イスラエルでは、正統派の定義に従ってユダヤ人と認められた人だけが、正式にユダヤ教徒として認められ、これにより、イスラエルへの移住が正式に可能になるという仕組みが長年続いている。
このため、特に欧米に多い、保守派や改革派、また世俗派がイスラエルに移住しようとした場合、正統派がさだめた長い“改宗”のプロセス(異邦人がユダヤ教徒に改宗するのではなくユダヤ人がユダヤ教に回帰すると言うこと)を踏まなければ、正式にユダヤ教徒であるとの認定を受けられず、イスラエル市民になるには、かなりのハードルを越えなければならなかった。
特にユダヤ人でイエスを信じるメシアニック・ジューたちにとっては大きすぎる難関となり、あきらめてアメリカへ帰らされた、また帰って行った人も少なくない。
このため、欧米のユダヤ人のイスラエルへの移住が進まないという課題が浮き彫りになっていた。特に近年では、ネタニヤフ首相が、正統派政党を優遇する傾向にあったので、イスラエルと欧米ディアスポラのユダヤ人社会との溝が深まり、特に若いユダヤ人のイスラエル離れが問題になりつつあった。
こうした中、3月1日、イスラエルの最高裁が、イスラエル国内においてであれば、保守派、改革派によって「ユダヤ人」と認められたユダヤ人も、ユダヤ人と認め、イスラエルへの移住を認めるとの画期的と言える判決を出した。
判決を下したのは、女性最高裁判官のエステル・ハユート氏。正統派以外のプロセスでユダヤ教徒と認定された人々の控訴に対する判決である。この判決が出るまで、実に15年の歳月が流れていたとのこと。
この判決が、今後、実社会のシステムにどう反映していくのか、政治的にはどうなっていくのかはまだこれからのことではあるが、イスラエルが、いつまでも正統派に支配されることはないという将来への示唆にもなりうる大きな転換点として受け止められている。
これが特に、総選挙の前に実現したこともまた、時を思わせるところでもある。しかし、ユダヤ教政党シャスのアリエ・デリ党首は、これがイスラエルのユダヤ人の国というアイデンティティ維持に大きな打撃になるとの見解を表明している。
www.jpost.com/opinion/high-court-conversion-ruling-helps-bridge-israel-diaspora-rift-660733
*ユダヤ教宗派とイスラエル国家
ユダヤ教には、様々な宗派があり、その違いによっては、生活様式が全く違ってくることになる。正統派は、最も律法に忠実な派で、イスラエルでは、おおむね黒い服や黒いキッパをつけている人々である。
イスラエルの国教としてのユダヤ教は、正統派で、嘆きの壁などユダヤ教聖地を守っているチーフラビ局を運営しているのは、正統派である。正統派の中でも特に律法に忠実なのが、超正統派と呼ばれる人々で、この人々はあまり一般社会の中には溶け込まない人々である。
一方、保守派はある程度は、近代社会にあわせて律法を守ろうとする人々で、例えば、安息日にシナゴーグまで車を乗ることも認める。改革派は、律法の守り方も日々の生活に合わせて行こうとするもので、女性のラビが認められている。
こうしてみると、正統派がもっともユダヤ人のアイデンティティを維持するものであることから、建国当初、ベングリオン初代首相は、イスラエルのユダヤ性を内外に示すためにも正統派を国の宗教として定め、優遇する政策を定めたのであった。
国が、国家として定着してくるにつれ、政治は連立政権が担う形になっていく。すると、ユダヤ教政党は、選挙の動向を見ながら、自分たちに有利な政策を打ち出す政党につくようになり、その党が可半数をとることになるため、大きな力を持つようになったのであった。近年、その動向に影がで始めたということである。