範囲の合意が得られるような妥協案を提案して、交渉するばを提供してきた。5日、官邸が発表したところによると、ここ数週間の間も、官邸での交渉は続けられていたという。

しかし、公聴会の1週間を前に、交渉はまとまるどころか、もめるだけの様相になっている。

今回焦点になっていたのは、「裁判官判事の選定委員会」に関するものであった。ヘルツォグ大統領が提案したのは、①選抜委員会での最高裁判事決定に必要な賛成票数を7にする。②この妥協の見返りとして、すでに可決した合理性法案を選考委員会に関する審議は、その後18ヶ月棚上げにする、という内容である。

①については、与党が要求している点である。イスラエル国会では、7月に国会で、判事選抜委員になる議員の選挙が行われたが、与党側の誰かの裏切りで、1人は野党議員になっていた。現時点での委員会の構成は、最高裁判事3人、弁護士協会代表3人、与党議員3人、野党議員一人である。

最高裁判事選出に必要な合意票は、現時点では5人なので、政治関係者が全員反対しても、司法関係者だけで、裁判官を決めることが可能である。それを合意票7人に増やすというのが、与党レビン法相の考えである。7人となると、政治関係者の合意が不可欠になり、最高裁判事選出に、行政が関与できるということになる。レビン法相にとっては、これが、司法制度改革の大きな基盤になるとみられている。

最高裁判事はもうすぐ交代になるが、司法側は、年功序列式で、リベラル系のアイザック・アミット氏が時期判事と考えている。これに対し、保守派(右派系)のヨセフ・エイロン氏が名乗りをあげており、与党としては、後者を選出することになると考えられる。

与党には有利にみえるかもしれないが、その後この件に関する審議は18ヶ月棚上げしなければならず、もうすぐ行われる合理性法に関する公聴会においても、スローダウンしなければならなくなってくる。レビン法相は、ヘルツォグ大統領のこの妥協案を受けれなかった。極右のベングビル氏もこれに徹底反対を表明している。

www.timesofisrael.com/what-herzogs-overhaul-plan-means-and-the-impediments-to-a-potential-breakthrough/

与野党歩み寄りなし

一時ネタニヤフ首相はこれを受け入れたとの情報が出たが、首相官邸はこれを否定。一方、野党代表で左派のラピード氏は、これを受け入れてもよいと表明した。

こうなると、与野党の間に立ち、中道の代表と目される、国民統一党、ガンツ氏の出方が注目される。ネタニヤフ首相は、ガンツ氏とそのチームに、直接の話し合いを呼びかけている。

ガンツ氏は、5日、ヘルツォグ大統領の妥協案を元にした交渉に応じる用意があると発表。与党との話し合いは無駄かもしれないが、しかし、少なくともやってみるということだと語っている。

しかし、交渉の順番として、ガンツ氏は、①合理性法案について、②司法選考委員会について、と司法選考委員会を後回しにする形を主張している。

ネタニヤフ首相の直接の話し合いについては、「無駄だ」として、応じない旨を明らかにした。今のネタニヤフ首相は、極右政治家のいいなりなので、ネタニヤフ首相と話し合っても無駄だという意味である。今回のように、なんらかの合意に至ったとしても、どうせあとで、覆されてしまうということである。

ガンツ氏は、今イスラエルが、これまでになく、各方面からの治安問題を抱える中、司法制度改革に反対する予備役たちや、新規徴兵の若者たちもが、徴兵に応じなくなっており、大きな危険にさらされていると警告している。

ガンツ氏は、今のネタニヤフ首相は、そうした国家の危機より、自分のことを優先し、国を危機に陥れている。今イスラエルは、首相不在になっていると非難した。

www.timesofisrael.com/as-netanyahu-urges-judicial-talks-gantz-says-open-to-compromise-but-pm-cant-deliver/

なんともばらばらで、合意の様子はかけらも見えない。これからイスラエルはどうなっていくのだろうか。彼らを一つにまとめるのは、やはり外敵でしかないということか。。そうはならないようにと願うところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。