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北京でイランとサウジアラビアが国交再開を発表
10日、寝耳に水、といってもいいようなニュースが飛び込んできた。歴史的にも宿敵であり、イエメンで代理戦争を続けていたイラン(シーア派)とサウジアラビア(スンニ派)が、断絶から7年後の今、国交を再開するという。仲介は中国である。
それぞれの国営放送で発表されたところによると、イランとサウジアラビアの代表は、中国、北京で対話し、互いの主権と内政不干渉の約束を守ることで合意。2ヶ月以内に互いの大使を派遣しあって、外交関係を再開するという。
サウジアラビアは近年、民主的に変化しており、欧米、さらにはイスラエルとにも近寄りつつあると期待されていた。
それがなんと今、アメリカとイスラエルが、激しく敵対するイランとの和平に進むということである。
サウジアラビアのこれまでとは反対ともみられる動きとともに、今後、中国が(薄くロシアの影も率いて)、中東で、影響力を拡大するのではないかとの動きに、世界が驚きをもって報道している。
www.nikkei.com/article/DGXZQOGR10C3F0Q3A310C2000000/
イランとサウジアラビア国交再開までの流れ
イランとサウジアラビアは、共にイスラム教国だが、イランはシーア派、サウジはスンニ派と、基本的に敵対する関係にある。
さらに、イランとサウジアラビアは、2015年に始まったイエメン内戦において、サウジアラビアは政権を、イランは反政権のフーシ派を支援して、両国は代理戦争の関係にあった。
その翌年の2016年には、サウジアラビアが、アルカイダ関連でテロを働いたとするスンニ派46人と、シーア派の著名な指導者シェイク・ニムル師(2012年のアラブの春で反政府デモを率いて逮捕されていた)を処刑するという動きに出た。
ニムル師の処刑にイランのシーア派たちが怒りを爆発させ、各地でデモを開始し、テヘランにあったサウジアラビアの大使館を襲撃した。これにより、両国は国交を断絶したということである。
しかし、イエメン内戦は、昨年4月に国連の仲介で、一応の停戦となった。以来、イランとサウジアラビアの間でなんらかの話は進んでいた可能性はある。
そうした中、登場したのが中国である。中国は、アメリカが中東から手をひき始めて以来、その空いたところに進出し、徐々に存在感を増しつつある。昨年12月、習近平国家主席がサウジアラビアを訪問。今年2月には、イランのライシ大統領が、中国を訪問し、両国の関係強化を確認していた。
www.jetro.go.jp/biznews/2023/02/a1243689547dbd3c.html
こうした中、10日、イランからは国家安全保障長官アリ・シャムカニ氏、サウジアラビアからは、ムサード・ビン・モハンマド・アル・アイバン外相が、北京に来て、王毅外相とともに、今回の合意に署名。世界の発表したということである。
イスラエルへの影響は?:責任なすりあいの与党と野党
この動きは特に、イスラエルにとっても衝撃だろう。イスラエルは、サウジアラビアが、近くアブラハム合意に加わり、イスラエルとの国交も開始することを期待していた。これにより、強力な対イラン体制が出来上がるはずであった。
ところが、サウジアラビアは、イスラエルより先に、そのイランと国交を再開したということである。
この衝撃的な発表の前日9日、サウジアラビアは、イスラエルとの国交の条件として、アメリカに、民間での核開発を認めることを要求したとの報道があった。当然ながら、アメリカがこれを認めることは難しい。中東の中で核開発競争になるのは目に見えているからである。
これ以外にも、サウジアラビアは、外交筋を通して、今のネタニヤフ政権が、強硬右派政権であり、西岸地区でもパレスチナ人との暴力がエスカレートしているので、今、サウジアラビアがイスラエルとの国交に踏み切ることはありえないと言っていた。
しかし、いずれにしても、サウジアラビアが今の87歳のサルマン王の代のうちは、イスラエルとの国交など夢物語だとの見方もあったのである。
この記事が発表された翌日、サウジアラビアとイランの国交再開のニュースが世界に流れたのであった。
ベネット前首相、ラピード前首相は、現政権の強硬右派姿勢が、中東での失敗の原因だと激しく非難。一方、政権側からは、前政権とバイデン米大統領が弱腰であったから、中国に道を開けてしまった。それが原因だと非難している。
www.israelnationalnews.com/news/368555
どちらが正しいのかはわからない。しかし、この件についても、イスラエルは、分裂と互いの責任のなすりあいをしている。もはや内輪揉めしている場合ではないのだが。。
ニューヨークタイムスは、イスラエルの慌てぶりなども報じている。
www.nytimes.com/2023/03/10/world/middleeast/israel-saudi-iran.html
これからどうなる:まずはみきわめが肝心
サウジアラビアとイランがアメリカ抜きで、中国だけを仲介者としてこの合意に至ったことで、今後、中東でのアメリカの権威が著しく落ちる可能性がある。
しかし、アメリカは、この国交再開への動きを評価するとしながらも、イランが約束をどこまで守るのか、実際に両国が、大使を取り交わすことができるのか、また継続できるのかなど、まだまだ注目していかなければならないとしている。
イスラエルでも同様なのか、報道はそれほどの騒ぎにはなっていない。イランも中国も、どこまで約束を守るのかは、はなはだ確かではない。結局、結果がでるまでは、まだわからない、まだ慌てる必要はないということなのだろう。これからの動きに注目したい。