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イスラエルでは、安息日もフル回転で国民へのワクチン接種が行なわれている。今週、昨年10月以降、はじめて感染者数が減少傾向となり、実効再生産数も1以下と、感染に落ち着きがみられた。こうした中、世界からは、どうやってワクチンをそこまで効果的に実施できているのかとの取材が来始めている。
しかし、一方で、イギリス型変異種が蔓延しはじめており、基礎疾患のない健康な妊婦や新生児、幼児たちへの感染、重症化が目立ち始めている。また、イスラエルへ毎日出入りするパレスチナ人へのワクチン接種に関する課題もある。これについては事項で解説する。
最速ワクチン接種で、1月31日以降ロックダウン延長は不要か?
イスラエルでは、世界最速で国民へのワクチン接種と、厳しいロックダウン(1月31日迄予定)で、コロナと戦っている。球場やドライブスルー方式で、最大1日22万人以上がワクチン接種を受けた日もあった。すでに18−19歳以上の人々への接種が始まっている。
これまでにワクチン接種一回目を終えた人は、244万人。2回目も終えて、ワクチン療法を完了した人は、85万人。この状況下で、新たな感染者は、一時1万人を超えたが、その後、7000人台まで減少している。検査数は、6万件台にまで下がった状態で、陽性率は8.9%と下降傾向にある。実効再生産率も,0.99と1を下回った。
コロナ担当ナフマン・アシュ氏は、このままでいけば、1月31日以降、ロックダウンを延長しなくてもよいかもとの見通しを語っている。
www.timesofisrael.com/daily-infections-positive-test-rate-drop-further-as-outbreak-seems-to-abate/
世界が注目するイスラエルのワクチン接種システム
他の先進国のほとんどは、国民へのワクチン接種が計画通りに進んでいない。複数のアメリカのメディアは、なぜイスラエルで、それが可能なのかとの取材をしている。
WSJ(Wall street jounal)は、イスラエルの成功の秘訣として、①人口が920万人と少ないこと、②すべての国民が国民健康保健に加入しており、ID情報を国が一括管理していること・③医療機関がすべて公的であり、国が一括管理できること、④失敗から学んだワクチン接種で無駄を出さない工夫をした、などである。
この他、軍が、検査や、濃厚接触者追跡、連絡などをとりまとめており、医療機関への様々な連携とサポートができることも大きな要因である。
以下はウオールストリートジャーナル(WSJ)の取材。イスラエル人たちが、接種会場で順番待ちする様子、ドライブスルーなどで、ワクチン接種を受けている様子がみられる。
*最前線イスラエルからのアドバイス:接種に知恵が必要(エデルステイン保健相)
WSJの取材にもあるように、イスラエルに最初に到着したワクチンは、ファイザーのワクチン。早くからマイナス70度で維持する冷蔵庫を準備した。しかし、ファイザーのワクチンは、冷蔵庫から出したあと、5日以内に使用しないと破棄することになる。
イスラエルでは、最初、大きな会場を設置して大量のワクチンを準備した。しかし、予想以上に接種に現れる人が少なかったため、数百回分を破棄せざるを得なかった。このため、ワクチンの配布をもっと小さな単位とし、さらに細かく地域へ届けるようにした。
また、一つのバイアルに、5回分入っているため、間違って一人に5回分のワクチンを接種したケースも発生した。この時、一つのバイアルには、5回分と少し余分のワクチンが入っていることも確認された。このため、イスラエルは、若年層で、まだ接種の順番が来ていない人が、余ったワクチンが出るのをスタンバイする方法を開始した。
夕方になると、「余剰ワクチンあり」とのメッセージが入る。それで行ってみて、接種が受けられるかどうかという賭けに出るのである。しかし、悪質ないたずらで、同様のメッセージが蔓延しているので、ダメ元で行ってみて、運良く接種が受けられたという若年者もいる。なにやらイスラエルらしいやり方だが、これで、ワクチンを無駄にすることがなくなり、かつ、より多くの国民への接種が可能になっているということである。
Times of Israelの記事から、ブルックさん(29)は、夕方このメッセージを受け取って、いちかばちか、接種が行なわれているエルサレムのアリーナに向かった。(この当時、接種は60歳以上)
アリーナに行くと、最大1000人ほどの人が順番待ちしていたという。徐々にあきらめて帰る人もでてくる中、3時間ほど待って、接種を受けられた。別の接種を受けられた若者は、「いつまでも家で自粛もしたくないので「ワクチンの接種を受けられて安心した」と言っていた。なお、この場合でも2回目の接種のアポはもらえるので、2回目はスタンバイということはない。
www.timesofisrael.com/israelis-bend-the-rules-to-get-covid-vaccines-and-some-medics-are-assisting/
ただ、このやり方では、会場で、大勢がスタンバイするので、感染拡大の機会にもなりうるとの懸念もあった。
エデルステイン保健相は、アメリカのスカイ・ニュースのインタビューで、諸国へのアドバイスは何かと聞かれた際、国によって状況は違うとしながらも、あまり大きな接種会場を設営しないほうが良いと語った。できるだけ地方で、事情が把握しやすい中で、接種を行えば、無駄にワクチンを破棄することを避けられると語った。
イスラエル最大の保険組織クラリットのイノベーション担当で、イスラエルのワクチン接種システム構築をアドバイスしたラン・バリサー博士は、今、イスラエルが、直面している課題は、施設や自宅で、寝たきりで、接種会場に来ることができない人々への接種だという。
現時点では、とりあえず、ケアワーカーへのワクチン接種を優先的に行って、感染を防ぐ方法を行っているとのこと。
なお、イスラエルが購入しているワクチンは、ファイザーから800万回分、モデルナから600万回分、アストラゼネカから1000万回分。ファイザーのワクチンの保存は、マイナス70度だが、モデルナのワクチンは常温で保存可能と言われている。
石のひとりごと
イスラエルは最前線にいるので、失敗も最前線である。世界はそこから学ぶことができる。しかし、イスラエルの様子から、日本のワクチン接種の困難を思わされた。
日本の人口はイスラエルの13倍。領土も大きい。地方によってニーズもかなり違う。さらに、ワクチン担当の河野太郎大臣によると、接種のプログラムを作ろうとすると、7省庁がからむという。政府と地方の対立、超・縦割りの日本社会の中で、かなり難しいことになるのは必須である。
また、日本では、IDがなく、政府が国民全部を把握しているわけではない。だれがいつどこで、ワクチンを受けるのかの計算が難しい。
さらに、日本人の多くはワクチンに消極的だ。今、ロックダウンで少し感染者数がおちついてきたので、さらにワクチンを受けたくない人の数は増えるかもしれない。情報管理が十分でない中、スタンバイというような柔軟な対処は、特に地方では不可能だろう。地方各地で、多くのワクチンを準備して、人が来ず大量に捨てた・・・という様子が目にみえるようである。
主が、河野大臣に、日本特有のニーズの中で最善のワクチンプログラムを計画できるように。主が日本を哀れんでくださるようにと祈る。