マクペラの洞窟をパレスチナの世界遺産に指定:ユネスコ 2017.7.8

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ヘブロン・マクペラの洞窟 2017.7.6

ユネスコの世界遺産委員会(21カ国の代表)が、ポーランドのクラカウで、7月2日から12日まで、世界遺産の検証や指定を行っている。

この中で、エルサレム旧市街と城壁の「危機にある世界遺産」としての現状、続いて、パレスチナ自治政府の申請に基づき、ヘブロンのマクペラの洞窟をパレスチナの世界遺産に指定するかどうかの審議が行われた。

結果、4日、エルサレムの旧市街は、「イスラエルの”占領”によって危機的状況にある。イスラエルは、不条理な圧迫をやめるべきである。」という報告が、賛成10、反対3で可決された。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4984802,00.html

www.jpost.com/Israel-News/UNESCO-votes-Israel-occupying-power-in-Jerusalem-498755

これは今年5月の神殿の丘に関する採択に引き続き、イスラエルとエルサレムとの歴史的関係をも無視するものである。しかし、理事国21カ国のうち、賛成したのが半数以下の10カ国であったのは初めてのことで、悪い中にもよい兆しはあったとの見方もあった。

続いて、7日、ヘブロンのマクペラの洞窟に関する採択では、賛成12、反対3で、パレスチナの世界遺産として登録することで可決した。

パレスチナの世界遺産として登録されるのは、洞窟そのものと、その上にヘロデ大王が建てたとされる建造物である。投票は公開されなかったため、どの国が賛成、反対したかは不明。

www.bbc.com/news/world-middle-east-40530396

今回可決された内容は、エルサレムの神殿の丘と同様、マクペラの洞窟とユダヤ人の歴史的関連を無視する形となっており、理屈からすれば、ユダヤ人がヘブロンに住む正当な理由はないということになる。

*マクペラの洞窟

マクペラの洞窟は、アブラハムとサラ、イサクとリベカ、ヤコブとレアが葬られていると言われる洞窟で、聖書によると、アブラハムがその土地を購入したと記録されている。ユダヤ人にとっては父祖の墓として非常に重要な場所である。

この洞窟の上には、1世紀前後にヘロデ大王が建てた建造物が今も残されている。

ヘロデ大王の後、エルサレム、ヘブロンを含むユダヤ人の国、ユダ王国は、エルサレムと同様、ローマ帝国によって滅ぼされ、その後638年からは、十字軍とイギリス時代を除いて、1700年近く、イスラム教国が治めた。この間、マクペラの洞窟は、モスクとして使用された。

ユダヤ人がヘブロンへのアクセスを回復したのは、1967年になってからである。しかし、その後もヘブロンでは双方ともテロを行って殺しあったため、今は、「現状維持」という枠組みで、両者がこの建物を半分づつに分け合い、使用法を譲り合ってなんとか、双方が使えるように回している状況である。

しかし、今回、パレスチナ自治政府は、「マクペラの洞窟はイスラムのモスクである。」として、パレスチナの世界遺産であるという報告書をまとめた。エルサレムの神殿の丘の時と同様、ヘブロンとユダヤ人の歴史的は無視された形での報告書になっている。

実際のところ、今のヘブロンは、パレスチナ自治政府が管理するパレスチナ人20万人の町である。その中に、ヘブロンはユダヤと主張する右派入植者たちとその家族約300人が、ヘブロン全市のわずか3%の地域(マクペラの洞窟ユダヤ側を含む)に、大勢のイスラエル軍兵士に守られながら、生活しているという状態である。

入植地周辺は、土産物屋が多数あるが、治安維持のため、現在は1800店舗が閉鎖している。イスラエル軍に閉鎖を要請された店が多いが、自ら出て行った店主も少なくないという。

パレスチナ側としては、このややこしいユダヤ人たちに、早く出て行ってもらいたいのである。このように政治的意図で、マクペラの洞窟をパレスチナの世界遺産に指定するよう、ユネスコに申請し、ユネスコもこれを受け入れたわけである。

この申請に対する採択については、アメリカとイスラエルが、採択そのものを行わないよう訴えていた。

また、会議がポーランドで開催されていることから、ホロコースト生存者12人が、ポーランドの外相に対し、ポーランド政府に、ヘブロンに関する採択を行わないよう、ユネスコに働きかけてほしいと嘆願書を提出していた。

しかし、それも受け入れられなかったということになる。

www.haaretz.com/israel-news/1.800138

<イスラエル政府の反応>

この結果に対し、イスラエル政府からはネタニヤフ首相はじめ、閣僚たちがいっせいに非難する声明を出した。

ネタニヤフ首相は、ただちに、ユネスコへの拠出金から100万ドルを差し押さえ、その分を、ヘブロンとキリアット・アルバ(ヘブロンに隣接するユダヤ人入植地)に、ユダヤ人の遺産に関する博物館を建てるのに使うと発表した。

イスラエルがユネスコへの年間拠出金を差し押さえるのは、今年1月に600万ドル、3月に200万ドル、さらに100万ドルと、今回の100万ドルと4回目になる。結果的にイスラエルからユネスコへの拠出金は、170万ドルとなった。

これだけ少ないと、イスラエルがユネスコで投票する権利を失う可能性もあるとハアレツ紙は伝えている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4986097,00.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

2 comments

5月28日、29日には、BFPInstitute の時に、ヘブロンへ同行して下さってガイドを受けてくださってありがとうございました。現代イスラエルを体験し、とても感激しています。
今回教会で、ヘブロンの事に関して、2ページほど、紙面に紹介しますが、ヘブロンでガイドして下さった、ユダヤ人は、名前も忘れてしまっていました。
しかし、購入した本、( Hebron4000years&40 ) の作者の写真が、よく似ているのでもしかしたら、この人だったのかと、思ってメールしました。
Noam Arnon 氏でしょうか? 
ユネスコの決議には、非常に腹立たしいものがありますが、このことも、皆さんに紹介したい、アップデートな記事となる事でしょう。
お忙しいところ済みませんが、宜しくお願いします。

こちらこそ、ありがとうございました。あの日ガイドしてくださった方は、ノアムさんではありません。ラビ・シムハという方です。ヘブロンコミュニティのツアー関連の管理者だそうです。http://en.hebron.org.il

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