4日朝、イスラエルは、「北の盾作戦」と称して、北部レバノンからイスラエル領内に続く地下トンネルを破壊する作業を開始したと発表した。
これにより、レバノンのクファル・キラ村からイスラエルの町メトゥラに向かって掘られ、イスラエル領内に40メートル入り込んでいたトンネルが摘発され、破壊された。メトゥラの居住地からはまだ十分遠いので、住民への危険はないと、イスラエル軍は発表している。
イスラエル軍によると、トンネルの全長は200メートル、深さ25メートル、高さ2メートル、幅2メートルで、ハマスのトンネルより、かなり大きい。トンネル内部には、通信機能が備えられており、現実に使用中のトンネルとみられる。他にもトンネルはあるが、今の所、使用中だったのはこのトンネルだけとのことである。
レバノンとイスラエルの国境は、地盤も硬く、基本的に砂の南部ガザより、地理的に険しい。トンネルをここまで掘るのに2年はかかったとみられる。
心配されるのは、レバノンからの反撃だが、イスラエルのメディアによると、イスラエルは、作業に関して、イスラエルとレバノンの間を監視するUNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)に事前連絡しており、UNIFILを通じて、レバノン側にも連絡されていたもようで、今の所、国境の平穏は保たれている。
ヒズボラの地下トンネルについては、今発見されたのではない。ずっと以前から、地域住民が地下での掘削の音を聞いていたし、イスラエル軍も、やがてヒズボラが、北部国境の町に侵入して、ガリラヤ一帯を占領しようとしているという情報は把握していたのであった。
ではなぜこのタイミングかだが、ロシアがシリアの対空能力を上げていることはじめ、以下のようなことが発生し、北部情勢が、変わりつつあるということがあげられる。
1)イランからレバノンへ民間機で武器直送で緊張
シリアの内戦が終焉し、ロシアからイラン、イラク、シリア、レバノンと、地中海まで地つづきでつながるという状況になってきた。イスラエルにとってはきわめて危険な事態である。ロシアも加わって、北から一気に攻撃される用意ができたようなものだからである。
このような中、11月29日、軍事物資を満載しているとみられる民間機が、イランから、イラク上空を通って、レバノンのベイルートに到着した。アサド政権が、シリア上空の支配権を取り戻したことで、イランはレバノンまでの空路を使えるようになって、ヒズボラに武器を空輸できるようになったのである。
www.timesofisrael.com/tehran-beirut-cargo-flight-sparks-concerns-iran-arming-hezbollah-directly/
これまでイランは、武器をいったんシリアに搬送し、そこからヒズボラへ搬送していた。このため、イスラエルは、武器がまだシリア領内にあるうちに、破壊することができた。これについては、ロシアがシリアの地対空防衛能力を強化したことで、今、かなり困難になったといえる。
この上に、軍事物資が、イランから空輸で直送されるようになれば、ヒズボラの武力は一気に高まり、懸念されてきたイスラエル北部への侵攻作戦が、いよいよ現実味をおびてくることになる。トンネルは今のうちに破壊しておかなければならない、ということである。
幸い、アメリカがイランへの制裁を再開してくれたので、イランは資金不足に陥っており、ヒズボラへの武器搬入は、かなり制約されているとみられる。
2)ヒズボラの脅威:精密な誘導ミサイル導入
イランからレバノンへの武器の直送を受けて、イスラエル軍は、ベイルートの飛行場の上空写真とともに(イランからの空輸は把握しているという意味)、アラビア語にて、「レバノンは、イランからの飛行機を受け入れるべきではない」との警告を出した。言い換えれば、これを続けるならイスラエルは攻撃するということである。
すると、ヒズボラは1日、「イスラエルが攻撃してくるなら、テルアビブを攻撃する。」と告げるプロパガンダ・ビデオをアップしかえしてきた。テルアビブやイスラエル軍を標的にしているというような、心理作戦をねらったクリップである。
これに対し、イスラエル軍は、「草の家に住む者が石をなげるべきではない。」との声明を出した。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5417749,00.html
ヒズボラはすごんでいるが、実際にはイスラエルを攻撃することはないとみられている。トンネルの存在が明らかになった今、もし、今ヒズボラが攻撃を開始すれば、イスラエルにレバノン領内のトンネルをも破壊する道理をあたえてしまうからである。
しかし、今回の北の盾作戦により、ヒズボラのイスラエル北部への侵攻は防いだとしても、本来の脅威、15万発もあるみられるヒズボラのミサイル攻撃の可能性はそのままである。
シリア内戦が終焉に向かっている今、ヒズボラの脅威は、いよいよイスラエルに向けられるようになってきているので、ヒズボラが、ミサイルを撃ち込んで来る可能性はあると懸念する分析家もいる。ヒズボラが、すでにイランから精密な誘導ミサイルを入手しているとの情報もあり、非常に危険である。
<アメリカとの協力:ポンペイオ米国務長官と会談>
ネタニヤフ首相は、3日、北の盾作戦開始に先立ち、急遽、ブリュッセルのNATO本部を訪問中のポンペイオ米国務長官を訪問し、厳しい北部情勢についての報告を行った。
ネタニヤフ首相とポンペイオ国務長官の会談の内容に関する発表はないが、レバノンがイランからの武器直送受け入れをやめないなら、イスラエルはレバノンを攻撃すると伝え、レバノン政府に圧力をかけるよう、要請したとも伝えられている。
中東情勢においては、今はアメリカよりロシアの方が影響力がある。これまでのところ、イスラエルは、シリア領ないでのヒズボラへの武器搬送を阻止する攻撃を続けるため、シリアで実質支配力のあるロシアの、黙認を得なければならなかった。
しかし、今や、ロシアによって、シリアの対空能力が高度化したことや、ヒズボラへの武器が、イランから直接空輸になるとなると、もはや、シリアでこれを阻止することができなくなる。となると、もはや、ロシアに取り入る時代は終わり、頼れるのは旧友アメリカということになるのかもしれない。
<石のひとりごと>
シリア内戦がアサド大統領の勝利で終わるみこみとなり、サウジや湾岸諸国の変化も合わせて、中東が大きく変わり始めている。いよいよイスラエルの北からロシアを筆頭としてイランを含む大軍勢が、イスラエルに攻め込むゴグ・マゴグの戦いの形が、形作られているようで緊張する。
イスラエルはそれに勝利するのであろうが、大変な被害が出ることだろう。主のあわれみが、イスラエルとその周辺諸国の人々にあるように・・